7 別居だなんて!
少女の姿は異形まででないが、様子がおかしい。子どもと言えば、ぷにぷにした脂肪が特徴に上がる。しかし目の前の少女は無だ。まさしく必要最低限の肉。太陽に当たらず、身体を動かさないとあんな姿になってしまう。
顔はどことなくジュリナさんと似ている。ゲームのような彫りの深さだ。ただその美しさは、おかしい姿に拍車を欠けている。
私もそこそこ暗い過去はあったけど、親に殺されかけたという酷い状況ではなかったな。ネグレクトとか、給食費渡してもらえなかった程度だ。かと言って子どもだからと、記憶力をなめてはいけない。私だって、子どものとき体験した周囲の冷ややかな視線は忘れたことはない。
……まあ、観察はここまでにしておく。疲れているジュリナさんを起こして解読して貰わないと。
「お疲れのところ申し訳ないのですが……この文字を読んでほしいんです」
「……うん、お母さんと暮らしたくないって書いてあるわ」
そうジュリナさんは、いつもよりトーンを落として答えた。その答える雰囲気は悲しげであるより、当然だとでも言っているようだった。客観的に見ても、離れるべきと思えるけど、可哀想に見えてしまう。
「あの子は賢い。字も学んで、こんな親と暮らしちゃいけないってことも分かっている。本当に賢くて良い子ね……」
再びうつむきながら言った。ジュリナさんも子を想っている。……少し道が違えば、一緒に食卓を囲う家族だったんだろうな。
『一緒にご飯食べたいって? 冗談よしてよ』
勇気を出して言ったのに、それを私の母は簡単に取り払った。今ですらそのセリフは心に残っている。小学生の頃、周りのクラスメイトが家族と食卓を囲うって話を聞いたときは衝撃だったなあ。カップラーメンとか冷凍食品を、一人で食べていたのが日常の自分には想像もできなかった。
小学生の記憶は、それと給食費渡せと言われてたくらいだ。
「あの、村長に空き家あるか聞いてみたらどうでしょう。それと、ちょっとお願いが……」
感傷に浸っている場合じゃないな、今はカーロちゃんのことに集中しないと。私に問いかけてきたジュリナさんへ身体を向けると、こちらを見上げ言葉を続けた。
「わたしの代わりに、あの子の親になって下さい。あの子には愛情が必要です。一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、一緒に遊ぶ……今のわたしじゃ出来ないことを、どうか」
ジュリナさんはうつむいたのではなく、頭を下げた。同じく下を向いているけど前向きに見えた。……愛情か。親から貰えなかった奴が、子どもにあげるなんて面白い話だ。
「医者としてなら良いです。でも、あくまで親はあなたしかいません」
カーロちゃんと一緒に住む、のが一番ベストだろう。なんというか不穏な感じがしてやまないし、医者としてでもなく見過ごせない。ジュリナさんは少し悲しげに、ありがとうと答えてくれた。