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話を聞き終え、白河老人に挨拶をすると凛は「東峰かがやきの丘」を後にした。

バスに乗っても気持ちがしゃきっとしない。バスと一緒に心も揺れている。

 (僕の、想像が当たっているなら――アンジェは僕と同じおじいちゃんの孫だ)


 凛はふと「オズの魔法使い」を思い出した。雪之助がお気に入りの映画。

 (ああ――そうだ――そうか――あの歌は)


 Somewhere over the rainbow

 Bluebirds fly


 Birds fly over the rainbow

 Why then, oh why can't I? ……



 どこか虹の向こうに青い鳥達の飛ぶ場所がある

 鳥たちが虹を越えていけるのに、どうして自分にはできないのか




 凛が自宅にもどるとすでに日は沈みかけていた。夕食を適当につまみながら終えると居間の雪之助の写真を手に取る。固い表情からは読み取れない、在りし日の記憶。

 (おじいちゃん――)


 有栖川雪之助という、男。


もう一人孫がいると知っていればどんな顔をしただろう。

写真を持ったまま自分の部屋に戻りカラカラとベランダを開けた。空は春の星宿へと変わり始めている。


 「シグナス」

 凛は腰をおろすと立てかけてある箒に向かって話す。

 「シグナス。知ってたんだろ、アンジェと僕の関係」

 「わいはなんもしらへんよ」

 「うそつけ」

 「ほんまほんま。たしかに二人ともシリウスの加護を受けとるけど、知り合いなんかなぐらいにしかおもてなかったで」

 「なんで同じ星だってわかっててだまってたんだよ! 最初から知ってれば……」

 「知ってたら、なんか変わるん」

 「……」

 「わるい、言いすぎたわ」

 「……おじいちゃんは、メリッサって人に会いたかったんだと思う……」



 鳥たちが虹を越えていけるのに、どうして自分にはできないのか



 凛は突然すっく、と立ち上がった。

 「な、なんやねん凛」

 「シグナス、場所知ってるんだろ、いくぞ!」

 心の深淵よ! ――凛が叫ぶといっそう輝きを増した心の深淵があらわれ、リトル・ウィッチへと変身する。渚を浄化したことでさらに力が強くなったのだろう。青い光が眩しい。

 「――アンジェはこない……ならこっちからいくまでだ!いこう、イギリス、ロンドンへ!」

 そういって空へと飛び出す。


 (――おじいちゃん――僕なら越えていける――虹の彼方へ。ずっと恋い焦がれただろう、イギリスの地へ)


 「ええ、まだ八時やで! ええんかいなもう」

 シグナスはぶつくさたれながらも西に進路をとって、雪之助の写真を抱えたままの凛を乗せ最大出力で空を飛んだ。

お読みいただきありがとうございます!

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