11 いきなりグランなんて!
私はカーロちゃんとともにシングルベットに身を置きながらあることを考えていた。今後どうするかよりも、あのナゾの村長についてだ。今更ながら思ったのだが私は自己紹介をしていなかった。なのにあの人は、もうすでに私の名前……いやそれ以上の過去でさえ知り得ていたんだ。
「はぁ……今日だけは月明かりが鬱陶しいな」
勝手に個人情報を探られるというのは心底気分が悪いみたいだ。病院で勤めていたときは、きれいな月と明かりを心の支えとしていたのにな。先程の出来事があったせいか、絶妙な光源がうざったらしく感じる。
「……」
ツンツンとカーロちゃんが私の腕に触れてきた。そして月明かりは消え去った。
あー、うん。もしかしてこれも魔法なのかな? ねえカーロちゃん?
「ありがとねカーロちゃん。多分だけど、君は魔法の大天才だと思うよ」
「……」
今度は身体全体を使って絡ませてきた。信頼されていて嬉しいというよりも、骨と痩せた肉体の感触が悲しい気持ちにさせた。せめて私だけでも心の隙間に寄り添いたい。
彼女の笑顔……いつか年相応で見せられたら良いな。真っ暗な部屋の中、私はいつの間にか夢に身を落としていたみたいだった。
「……ん? もう朝なのか」
朝日が小窓から私達を照らす。それを感じてようやく朝になったと気づいた。カーロちゃんはまだ寝ているようで、スヤスヤと心地よさそうな表情を浮かべている。頬が少し痩けているのを除けばだけど。
すると私が目覚めたことを知っていたかのように、私を呼ぶ声と扉を叩く音が聞こえてきた。全ての展開が都合良すぎるんじゃないかな。
「はい、どちら様ですか……って村長さん」
「ほっほ、昨日は少し月明かりが鬱陶しかったようじゃな。さてお主には少しやって欲しいことがあってのお?」
と言いながら村長は、私が開けたドアを強引にも押しのけ家の中へ入ってきた。いやそれよりこの村長、また俺の心……心って言うより、過去も未来も見通しているのか?
「未来予知なんぞ魔法は持っとらんぞ。持っておったらグランはこんな現状になったらんじゃろ。……ま、そんなこと置いておいてな? ワシの願い事聞いてくれたらな部屋を広くしてやろうと思ってだな」
当然のように心が読まれている……ウチの魔法使いことカーロちゃんもいつかソレ使ってくるのかな、困っちまうよ。
「部屋を広くするよりもまずは、あのシングルベットをどうにかする方が先決じゃありません? まあ良いですよ、なにをすれば良いんですか?」
私が先程寝ていたベットを見ると、カーロちゃんがこじんまりとした様子で布団に包まっているみたいだった。確か少女の年齢は12歳と聞いていた。年頃のきっかりとした女性である、だからこそシングルベットはよろしくないはずだ。
「うむ良い選択じゃよ。それでお願いというのはだな、この部屋でグランの治療を請け負ってほしくてだな……というか、もう連れてきちゃったから後はよろしくな!」
はあ?! おいおいちょっと待て、と言うより先に見覚えのある人物が現れた。そう村長の子グランだ。あのトレードマークである大剣は背負っていないが、コスプレのような冒険者衣装はあのとき見たのと一緒だ。
「椅子と机は生成しておく、まーゆっくり話しくれ。グランは体調が悪くなったら伝えてくれな?」
「ちょっ」
村長は自分の役目は終えたと言って、やけに小洒落た椅子と机が目の前に現れた。代わりに村長の姿は見えなくなったけれど。どうにもあの人相手だと調子が狂ってしまう。
「……あ、座ってどうぞ」
「……ああ」