6 治療成功なんて!?
それなりにジュリナさんは落ち着いたのか、すすり泣く声が薄まった。
「……この絵を見て下さい。私の娘、カーロが魔法を使っていたようなんです。それも大人でも発動が難しい魔法を」
黒鉛しか描けるものはなかったはずだったのに、なぜか鮮やかな色付けが施されていた。魔法、としか説明出来ないがなんと便利なものだ。
ジュリナさんが別の紙にすり替える。次の紙は、大人の男性つまりジュリナさんの夫が魔法を使っている場面だ。ただ恐ろしいところは、それを受けているのは赤ん坊のカーロちゃんである。
「わたしの夫は、この村で一番の魔法使いでした……その地位に執着して、娘さえも殺そうとしたなんて……」
自分の娘がチョー天才だったとしても、その地位が揺らぐことなんてないと思うが。
バタン! とジュリナさんは音を出し、立ち上がった。それは鬼気迫る、殺気が溢れんばかりの表情だ。
「会いに行かないと……!」
「え、いやジュリナさん! それは辞めたほうが良いですって!」
なんとか全身を使って止めようとしたが、まったくの無力だった。どうやら農家vs医者は相性が悪いようだ。しかし、本当にマズイな。急に母親が距離を詰めてくるなんて、カーロちゃんにとって精神的負担が大きすぎる!
「これは……」
二階へ上がり目に入った光景は、閉ざされた扉の前でうつむくジュリナさんだった。入ってほしくない、という意思表示を見るのは辛いだろう。娘の真相を知り、今すぐ娘に会いたい気持ちも分かるが。
「……望月くんは入っていいって」
彼女の手には紙が握られていた。入るな、という娘からの直筆メッセージ。見ているこっちが辛くなってしまう。
うなだれるジューナさんの隣を通り、指示通り私だけ部屋に入る。
先ほど見た陰鬱な部屋と異なり、その部屋は太陽が入り明陽な空気がある。そしてみすぼらしい少女が、異空間へものをしまう異様な様子。それと空中に置かれている一枚の紙には、まだ読めない文字が刻まれていた。
「この紙は、お母さんに見せても大丈夫かい?」
「……」
少女は頷く。思慮浅く、答えは簡単だと行っているように思えてしまった。この暗い部屋を明るくしたい、という私の目標は叶った……はずだけど、感触のない物を殴るかのような不安は拭えない。
今は文字の解読を頼むことにしよう。