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誤解されている気がします

 


 私は基本的に平和主義かつことなかれ主義の人間だと自分を理解しています。

 決して自分から誰か、もしくはなにかに喧嘩売って歩く好戦的民族ではないのです。

 物事は殴って解決ひゃっほーな案件は多くなく、それこそより難易度の高いモノを呼び寄せると知っているのですから。

 なのに。

 周囲の評価は『物理でなんとかしていく伯爵令嬢』なのはなんでですか?

 物理ってなに!

 清楚な回復系令嬢ですよ?

 その「は?」と言わんばかりの表情はなんですか。ジェニスジェファー。


「猫を何匹もかぶってしとやかぶるのはいいけど、アガタさんは基本ガサツですもの。その上で大雑把で好戦的。どこの戦闘部族なのかしらってよく思うわね」

「ええぇ」


 ショックぅ。


「あら、先日辻試合梯子してお小遣いを手に入れたからって武器防具につぎ込んだって言ってたでしょう? 十四歳伯爵令嬢の行動と言われて首を傾げるわ」

「えぇ。だって、辻試合で負けると講座のコマに出席できなくなるかもでしょ? 困るじゃない」


 お小遣いはおまけだと思ってるもの。


「そこがふつーの令嬢の考え方じゃないと思うのよ? アガタさんらしくてワタクシは好きよ」


 にこりと言われてつい顔に熱がのぼる。出会った頃より色気と包容力を上げたジェニスジェファーは絶対ズルい。


「私もジェニーが好きよ。なんでそんなにいい女になっていくのよ。ズルい。おいてかないでぇ」


 ぎゅっとその細い腰に抱きつく。いい腹筋である。


「ずるくない! 占星学の講座と魔女学と舞踊しかワタクシとってなくてよ。アガタさんと違ってね」


 まぁ多種多様雑多に取るより専門的に進むべきかも知れないけど、先の枠は広げておきたい十四歳なのよね。

 でも、素敵に才能を伸ばす憧れの人や友人を見ていると羨ましい気持ちも確かにあるのだ。


「だって」

「だってじゃなくてよ。あらゆる講座をほぼ無制限に受講できるアガタさんだってズルいと言われてしまう対象だと気がついておくべきね」


 ぷりぷり怒っているふりをしながらも私を腰にへばりつかせたままお茶を飲むジェニスジェファーはチラッと見下ろしてわざとらしく私から視線を逸らす。


「武も魔術もアガタさんは実用性のあるところまで伸ばしてらっしゃるし、人は羨ましいと思うでしょうね。まだ十四歳という年齢にしても」


 わかってはいる。

 その上で最近は王子様と距離が近い。貴族令嬢っぽい人達によくチラチラ視線も向けられてる。

 そして辻試合仕掛けてくる連中まじ多い。暇か。

 魔術講座で会った年下先輩レーニとラーゼの双子のせいだと言いたい。

 ニオベ様の教えを受けた私の才能(主人公補正チート素質)に妙なライバル心を燃やした二人は場所を選んでは辻試合を挑んでくるのだ。

 学園外でばっちり人通りの多い広い辻があいつらが選ぶ辻試合会場。

 だからといって私が裏路地を選んで歩くのは違うと思うのでちゃんと人通りのある道をいく。そしたら絡まれる。勝つ。この繰り返し。

 負けてみようかと思ったりもしたけれど、ジェニスジェファーが「あの子たちきっと調子に乗るわよ。まぁ、そのあと大勢にアガタさんは辻試合の宝石って言われてみたいなら止めない」なんていうからなおさら負けられない。

 辻試合の宝石とはいわゆる『鴨がネギ背負ってきた』と同意語なのだ。

 受けた辻試合で負けても仕掛けた辻試合で負けても敗者には意見する権利はなく、所持金の半分を差し出す必要があるし、所持金が少な過ぎれば装備品を取られることだってこの世界では正当なのだ。

 私は所持金半額だけである。

 貴族子女って事で私は辻試合の宝石になり得るのである。負けないけどね。

 ニオベ様に教えを受けた私が十一歳という年下に負ける姿は人前に晒せないのです!


「アガタさんはほんとうに好戦的で負けず嫌いね」

「え!?」


 しかたない子を見る慈愛の眼差しでなんで私を見ているのかな。ジェニスジェファー。


「誤解だわ」


 私、べつに好戦的で負けず嫌いじゃないと思うもの。


 だって、私は平和が大好きなことなかれ主義者だもの。


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