さて狙いは
リチャーズ・ベクス・ダメンズ氏ではなく、同年の男爵子息ディルノ・ボウである。冒険者から男爵騎士にとりたてられた父をもつ元平民、将来もたぶん平民の少年である。
男爵家は特に功績がなければ一代限りだから。
ディルノ少年は剣士というには物足りず、魔法は使えるが攻撃魔法は扱えず、弓を使うにも少々足りない。しかしよく気がつく現場の情報収集調査特化の少年だ。
彼は第二王子のそばにつくことになるのが決まっている。
世間知らずの王子様のガイド兼護衛として。平民のサンプルみたいな感じだろうか?
彼と仲良くなることは王子様に接近するには必要なのだ。
お兄様関係で遭遇ルートもあるのだけど、王子様のハーレム要員(おまけぐらいの地位狙い)にはお兄様ルートはダメなのだ。それは夫人ルートになりやすいから。
目指すのは他に夫を持つ必要のある愛人なんだから。
「そう、お兄様じゃダメなのよ」
「そう。お兄様のなにがダメなのか教えてくれるかな。かわいい妹さんよ」
優しい声とグリっと掴まれた肩の痛さ。
「お兄様じゃ完璧過ぎるだけですよ」
痛い痛いいたい。
白銀のまっすぐな髪にアイスブルーの瞳といううつくしいお兄様が私を個室へと攫っていきます。メープルは静々と私の教材を持ってついてきます。
助けてくれてもよくない?
じっと見つめているとお兄様に軽く肩を叩かれました。
「侍女を困らせない」
叱られるのはかわいい妹の私でした。
痛みを堪えてにっこり。
「お兄様繋がりで王子様と関わると愛人ではすまなくなりそうな気がするんですもの!」
「声を落とす。それと今のかわいい妹さんは紹介するに躊躇いが大き過ぎるね。道化枠としてならともかく」
お兄様がひどいです!
つい、怒ったフリをしましたが、お兄様が愉快な妹がいるとネタにしたと呟いたのはちゃーんと拾ってますからね。
なにしてくれてるんですか?
私の恋路の邪魔!?
でも、ディルノ少年がこの様子を見ていたのは後でメープルに教えてもらった。
不覚!




