8 逮捕されるなんて!
「またいつか、この三人でご飯を食べましょう。約束です」
「……うん」
私が了承したあと、頭を上げてくれたジュリナさんを向かって約束事をした。いずれかは三人でご飯を食べようという約束をした。だけど、約束されたジュリナさんの表情は浮かばない様子で、諦め付いている乾いた笑いさえ出している。
このまま二度と合わないのは、いつか絶対後悔するだろう。私も後悔したから同じ轍は踏んでほしくない。
「それじゃあ、村長に挨拶しに行ってきます……また会いに来ます」
西に出ている太陽は窓から入り、私達を照らしていた。照らされている窓を見ると雲一つとない空がある。ただそんな良い世界に反して、この呪われた家には淀んだ空気が蝕んでいるようだった。それに蝕まれていたのか、彼女は何も返事をせずにただ私を見つめている。
「……弱ったな。勢いそのまま家から出ていったけど、村長の家知らないぞ。今日に限って人通りも少ないし……」
ジュリナさんと母を重ねてしまったせいで、嫌な記憶から逃れるように出てしまった。ジュリナさん宅に戻っても良いけど、バシッと決めておいてプライドが許せない。
お、やっと人を見っけた。なんだかフラフラしていて調子が悪そうだけど、大丈夫……あ、倒れた。受け身取れてないし怪我してそうだな、様子を見に行かないと。
「あのー大丈夫ですか? 医者やっているのでケガとか見れますよ」
「えっ、いや」
倒れた人の近くに駆け寄ると、その人は女性のようだ。遠目からはスタイリッシュな服装で、大剣を背中に付けた男冒険者スタイル。魔法のある世界だと冒険が一般職業なるんだろうかな。
短髪の格好良さに対して、彼女はかなり緊張していて目を見開いたり、はたまた勢いよく閉じたり……心ここにあらず、と一言で表せてしまう。
「だ、大丈夫だ……気にしないで良い」
明らかに大丈夫じゃなさそうな様子で言った。本人が気にするなって言うなら、これ以上関わるのは辞めたほうがいいな。
「まあ、とりあえず手貸しま──
「や! やめろ!! 触るな!」
手を差し出そうとしたが、彼女は叫ぶ! 彼女の大声は脳にキーンと響き渡る! 学生時代に悪ふざけで聞いた黒板に爪を立てた音だ。そんな耳障りで甲高い音が村中に響いたようで、人通りの少なかった道は人であふれかえった。
この状況……ヤバくないか?
「やめろ……やめろ!」
傍目から見えたら加害者じゃないか。本当にマズイ。
「自警団の者なんですけど、なにしてはるんです? ちょいと来て下さい……グランさん大丈夫ですかぁ、大切に守り通すので安心しなさいなー」
「っう、あ、ああ」
……自警団らしいベチャベチャした男に怯えている。肩に手を回された瞬間、過呼吸気味と身体の強張りを彼女は発症した。女性にとっては味方のはずだけど、いや犯罪者(仮)が言うべきじゃないか。村長に会いに行くハズだったのに、なんでこんな目に……
「留置所壊れとるんでー村長宅に行きやすね。ではまた! グランさん!」
助けられた当の本人、グランは手足は震え続けている。逮捕されかけているのに冷静に分析すべきじゃないのに、どうにも気になる。