5 奇怪な文字なんて!
「私はお医者さんの望月って言うんだ。君にお外は楽しいよって伝えに来たんだ」
悪いものを治すと言うのはNGだ。遠回りだろうが「あなたは駄目だ」と言っているのと同じ。小さな子供と言えどもなんとなく理解できる。
「……」
言葉での返答はなかったが、目を合わせ大きく頷いてくれている。言葉は話せないらしいけど、きちんと言葉は理解できている。
ロウソクで周りを見ると、やけに難しそうな本があった。……待てよ? 異世界の言葉なんて分からないじゃないか。
「その本、見てもいいかな?」
「……」
彼女が頷いてくれたのは良かったけど、表紙のタイトルから理解不能だ。中身もペラペラ見ようとも意味不明だ。ジュリナさんから教わらないといけないな。うんうんうなっていたせいで、目の前の少女は不安げに見える。まだ絵で会話できる。大丈夫だ。
「お外には太陽っていう物があってね。緑の植物もいっぱいあって、水がいっぱい広がっているんだ。そういう外に出てみたい?」
「……」
事前にもらっていた紙と黒鉛で太陽と木、そして海を描いた。……が彼女にとって意味がなかったようだ。彼女はそれ以上の知識があるらしく、空を飛ぶ鳥や牛を書き加えた。とんでもないくらいの賢い子供じゃねーか!
「……」
まだ何か書き加えているみたいだ。男女……いや夫婦と子供が紙に描かれた。さらに少女は一心不乱に絵を書き続け、ロウソクは最初の半分ほどの長さになってしまっていた。
「……」
「えっと、この絵くれるの? ありがとう」
重ねた紙を私に向かって差し出してきた。一番上に置かれた紙には、奇怪な記号が書かれて当然のごとく読めない。ゆらゆらとロウソクの火と時間だけが流れる。そんな私を察してか、少女は記号と夫婦を結んだ。見せてこいという意味だ!
それなりの成果は得たので、ジュリナさんが待つ一階に戻る。ファースト・コンタクトのときも、私を助けてくれた少女だ。本人が望むなら外を知ってほしい。
「絵を描いてくれたんですけど、どういう意味なんですかね? お母さんなら知ってますか?」
少女が描いてくれた絵は謎が多すぎる。夫婦が大荒れしている絵と文字、家に一人ぼっちの少女と働いている女性、そして男性……まぁ夫が出ていった絵、そのようなものが10枚はある。絵と言っても、大半が文字だから理解に苦しむ。
しかし、なにやらジュリナさんの様子がおかしい。嗚咽、呼吸の乱れ、紙を持っている手も震えている。
「っっ!」
……その果てには涙を流してしまっている。真相判明まで時間はかかりそうだ。冷めたコーンスープでも飲みながら、ジュリナさんが落ち着くのを待つか。