悪役令嬢のはずな
公爵令嬢マリージア様はずっと楽しそうににこにこしていてそこがちょっと得体が知れず引いた。
貴族令嬢が表情を読ませないというのは基本的礼法だったりはするけど、自身の婚約者に絡む他の女を前に笑顔全開はすこしひく。まだ十四歳なのに。
あ。
そーいえばおーじさまに興味なかった。この人。
おーじさまの愚痴からすらそれを理解できてたじゃない?
むしろ、業務的に実務に適したハーレム構築中だよね?
え。もしかしてあの接触&お茶会は所謂面接って奴?
まぁ、のんきに『恋する乙女は素敵』とごきげんでしたよ。お茶会中ずっと。
だから、なんとなく思ったことは彼女はまだ『恋』をしたことがないのだなと。そして恋に恋してすらいない。自分には無関係の他者の心の動き作用としてみているように私にはみえた。
ゲームではおーじさまだけを『特別』として『恋』し、粘着質に執着して他の女がおーじさまに接近すれば嫉妬して攻撃する呪い姫。顔に傷があると言われ、揺れの強い赤黒い髪を垂らし、常にベールをかぶって猫背気味に動く暗色ドレスの魔女。
実物はすっと背筋を伸ばしよく手入れされた暗い赤毛をハーフアップ。長いまつ毛に縁取られたエメラルドグリーンはいつか(前世)見た海の緑。超美少女ではありませんか。
確かに高位貴族って美人揃いだよね!
第一王子様の奥様(超美人)の妹さんだものね。美形なの普通だわ。というかおーじさまメンクイだったかぁ。
そんなことを考えながらベッドで腰を捻ったり足を伸ばしたりストレッチする。メープルに見つかると『奇行!』と叱られる奴ではあるが思考整理には最適なのである。たまに余計まとまらなくもなるけど。
機会があればゲルト嬢とオハナシアイした方がいいのかなぁ。ここがゲーム世界であるっていう共通認識を持つ相手として。
ゲームのメインストーリー的な流れとはもうずいぶん違うんだよね。
恋人候補としてのおーじさまはすでに攻略不可能。(なにせ婚約者のマリージア嬢に一途)
一応主人公であるはずの私はおーじさまを利用して本命(本人の想い無視で)をゲットしようとしているヒロインにあるまじき目標で動いているし。ゲルト嬢、たぶんモブだよね? 外見とか立場的にノベルヒロインとか続編ヒロインとか言われたら納得しちゃうんだけどさ。
「ごきげんよう。アガタさま!」
「あ、ちょっとお待ちくださいぃ!」
ばんと扉がひらかれた。
はい!?
赤毛令嬢マリージア様を引き留めようとしているメープル(頑張ったね!)。にこにこごきげんなマリージア様。その後ろにクールそうな初見のメイド様(たぶんマリージア様の侍女)。ベッドで膝に肘をあてて腰を捻っている最中の私。
気絶してもよろしいでしょうか?
カオスです。
高位貴族の突撃お部屋訪問は礼儀違反です。
およしください。
面と向かって拒否はしにくいんですけどね!!
すったもんだの混乱タイムを経てマリージア様とふたりっきりの時間がつくられましたよ。メープルもマリージア様の侍女も部屋の外で待機です。
「殿下に接近するなという忠告でしょうか?」
「え? 殿下? お慕いなさっているの? アガタさまなら家柄も他のおねえさま方とも悪くはありませんし、第一夫人がよろしいなら手配いたしますよ?」
「あ、お断りいたします。私など愛人としてお心をお慰めする女で十分です」
「まぁ。本命は殿下以外ですのね」
ころころとマリージア様が笑う。なにしにきたんだ。この公爵令嬢。
「ゲルトさまのおっしゃる『ゲーム』、アガタさまもなにかご存知ですよね」
そういえば、マリージア様もゲームとはずいぶん違いましたね。
「お顔の色がよろしくありませんわ。ね。アガタさま」
あ。
コレ私がオハナシアイ仕掛けられたんだ。




