おーじさまと友人になりました。
二人きりの密室が許されるってよっぽどなんですが流れる華々しい噂のようなことは一切ないアガタ・フローレンスと第二王子さまです。
だいたい、なんですか。話題は基本恋バナですよ。
魔獣問題でも治水問題でも内政でもなく恋バナ!
お互いに家族仲には問題なく未来に向けても憂いはたったひとつを除いて特にない私達共通の唯一にして最大の難関が『恋愛ネタ』なのである。
ちなみにおーじさまもお父君、兄君様と同様の純愛路線の方。皺寄せハーレムに大きく反論できずにいるのはハーレムが実質婚約者様のファンクラブ的集まりになっているだとかで、なんていうか、どう言えばいいのか。
確かに団結した女性陣というものは確かにこわいものがあると思います。私もこわいので面と向かえばにっこり口を閉ざすでしょう。
一種醜聞なので口外もできず、ひたすら殿下の惚気た愚痴を聞く時間となっております。
ところで婚約者様から殿下への恋の矢印を僅かにも感じないんですけど、ツンデレさんですか?
聞いているお話だけで脈なしに思えてくるんですが大丈夫ですか殿下。
つまり、個人的に愚痴れる人材募集で私が適任に見えたというわけだ。
ただ、殿下から見たお兄様やニクスの様子を聞けるのは嬉しいからいいかなぁと思うんだけどね。
「今度、外周にある迷宮に行ってみないか? 腕試しに」
「誰が参加なさるんですか?」
裏を確認しようと聞けばすぅっと殿下から笑顔が消えて真顔になった。もう少し隠せよ。おーじさま。
「雪氷公ノーヴァン家の次女ツワト嬢が同行する。四大公爵家の令嬢扱いはせずに一剣士として扱ってほしいとのことだ」
四大公爵家のひとつ北方の山岳地帯を管理するノーヴァン公爵家の令嬢ツワト様。
ゲーム中は特に接触はないけれど、いわゆる姫騎士的存在で『憧れのお姉様』な話題にのぼる人物だ。
この国の貴族は基本武闘派が多いと思う。四大公爵家となれば魔法特化か武力特化かと謳われていて政治事務を担うのは女流(つまり奥方メインとされている)の実務。だから貴族夫人からも純愛路線には渋い眼差しが送られるんですよね。仕事が滞ると。(切実)
軍学の講座でお見かけしましたけれど、一切表情を崩さずきりりとしていて周りがそっと距離をとっていたのが印象的でした。
優秀な方ですから嫁入り先は不足ない場所となればおーじさまが理想なんでしょう。ご家族的にも。もちろんおーじさまにも利点はあります。公爵家からの迷宮領への資金人材援助や防衛者、つまり軍人としての知識人脈を持つ姫騎士様ですから兵の雇用が姫騎士様人気で集めやすいでしょう。
業務提携的には拒否するものではないと思えるんですよね。
「知らないおねえさまとどう会話しろと?」
「ニオベ嬢も参加するからがんばれ」
真顔で殿下を見つめると朗らかに親指を立てられました。
てめーががんばらなきゃなんないんじゃねーですか? ああ?
ああ、心の中を渦巻く悪態が口からこぼれ落ちそうです。いけません。不敬罪不敬罪。それに目的のための重要な鍵。それが殿下ですよね。
「アガタにはぜひ我が友人であってほしいと思っているよ」
真剣な眼差しでおっしゃるという事はもしかして殿下のご友人枠の方々婚約者様よりな感じなんです?
なにそれ。逆ハー? 高魔力人誑し婚約者様ってゲームと違い過ぎで危険にでんじゃらす。思考回路パンピーなアガタは尻尾を巻いて逃げた方がいいかもしれません。
おーじさまを見捨てて。
いや、なんか見捨てにくいんだけどさ。




