ブラウシュナー・ハズットは学生ではない。
王国騎士団の騎士である。
「おはようございます。アガタお嬢様、本日はお嬢様の護衛としてお供いたします」
「お兄様?」
「ブッシュが今日は騎士団の方、休暇だと言うのでね」
休日の騎士団員を個人利用していいんですか!?
「ニクスもメープルも父が呼び出しておりますのでお嬢様にはご不満でしょうがこのブッシュで我慢なさってください。なんでしたら肩ぐるまでもブランコでもして差し上げましょう」
爽やかに片目を瞑って幼い頃をほじくられました。
王国騎士団で五年勤めてその後は伯爵家の騎士隊に戻ってくる予定な伯爵家の従貴族家次期当主だ。ブラウシュナーのお爺様がフローレンス伯爵家の侍従長である。ブラウシュナーは侍従系はむかないと護衛系につくと頑張ってらっしゃるらしい。
「肩ぐるまもブランコも幼い頃好きでしたけど、令嬢としてはいけませんのよ」
ちなみに俵抱きもご遠慮願いたいところである。
ブラウシュナーの言うブランコとは片手に子供をしがみつかせ、もう片手でそれを支えて振り回す遊びだ。ええ。何度もやってもらいましたよ。
「おや、お嬢様が立派なレディのようだ」
「レディの入り口に立っていますもの」
くるりと目を動かす様子はどうにも憎めない。
「女の子と街にお茶に行くのよ。あんまりうるさくても、怖がらせてもダメよ」
「ご安心を。このブッシュ、アガタお嬢様からメープルにお坊っちゃま」
「坊っちゃまはよしなさい。ブッシュ」
「はい。坊っちゃま。多くの親族も含め幼少期の面倒をみて子供に好かれる自信はありますとも!」
ふふんと胸をそらす巨漢。そう、ブラウシュナーは大きい。濃い蜂蜜色の髪ににこやかな細い目。筋肉質でデカくて登りがいのある身体を持っているのだ。
子供はともかく年頃微妙な女の子ジェニスジェファーはどう対応するんだろうか?
彼女は人見知りじゃないし、きっと大丈夫でしょう!
で、まぁブラウシュナーのお兄様に対する坊っちゃま呼びはきっと伯爵になるまで続くんじゃないかしら?
いつもより色鮮やかな装いのジェニスジェファーは待ち合わせ場所で立っていた。
「あら、アガタさんメープルさんは?」
髪を揺らして「お嬢様のおでかけに侍女や付き添いがつくのは当然だと理解していてよ」と告げ不審そうにブラウシュナーを見あげた。
「彼はブラウシュナー、メープルのお兄様で本日の護衛兼付き添いなの」
「男性でしょう?」
問いながら他に人はいないのかとジェニスジェファーはブラウシュナーの背後に目をやる。
ブラウシュナーはその様子に胸をはり笑顔をつくる。
「ご安心を。このブラウシュナー王国騎士団の団員の一人としてお嬢様方の身の安全、名誉を守ってみせましょう!」
ブラウシュナーを流し見たジェニスジェファーは私に視線をむけてため息を吐いた。なんでよ!?
「あンたほんとうに貴族のお嬢様?」
ひどいと突っ込もうと思ったらそれより早くブラウシュナーが朗らかに言い放った。
「言われてしまいましたね。アガタお嬢様。いやぁ、よいお友達ですね」
私とジェニスジェファーは視線をあわせ、街に繰り出すことにした。
だって、恥ずかしいやら嬉しいやら複雑すぎる感情はこれ以上のからかいを受け入れることが難しいって思ったから。たぶん、ジェニスジェファーも。
手を、つなぎたいというのはおかしいかしら?




