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追い詰められてます。

 


 でもよく考えてみたら追い詰められる理由があるでしょうか?

 前世の記憶があります。なんて普通は信じられる内容ではありません。私、現時点で『変わった子』扱い受けてますしね!(ちょっと理不尽な気がしますが)

 ゲルト嬢にオハナシアイ仕掛けるつもりでしたが脅すつもりは……ちょっとしかなかったし。いや、だって、喧嘩売買後精算してなかったから解決はしとかないといけないかなって思うし。

 そう、私自分勝手に考えるにマリージア様に敵対行動とってはいないはずなんです。

 おーじさまに『えー、婚約者さまから脈なしなんじゃないですかー?』とか軽口は叩きましたが。

 なんかその度になんていうか王子様が婚約者であるマリージア様への執着を強めている気配が強くて私の中では『残念王子様』がびしびし確立していったんですよねー。いいひとなのは確かだし、おそらく優秀な方なんですよ。恋って怖い。

 まさかおーじさまの執着アップが敵対行為規範に引っかかるとおっしゃるなら謝罪一択かなぁ。


「げーむ、ですか……?」


 わからないふうをよそおう。


「ボードゲームやチェスでは『違いすぎる』とは言わないでしょうし、あのタイミングでゲルトさまがこぼした『ゲーム』の意図をアガタさまは理解なさっておられるようでしたから揺さぶれば答えて下さるかと思いましたの」


 ゲルト嬢本人にアタックしようよ!


「なにがいったい違いすぎるのか。アガタさまはご存知何でしょう?」


 アンタだよ。あんた。マリージア令嬢が違いすぎるんだって。本来の物語ではコミュニケーション能力がやたら低く、そのかわりとばかりに身分と魔力がやたら高い令嬢なのだ。

 で、本人にそれを言え? 

 無理。

 それこそなに言ってるのかわからないって対応が想定される。

 ひとつふたつ呼吸を整える。


「ゲームとやらがなにを指すのかはわかりかねますが、違いすぎるについては心あたりがございます。仮定に過ぎませんけど」

「かまわないわ。教えてくださいませ。アガタさま」


 誤魔化すためにのーみそフル回転して!

 うまく誤魔化させて!!

 がんばれ私の脳細胞。


「わたくしたち貴族令嬢が公式に表舞台に立つのは十五になる年の新年です。もちろんそれまでにお茶会や展覧会や学園内での交流会があると言えばありますけど」

「そうねぇ、あまり参加しておりませんね。私」

「参加なさっておられてもごく少数でのお茶会で他の方がおられても特に『マリージア』様とはわからない環境なのでは?」

「ええ。たぶんそうでしょうね」


 うふふとマリージア様が微笑まれます。おーじさまがハーレムは実質マリージア様のファンクラブとおっしゃってましたし、不用意に自分と『第二王子の婚約者』をイコールで結ばせない環境を構築なさっておられる。


「一部では『キズモノ令嬢』という陰口を囀る方々もおられますし、その評判をゲルトさまが信じておられたなら『違う』ともおっしゃるのではないでしょうか?」


 実際ゲームでは根暗な傷物地雷令嬢(主人公に呪いぶっかけてくる)だったはずですからね。


「傷はあるのよ。額にほんの少し。だから傷物令嬢は間違っていないわね」

「傷があるなんて見えませんけど」

「無法者にひととき拐かされたこともキズと言えばキズですものね」


 にっこり笑ってなにおっしゃっているんですか。公爵家令嬢!?


「一般的には陰口を避けて引き篭もられることや神の家へ引き篭もられる事案と言われているように思われます」


 醜聞だしね。責が令嬢になくともその手の問題が起こった際は令嬢が引き篭もってかつ警備担当者が首を斬られる(物理)という解決が残念ながら一般的だ。

 見方によっては幼い第二王子様のやんちゃに巻き込まれた公爵家令嬢を辺境領へ封じようっていう引き篭もり案件に見えなくもなかったりする。

 第二王子様に責があるから不本意なハーレムも受け入れなくてはならない罰のようでもあるな。

 今度おーじさまに聞いてみよう。


「なるほど。聞きかじった殿下の婚約者の印象と現実の誤差ですね。ところでアガタさま」


 お。やった。

 もしかしてなんとか納得してくださった?


「この世界、カードゲームはありますけど、ボードゲームはありませんよ。少なくともチェスには出会ったことがありません」


 背中をどっぱーーーとイヤな汗が流れ去っていく。

 にこりと笑って小首を傾げたマリージア様に私の呼吸は止まった。数秒ほど。




 私、がんばったんですけどーーーー!?





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