初心者用迷宮
学園都市の城壁門からさほどはなれていない場所にある古びた迷宮である。
いつのまにか魔物がわくので取り壊して野放しにするわけにもいかないと国軍兵とギルドによって共用管理されている。
正式名称はあるはずだが、その名で呼ばれることはなく『ネズミの巣』や『ちびっこ肝試し迷宮』と呼ばれている。
十六歳の王子様が冒険体験するには適当だと国軍とギルドは判断したらしい。
名目は年下の少年少女の付き添いを兼ねての護衛体験というところだと思われる。
しかし、今までにおいて魔物魔獣と接触していないのは私だけだし、ツワト様は自領で実戦は済ませているとおっしゃっていたので私の次に戦闘経験薄いのはたぶん王子様でしょう。
訓練と実戦。
その違いは確かにあるのです。
私は間違いなく回復魔法使いとしてこの迷宮探索に参加したんです。
なんていうか、ええ。ゲームと現実は違うのです。
アンデッドきっしょっ!
きっもっ!!
直視するのこっわっ!!
気がついたらスタッフでぶん殴って浄化魔法で焼却しておりました。
「あとは聖水で洗い流せば完璧だと思います」
「いや、やり過ぎではないか? アガタ嬢」
「……」
え、きもくない?
肉の残った死骸がぞわぞわ寄ってくるんだよ? ぽろりと白いなにかを落としながら……。あああああっきもいっ! 思い出したくないっ!
あ!
「申し訳ありません。ツワト様達の出番を奪ってしまいましたか?」
だってきしょい病原体が迫ってきたらとりあえず焼却しなくちゃいけないと……。あー、魔物ってあんなきしょい感じがナチュラルに当たり前なんだろうか? え。私、辺境の迷宮領で生きていける? 別ルートの生存生活を考えるべき?
「アンデッドは予想外でありましたし、ディルノの有効武器は短刀であり、危険です。戦えるのは魔法を使用できる人員となりますが、アンデッドの対毒対策道具は少量しか持ってきておりませんからフローレンス嬢は間違ってないですよ。洗浄の前にアンデッドがわいた理由があるかも知れないので調査が必要ですから、証拠ごと洗い流すことになりそうな聖水浄化はお待ちください」
クオン様がにこりとおっしゃいました。
「ありがとう。アガタさん。助かりました。ニオベさんが安全区画を確保してくださるのでそちらで休んでいてください。えっと、あの、すごく頑張りましたね! 強かったと思います」
ディルノ君、わかっているんです。私だって。
強ければ、我を忘れて暴走しません。
「動く死体に我を忘れてしまいました。きもち悪くて……」
進路考え直しはちょっと落ち込むなぁと思っていたら。
「はじめての魔物との遭遇がアンデッドであったことは不幸だ。冷静さを失ったことは良くないが、行動は方向的には間違ってはいない。あまり、気に病まぬように」
と、ツワト様からフォローいただきました。
実はツワト様不器用ツンデレ属性の方ですか? 萌えますね!
「ありがとうございます。ツワト様!」
その後、安全区画で魔法使いとしての冷静さ維持の重要性と令嬢としての行動の相応しさをニオベ様とニクスから注意を受けました。
安全区画は説教区画だったのです。
遮音結界のむこうでにこやかなおーじさまに苛立ちますよ。




