年末のイベントは存在する
『仕事納め』
その概念はこの世界にも存在する。
それは個人商店や学園の休業を意味する。年越しの月のなかばですべての講義は休みに入り、貴族寮の子供たちは実家の社交活動のため浮かれたり沈んだりしながら帰宅する。それは王都の家か自領かはそれぞれだ。貴族寮で帰宅しない生徒は寮を閉めたい職員たちにすこしだけ邪魔に思われるし、侮られる。
平民寮の方は特になんとも思われない。なぜなら自主性が求められる平民寮では自己責任の自治があたりまえとされているから。寮母寮監の作業は少ないのだし、『そんなもの』なのだ。帰る場所も待つ人もいない寄るべない子供を邪険にはしない。未来の我が子の姿かも知れないのだからなおさらに。
年末年始の貴族はなにかと忙しい。
年越しは一族が顔を合わせる習慣があるからだ。
つまり王城での夜会や茶会、高位貴族同士の見合いパーティ大盛況となる。もちろん、玉の輿、逆玉を狙う下位貴族達も大フィーバーする。
同時に就活も活性化している。たぶん政的な暗躍も多い。たぶん。王城の執政部煉獄繁忙期締めと呼ばれるぐらいには暗躍するらしいから。(兄談による我らが父の職場)
平民にとって年末年始は静かに家族で過ごす時間であることが多く、元気な冒険者は『初狩りだ』と城壁外へと足をむけるらしい。確かに魔物に年末年始はないだろう。
まぁ、幸か不幸か私アガタ・フローレンスは伯爵家令嬢である。伯爵家王都のタウンハウスに自室は与えられている。長期休みには馬車で四時間揺られてインタウンハウスである。待つのはおかあさまが手配してくださった家庭教師からのレッスンの嵐だけど。
おかあさまとお兄様は我がフローレンス家の本家筋にあたるジュダル公爵家に挨拶に出向く。今年からは私も参加らしい。年始の国王様の挨拶には物心ついた頃から連れて行かれていたけど、他家の挨拶に参加ははじめてでほんの少しだけどきどきする。
お兄様には「普通幼少期から友好をあたためるものなんだよ」と苦笑いされました。ジュダル家のお嬢様方はお兄様より上で私とは接点が少ないのです。
「普通は国王様の挨拶で縁を繋いでおよばれしあうものなんだよ。ほら、子供達で固められるだろう?」
そう言われましても。
私は興味深くゲームキャラがいないかと眺めるのに忙しくて。
人集りに近づくことは苦手だしなぁ。つまり、お茶会に招待された経験がございません。いや、差し障りのない会話はしていると思うんだけど、その場限りで縁が続かないんだよね。第二王子殿下とは続いてるけど。脈無し風な恋バナ茶会が。
「ジュダル公爵家ゼヴァン様がね、おまえも連れておいでとね。末の妹君のスヴィーナ様が第二王子殿下の妃として嫁がれるので第二王子殿下と縁のある関係でねぇ。おまえが役に立つとは思えないんだけどね」
お兄様、しみじみと役立たずって言われると私もさすがに傷つきますよ!?
ジュダル公爵家のゼヴァン様は昨年公爵位を前公爵であるお祖父様より引き継いだばかりの若き公爵であり、第一王子殿下の幼馴染みで御学友でイトコな方だ。
少なからず、どの公爵家も王家とは姻戚関係濃いめなんだけどね。前国王様は四大公爵家の妃たちに他国の姫という六人の妃を持ち、十をこえる愛室が侍っているという話だしなぁ。
血が偏りそう。
国王様には異母兄弟が多いけれど次世代たる国王様のお子は第一、第二王子殿下のみというスペアのいない環境だ。(第二王子殿下は辺境公として国の守護の大きい部分を担当なされるので王位スペア期待値低め)
そして第一王子殿下は『娶る妃はただ一人』と誓いを立ててらっしゃる。
自身も純愛貫いてらっしゃる国王様はにこにこ受け入れて、側近達を黙らせたとか。でも、これで第二王子殿下はハーレム作れはちょっとだけ殿下が可哀想である。純愛を貫きたい王子様に嫁ぐ公爵家令嬢と縁を繋ぐのは心持ち気が重い。
……あれ?
第二王子殿下、自身のハーレムメンバーはファンクラブなのだと言ってなかった?
え?
ちょっとこわくない?
会いたい?
サーティオ公爵令嬢(公爵令嬢にして第一妃になる予定の方)のファンクラブメンバーだったりする公爵令嬢が?
私に、会いたい?
こわくない!?
あ、サーティオ公爵令嬢、第二王子殿下に塩対応で脈無しっぽいから大丈夫、かなぁ?




