魔王顕在8
大きなトカゲ的な頭。裂けた口の中には細く鋭い歯が並び、後ろ向きに生える四本の角を持つ。
次いで長い首が現れ、胴体も出てくる。小さく、蒼い色をした鱗が全身を覆っていた。両腕が翼に変化していて、翼を畳んだ際の、『肘』の辺りを地面に付ける。身体の割に細めの両足と共に自重を支え、四足歩行をしていた。
臀部から伸びた尾は体長ほどの長さがあり、ぶらんぶらんと揺れ動かしている。武器として使ったり、体幹を維持したりするための動き……ではない。子供が手遊びするような、奔放な衝動で動かしているのが見て分かる。
何もない空間から、まるで舞台裏から現れるかのようにスピカ達の前に姿を見せたのはワイバーンだった。容姿だけで言えば、特筆すべき点は特にない。極々一般的なワイバーンだ。されど違いも少なくない。
誰にでも分かる違いは、大きさ。スピカが倒した一般的な個体の倍程度、三十メトルはあるだろうか。ドラゴン類の特徴として、生きている間はずっと生長する点が挙げられる。大きくなればなるほど大量の餌が必要になるので、天敵がいないドラゴンとしては、自分の身体を賄いきれなくなった時が『寿命』と言えよう。つまりこのワイバーンはかなり長い間生き、その間ずっと十分な餌を食べ続けてきた事になる。
それだけでも奴の強さは十分窺い知れる。加えてもう一つ、このワイバーンの恐ろしさを物語るのが雰囲気。
「(油断、してる……!)」
こちらに敵意を向けるでもなく笑い、全く集中していない姿は油断そのもの。
野生の獣は油断などしない。一瞬でも気を抜けば、天敵などに襲われて喰い殺されるのだから。例え頂点捕食者であろうとも、生まれた時は普通に喰われる側であるため、成体になってもその警戒心は失われない。
しかしこの警戒心は、必ずしも本能という訳ではない。例えば牛などの家畜や、犬猫などの愛玩動物の中には警戒心がとことん薄い個体もいる。彼等の大半は飼い主に(家畜などはその後肉にされるとしても)大事に育てられ、何一つ脅威を感じない生活を送るものだからだ。脅威がないのだから、警戒なんて疲れる真似はしない。腹を上にして寝て、物陰に隠れもせず、目の前の餌をのんびり楽しむ。危険がないのなら、それが『合理的』な行動なのだ。
言うまでもなく、目の前のワイバーンが誰かに飼われている訳がない。ならばこの個体は自然界の中で生きていて、なのに脅威が何一つ存在しなかったという事になる。腹を見せて寝ても、何も恐れる必要がなかった経験があってこその油断。
二つの特徴から考えるに、このワイバーンは、一般的なワイバーンを遥かに凌駕する強さを持つ。それも経験として蓄積し、ここまで大型化するまでの長い間力を維持してきた。更にこれまで姿を隠していた(恐らく蜃気楼のような現象だろう。空気の揺らめきにより光が屈折して見えなくなっていたのだ)点からして、条理を逸した力……『魔法』まで使える。
そんな個体がいるとすれば、スピカが、そしてこの場にいる誰もが、知る限り一体のみ。
魔王。
ついにこの戦いを引き起こした元凶、魔王が現れたのだと、全員が理解した。それと同時にスピカは確信する。
やはりコイツが、自分の故郷と家族を焼いた元凶だと。
「キャーッ、キャッ、キャッ、キャッ」
魔王は姿を見せてからも笑う。楽しそうに、愉快そうに。
獣達も人も殺され、同種であるワイバーンも倒れていた。しかし魔王は怯えもしないし怒りもしない。笑ってばかりで、心からこの惨状を楽しんでいる。
まるで自分だけは関係ないと言わんばかりに。
だが、関係ない訳がない。既に周りの兵士達はこの横柄な怪物を包囲し、戦う準備を整えている。『勝利』から得た喜びの感情を胸の奥にしまい込み、闘争心と怒りで立ち向かう。
「総員、気を引き締めろぉォ! この個体を魔王として、此処で討伐する!」
更にカペラが雄叫びのような声で、兵全体に指示を飛ばす。
敵意と恐怖を一身に受ける魔王。だが、当の魔王自身はなんとも暢気なものだった。
「キャキャー……キィィ」
一通り笑った後、魔王は頭を左右に交互に傾ける。
それから大きく口を開け、欠伸のような動作を取る。翼の先にある爪でちょいちょいと顔を掻き、未だ警戒心を抱いてすらいない。
あまりの暢気さに、兵の一部が呆けたような、困惑したような反応を見せる。油断こそしていないが、思っていたのと違うと感じたのだろう。
「砲兵! 攻撃を開始しろ!」
「騎士団も援護を始めろ!」
だがカペラ達指揮官は油断も手加減もしない。帝国軍は砲兵、つまり大砲の使用を命じたのだ。カペラもその援護を命じる。
指揮官の声に応じ、後方に控えていた砲兵部隊と一部の騎士団員がついに動き出す。これまでは対魔王への温存と、前線が混戦状態だったため迂闊に使えなかった人類の最新兵器。しかし暢気にも人間達から少し離れた位置に、動きもしないという理想的な状態で魔王は現れた。正に活躍の時である。
砲兵達は大砲の向きを微調整し、魔王に狙いを定めた。魔王はといえば、相変わらず能天気な様子。人間が何をしているかなど、興味もないと言わんばかり。
ここまで余裕を見せ付けられると、不気味さも感じてくる。包囲する兵士達の顔に不安の色が出てきた。
しかし恐怖に負けて攻撃を止めるような腰抜けは、此処には一人もおらず。
「撃てぇ!」
カペラの号令に合わせ、爆音が轟いた!
後方に並んだ大砲の数はざっと二十ほど。それが一斉に火を吹き、巨大な砲弾を飛ばす。魔王と大砲の間には距離があるため、砲弾が飛んでいく様は誰の目にも見える……勿論魔王にも、だ。
しかし魔王は微動だにしない。
やがて大砲は魔王の身体を直撃――――した筈だった。
だが実際には、魔王の身体の少し手前で砲弾は爆発している。比較的魔王の近くにいたスピカの目には、そう映った。
「……え?」
何かの見間違いだろうか。そう思ってスピカは目を擦り、再び魔王を見る。
二発目の砲弾も魔王に直撃、しない。僅かに離れた空中で爆発を起こしていた。三発目も四発目も同じ。
どの大砲も魔王に当たってすらいない。
大砲が効かない生物なんて、この世界にはいくらでもいる。以前戦ったバハムートが正にそうであるし、大砲染みた攻撃をしてきたスライムやキマイラにも効かないだろう。ワイバーンに大砲を喰らわせたという話は聞いた事もないが、大型ドラゴンである事も思えば、華奢な身体とはいえ恐らく耐える。だから魔王に大砲が効かないだけなら、驚きなんてない。
だが、当たらないとはどういう事なのか。
その結果は他の兵士達にも見えていたようで、どよめきが周りで起きる。何が起きたのかと、疑問に思っている様子だ。
スピカがその光景を理解出来たのは、先日のミノタウロスとの戦いがあったから。
「(あれは、風の守りを纏っているのか!)」
ミノタウロスも魔法で引き起こした風を身体に纏い、鎧のように扱っていた。
魔王の場合も恐らく空気を魔法で操っている。突風がものを破壊するように、強力な風を起こして砲弾を破壊したのだ。
理屈は分かった。だがスピカは納得が行かない。大砲の直撃すらも防ぐ風を、なんの苦もなく生み出すなんて……あまりにも不条理が過ぎる。
「スピカ! 何か策はないか!? あれではこちらの攻撃が通らない!」
唖然とするスピカに、カペラが強い口調で呼び掛けてきた。そこでスピカは我に返り、自分の役目を思い出す。
そうだ。自分は魔王を打倒するための作戦を考える、冒険家として此処にいるのだ。
やるべき事を思い出せば、思考も多少なりと纏まる。何を考え、どのような結論を出すべきか。それだけあれば作戦は練れるのだ。
正しいという保証はない。だが、前に進まねば……魔王は倒せない!
「……ミノタウロスもワイバーンも、魔法は使っていたけど身体そのものは普通の生物だった。炎で焼かれれば焦げるし、風で傷付きもする」
「ああ、確かにそうだな」
「なら、あの魔王も同じだと思う。大砲は風の守りで防いだけど、言い換えれば直撃したくなかったに違いない。ワイバーン自体が大砲で死ぬとは思えないけど、翼の皮膜ぐらいなら破れそうだし。風の守りさえ剥がせれば……」
「だが、どうやる? 爆発で吹き飛ばそうにも、大砲すら通じないぞ」
カペラの指摘に、スピカは言葉を詰まらせる。
ミノタウロス相手には小麦粉を用いた爆発で、どうにか対処出来た。しかし魔王が纏う風は、大砲すらも防いでいる。生半可な衝撃ではビクともしないだろう。
あれをどうにかする方法なんて、全く思い付かない。
「……駄目、まだ思い付かない……!」
「分かった、無理しなくて良い」
妙案が浮かばない旨を告げると、カペラは優しく制止した。役に立てなくて申し訳なく思うスピカに、カペラは微笑みすら返す。
「元より、奴の討伐は我々の仕事だ。お前としては仇討ちをしたいだろうが……我々が倒させてもらう」
そして力強い言葉を、スピカに投げ掛けてきた。
カペラは次いで傍にいた部下に視線を向け、小声かつ口早に何かを伝えた。スピカには聞き取れなかったが、部下はすぐに理解したようで、こくりと頷くや駆け足で何処かに走り出す。
それを見送るや、カペラは剣を高々と掲げながら叫ぶ。
「騎士団総員に告ぐ! あの守りは恐らく魔法の風によるものだ! 何処かに隙間があれば剣は通る! 疲弊すれば魔法の力も弱まり、或いは暴走するかも知れない! そうすれば勝機はある!」
「「「おおおおおおーっ!」」」
カペラの号令に、騎士団達は咆哮で答える。
カペラが真っ先に駆け出し、騎士団員達も勇猛果敢に突撃する。帝国兵も向かい、何百もの大軍勢が一体のワイバーンに迫った。大砲を操っていた砲兵は、兵達の接近と共に攻撃を中断。しかし何時でも再開出来るよう、大砲の整備は怠らない。
魔王との決戦が始まる。
魔王はスピカにとって親と故郷の仇だ。あの見た目、笑い方……全てが記憶の通り。今度こそ間違いない。
カペラ達に続いて、戦おう。スピカはそう思う。いや、思おうとしている。けれども足が震えて動かない。恐怖が、胸から吹き出した感情が、身体を縛り付けていた。
しかし幼少期の恐怖が蘇った訳ではない。
スピカは察してしまったのだ。魔王がどれほど恐ろしい存在なのかを、本能的に。そしてそれはスピカの傍にいたウラヌスも同じらしい。勇猛果敢を通り越した彼女ですら、一歩と動かずに魔王を眺めるばかり。
二人はただ、魔王を遠目で見るだけ。それが良かった。
そうでなければ、死んでいたから。
「キャキャキャキャ……キィィオオオオオ」
笑っていた魔王は、唐突に深い息を吐く。
その目が向くのは迫ってくる兵士達。
数多の獣を屠った強豪な戦士が何百と押し寄せていく。この大軍ならば、ドラゴンの一頭二頭は軽く葬る筈だ。なのに魔王は怯みもせず、ただ翼の先を向けてくるだけ。
それだけで何が出来るのかと、普通の生物相手ならば言えただろう。
されど魔王にとっては、これだけで十分なのだ。
「キィアッ」
軽く上げたであろう鳴き声と共に、魔法が発動するのだから。
翼の先で、くるんと白い何かが渦を巻く。
何が起きる? 遠目で見ていたスピカがそう思った次の瞬間、渦巻きは一気に膨れ上がった! 更に何百メトルと伸び、直線上の全てを巻き込む!
風の魔法だ。ミノタウロスが使っていたのと同じ技だが、しかし規模があまりにも違う。風の流れは『色』が見えるほど激しい。そしてその回転に触れたものを次々と巻き込む。
無論、人間だろうと結果は変わらない。回転する風によってその身体はぐるんと回り、地面に何度も叩き付けられて――――
「うっ」
込み上がる吐き気。両手を口に当ててなんとか堪えるスピカだったが、無意識に後退りしてしまい、へたり込むように尻餅を撞く。
人間の亡骸なんて、冒険をしていればいくらでも目にする。スピカだって昨日まで話していた人の、中身が露わになった遺体を目にした事ぐらいあるのだ。目の前でばっくりと人が喰われるところも、全身に出来た水膨れが割れてどろどろに溶けていく人も、見ている。
しかしあんな、風で回され、生きたまま何度も叩き付けられる最期は想像した事もない。
「うおおおおおおおおッ!」
それでも兵士達は雄叫びを上げ、魔王に肉薄する。恐怖を闘争心で誤魔化しているのか、仲間の仇討ちに燃えているのか。
理由はなんにせよ、兵士達は魔王の傍まで辿り着いた。彼等が振るうのは獣達の身体から得た素材で作り出した、強靭な武器。生半可な鋼よりも鋭いそれは、ドラゴンの鱗さえも切り裂くだろう。
それは魔王も察したようで、大人しく切られてはくれず。大きく広げた翼を羽ばたかせ、ふわりとその場から浮かび上がる。
ワイバーン種なのだから空を飛べて当たり前――――しかしその当たり前は、人間にとって厄介極まりない。戦い慣れした帝国兵や王国騎士団ならばすぐに判断を切り替えられるが、それでもほんの一瞬思考が鈍るのは避けられず。
そのほんの一瞬があれば、魔王が次の魔法を放つのに十分な時間がある。
「キャアアアアアアァッ!」
楽しげに叫ぶのと同時に、猛火が地面から噴き上がる!
炎の魔法だ。炎の魔法自体はワイバーンも使っていたが、魔王は先程風の魔法も使っていた。魔王は魔物と違い、二種の魔法を巧みに使い分けられるらしい。
噴き上がった炎はまるで蛇のように大地を走り回り、兵士達を次々と飲み込む。熱さで藻掻き苦しむ彼等の姿を目にして、駆け寄れなかったスピカはますます動けなくなる。
「はあああああああっ!」
だが、その中で勇猛果敢に跳び出す女がいた。
カペラだ。仲間の協力を得たのか、彼女は人間離れした勢いで高々と空に跳び上がる。これには魔王も驚いたのか、空中での動きが一瞬止まり、カペラが肉薄。
そこで彼女は剣を振るい、魔王の身体に傷を付けた。
しかし魔王は切られる寸前、その身を軽く捻って回避している。付けた傷は鱗を一枚切っただけ。魔王の余裕は崩れない。
「くっ……!」
「キャアァアーッ! キャキャキャキャ!」
重力に引かれて落ちていくカペラを尻目に、魔王はまたも楽しげに笑う。そして更に空高く上がるや、ぐるりと身体を一回転。
合わせるように、地上でも風が起きる。
しかしそれはただの風ではない。風は空高く上がり、巨大な『渦巻き』を形作っていた。地上にいる人間や動物の亡骸を吸い寄せ、吹き飛ばしていく。
竜巻だ。
……一言で言ってしまえるものだが、そんな馬鹿なとスピカは頭の中で叫ぶ。魔物化したミノタウロスは風の魔法を使っていて、家々を破壊し、要塞を部分的にだが破壊した。それは凄まじい力であるが、しかし人間でも真似出来る程度のもの。大量の火薬と人員を用いれば、費用や労力を一切考えなければ、人間にも魔法と同じ事は出来なくもない、筈だった。
なのに、魔王が引き起こしたのは竜巻。
そんなのは人間の力の範疇を超えている。大自然が引き起こす現象であり、『世界』が持つ力だ。これを、魔王は大した労力も見せずに成し遂げたのである。
「ひ、ひぃいぃいいっ!?」
「わああああぁあぁああっ!」
竜巻は縦横無尽に動き回り、次々に兵士達を飲み込む。まるで風に舞い上がる落ち葉のように人が空を飛び……しかし落ちる時は人間のまま。何十何百メトルもの高さから落とされた人間達は、鎧と共に中身を弾けさせる。
竜巻は魔王を巻き込む事もなく、むしろその周りをぐるぐると旋回している。魔王が竜巻を操っている事は明白だ。自分の周りにいる人間を吸い込み、落とす光景に、魔王はまたゲラゲラと楽しげに笑う。
その殺戮の光景の中、誰かの涙のように空からぽつんと水が落ちてきた。
「……雨?」
スピカが独りごちつつ、空を見る。そのまま、呆けたように固まってしまった。
空に暗雲が立ち込めていたのだ。魔王が巻き起こした竜巻、丁度その上に陣取るように。
何故雲が? 混乱するスピカだったが、竜巻が巻き上げたものを雲が吸い込み、大きくなる様を見て確信する。魔王が引き起こした竜巻により、この暗雲を生み出されたのだ。
大きく育った暗雲は、ぽつぽつと雨を降らし始める。
びしょ濡れになって死ぬなんて、と嫌な考えがスピカの脳裏を過る。だが落ち着いて考えれば、これはむしろ幸運だ。魔法の炎が爆風などで消せる事は、魔物化したワイバーンとの戦いで明らかになっている。可燃物がなくとも燃え続ける以外は、魔法の炎の性質は、普通の炎とあまり大きな違いはないと考えて良いだろう。ならば雨が降れば、魔法の炎は無効化したと言える。
竜巻の力は未だ猛威を振るっているが、結果的に魔法を一つ封じた。これを利用して何か策を練れば……そう考えるスピカだったが、その思考はぴたりと止まってしまう。
バチバチと、空から弾ける音が聞こえてきたからだ。
「……………」
無言のまま、スピカは空を見上げた。
魔王が光っている。
バチバチという音と共に、その身から細長い閃光が迸っているのだ。ジグザグに飛び交う光がなんなのか、スピカにはよく分からない。だが、よく似たものは知っている。
雷だ。
落雷の予兆などで雲に走る稲光に似たものを、魔王はその身から発していた。あれもまた魔法なのだとすれば、魔王は炎と風の他に、雷の魔法を操る事になる。
三種も魔法を使うなんて。魔王の桁違いの『才能』を目にしたが、しかしそれよりもスピカを震え上がらせる事実があった。
とある冒険家から聞いた話曰く、雷は水を伝って遠くまで伝わるものらしい。それも一般的に数メトル程度、時には何十メトルも遠くに届くとか。
遠目で見ているスピカ達でさえ、魔王との距離はほんの五十メトルも離れていない。そしてこの場にいる誰もが、雨によってびしょ濡れになっている。
もしも魔王の雷が、地上に向かって放たれたなら……
「は、離れてぇぇ!?」
「そ、総員退避しろぉ!」
スピカが叫ぶ。次いでカペラの雄叫びが響き、慌てふためきながら兵士達が逃げ出していく。
だが、誰も間に合わない。ただ一人、素早くスピカを抱え、なおも人間離れした跳躍を行えるウラヌスを除いて。
「キャッキャーッ!」
無様な人間達を嘲笑う魔王は楽しげに鳴いて、
その身から降り注ぐ雷撃が、全てを焼き尽くした。




