およばれです
会場は全体的に青い。
ジュダル公爵家をトップとする青の派閥は風属性持ちが多く国の西側草原地帯を所領に据えている。フローレンス家の所領も西方湖水地帯という水害の多い土地だ。
ジュダル公爵家に与えられた旗色が青であり、その派閥はその色かもしくは類似系統の色を何処かに身に纏う。身内の集まりといえるこの集まりはとにかく青い。
だいたいは本人の魔力属性色を添えるケースが多い。風属性が多いので白か銀を合わせてる方々が多く……ええ。人の区別が超高難易度ですよ。
うう。壁のシミになりたい。
お兄様に肘をつつかれる度、社交的スマイルを繰り出しますよ。ちゃんとね!
「やあ、ガーランド。楽しんでくれているだろうか?」
声をかけてきたのはほっそりとした淑やかそうな女性を連れたすらりとした男性。おそらくジュダル公爵様と妹君だろう。見事に青に染められた装いが美しい。
「ゼヴァン様、もう少し妹が慣れましたら楽しませていただきたく思います」
「ああ、愛らしい妹君だね。ガーランドはもう紹介していたね。当家の末の妹スヴィーナだ」
「ゼヴァン様、スヴィーナ様、私の妹アガタです。このような席に不慣れで申し訳ない」
お兄様の言葉に合わせて膝を折る。
公爵様は朗らかに「かまわないとも」と笑う。お兄様の銀髪とは僅かに光沢の違う銀髪がきらきらしている。
高級そうで眩しいです。
「スヴィーナもこのような席に慣れていなくてね。それでもやはりホストをつとめることもあるかも知れないから不慣れな方の案内もできればよいと思うのだよ。だから、ガーランド、君の妹君を教材に貸してもらう。スヴィーナ」
あ。拒否権ナシだった。形だけでも選択権なかったよ。
「アガタさん、あちらに軽食もありますの。まいりませんか?」
「ありがとうございます。スヴィーナ様……あのスヴィーナ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
それともジュダル令嬢とお呼びすべき?
スヴィーナ様も選択権なかったしなぁ。
お兄様達に見送られながらスヴィーナ様に導かれるままに進む。
それにしてもほっそいな。スヴィーナ様。折れそうにほっそい。しとやかたおやかっていうよりぽきっといきそうな骨細い感じ。それでいて背は高い。
もう少し食べた方がいいんじゃないかと思わせられる細さだ。
この国、細い人間よりすこしぽちゃぎみの人間の方がモテるからなぁ。
「アガタさんはなにが好きかしら?」
青いドレスの上に揺れる白い光沢を持たない髪がサラッと揺れている。
「美味しいものなら好きです。苦いものはすこし苦手です。スヴィーナおねえさま」
スヴィーナ様、私より年上ですしね!
お話があるとのことですし、さっさと距離詰めてみましょう!
不安なままだと美味しいものも美味しく無くなるし。
「おねえさま……」
スヴィーナ様がジッと私を見ています。ラベンダー色の淡い眼球綺麗ですね。
実は私以上に貴族交流苦手な令嬢ってヤツですか。スヴィーナ様。
「ツワトさんのことはそんな呼び方なさらなかったでしょう?」
「はい。スヴィーナおねえさまは一門の長家のおねえさまですが、ツワト様は学園における先輩ですね」
他の派閥の方ですし。
というか、交流あるんですね。
そう。と誰に向けるともなく呟いてスヴィーナ様はこっちを見てくださいません。
知ってます。コレ、私がメープルやお兄様に時々指摘注意を受けるアレだと思う。
案内されたのは料理が並べられたフロア。取り分け係りと思われる使用人の人が一瞬目を瞬かせた。
「アガタさんにおすすめの美味しいものを取り分けてくださる?」
スヴィーナ様の言葉に頭を下げ取り皿をとる使用人。あ、種類がある。お皿に。
「いろんな種類が食べてみたいです。スヴィーナおねえさまのお好きなお料理はどちらです? 私、一緒に食べたいです」
ぱちりとラベンダーの瞳が私を写す。
「一緒に?」
「一緒に」
「私の好きなもの?」
「はい。おねえさまはどのお料理が一番お好きですか?」
だって、間違いなくどの料理も美味しいでしょう。だって、だって公爵家の威信とかプライドとか、若さで舐められてはいけないとか諸々の諸事情で絶対権力とお金かけてるでしょ。
公爵位の引継ぎと同時に結婚もしているから夫人の実家への見栄もあるし、夫人も夫人として公爵家の取り仕切りが問題なく行えると示す大きな行事だもの。年末年始の集まりって。
「私はゼダの炒め物バケットサンドが一番食べやすくて好きですわね」
「ぜ、ゼダ? アレちょっと苦くありません? それとも苦味を誤魔化せる取り合せなんですか?」
いわゆる肉詰めピーマンをパンに挟んだモノ……ん? 令嬢、だよね?
あ。使用人さん固まってる。
「あの苦みが良いのです。果実水と青野菜のスティックなども好きですね」
「確かに食べやすいですよね」
「ええ」
使用人さん泣きそう。
手間暇かけたゴージャスなパーティー料理を前に食べやすさ重視のお手軽料理を要求されて。
「あ、そちらのハムでゼダの炒め物を巻いて、あ、あそこの、柔らかそうな、あ。チーズなんですね。ではそれもちょっとのせてそちらの薄切りパンに挟んでもらえますか?」
私はわがままに振る舞うことにした。
この国は収穫祭の時にお料理コンクールがあるくらいには食に探究心があり、少なからず発展している。上流むけのコース料理もパーティーの立食メニューも凝ったものが多い。もちろん庶民の屋台料理や家庭料理店のお惣菜もいい感じのジャンク感をもって発展している。
公爵家の料理人だ。おそらくコンクール入賞経験だってあるはず。即興料理を要求した私にいつのまにか料理人ぽい使用人が隅のコーナーに現れていた。仕上げを来客の前で行う料理もあるから人前に出る担当の料理人なのだろう。たぶん、スヴィーナ様フォローのためかな。
スヴィーナ様、私でもわかる貴族のホストとしてダメ出ししかない対応だ。
ついでに温野菜のマッシュも同じようにパンに挟んでもらう。色とりどりの渦巻きができて綺麗。
「あら、綺麗ね」
「目も楽しみながら食べるとなお美味しくいただけますもの!」
「栄養は変わらなくてよ?」
「スヴィーナおねえさまと美味しくいただく為ですから!」
こんなに社交苦手で大丈夫なの?
「そういえば、ツワトさんも同じようにおっしゃってましたわね。アガタさんも可愛らしいお菓子お好きかしら?」
言われてたんかい。
「美味しくてかわいいお菓子は大好きです。見慣れない奇妙なお料理にも興味津々です」
その後、美味しく会食したところ、スヴィーナ様事務方専門特化の生活、社交マイナスな方とわかりました。
私の受講コマ取りの参考意見も聞けて有意義でした。
とりあえず、スヴィーナおねえさまはお食事量を増やすべきだと思いました。
なんとなく食べる時間がもったいなくてつい書類をめくってしまう状況はブラックもいいところだと思うのです。
あと、新年の集まりではどうかおひとりになりませんように。とつい使用人の方々と視線を合わせてしまいました。
いじめられはしませんでしたね。




