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後編

後編です。


場合によっては消すかも知れません。


もったいない精神で、一応アップしておきます。

[主人公視点]



「もー、大げさだって」

 ただ今幼なじみと帰宅中なんだけど、隣を歩きながら、おでこに貼られた湿布へそっと触れてくるんで、私はけらけらと笑って見せる。

 教室へ入ったら、ちょうどクラスメートが転びそうになってて、助けようとして巻き込まれて転ぶなんて恥ずかしいよね。

 チートとかあれば、颯爽と助けちゃうんだろうけど。

 あいにく私には、ちょっと前世の記憶があるぐらいだからねぇ。

 あー、でも、そのおかげで、前世での心残りだったことを……。

 そこまで考えて、はた、と気付く。


 心残りが思い出せない。


 何だったっけ?


 胸の辺りがギュッとする。


「大丈夫か? やっぱり、病院に……」

「あー、ごめんごめん。お腹空いちゃった」

 実際誤魔化しじゃなく、お腹空いたし、そのせいで妙に切ない気分なんだろう。

 幼なじみはホッとした表情をすると、湿布へ触らないよう気を付けながら頭を撫でてくれる。

 おかしいなぁ、小さい頃は私の方がお姉さんぶってたのに。

 すっかり頼りがいのある男になっている幼なじみに、私はまた少しだけ寂しさを覚える。

「……いつまで、こうして一緒にいられるかなぁ」

 ポツリと洩らした瞬間、不意に二の腕を掴まれた。

 犯人は幼なじみしかあり得ないけど、やけに力が強くて驚いた。

「な、なに? どうしたの?」

「…………母さんが、お菓子焼いてくれた」

 言葉を探すように何度か口を開けたり閉じたりしてから、幼なじみが口にしたのはそんな台詞だ。

「おばさん、具合いいんだね!」

 幼なじみのお母さんは体が弱く、お菓子とか手間のかかる料理は、体調がいい時しか作れないのを知っている私は、嬉しくなって笑いながら幼なじみを見つめる。

「あぁ。昨日の夜くらいから、急に体が軽くなったって喜んで、お菓子作ってた」

 幼なじみも微かに笑い、掴んでいた私の腕を離してくれる。

「なら、寄って……」

「おい、いつまで待たせる気だ?」

 幼なじみの誘いに乗りかけた私の手が、ちょうどすれ違うところだった通りすがりの相手に掴まれる。

 左側には幼なじみがいたから、右の手をギュッと。

「はい?」

 ビックリして手の持ち主を見ると、幼なじみとはタイプの違うイケメンだった。何か俺様ぽい。

 初めて……ではなく、見覚えがある気がして、私は首を傾げて手の持ち主を見つめる。

「ったく、その顔は完全に忘れていただろ?」

「はぁ、まぁ……、で、どちら様でしたっけ?」

 私達と同じ制服、襟のとこの学年を示すバッジで先輩だと判断した私は、一応丁寧な口調だ。

「そこまで忘れてるのか? 今日一緒に出かけると約束した筈だが?」

 本当なんだろうか? そんな約束した覚えが……。

 私の戸惑いを察したのか、幼なじみは先輩(仮)を警戒するように睨んでいる。

 そんな幼なじみに、くく、と喉奥で笑った先輩(仮)は、グッと私の耳元へ顔を寄せてくる。

「昨日は夕陽が綺麗だったろ?」

 ぼそりと囁かれた言葉と同時に、私の脳裏に広がったのは、夕陽が染め抜いた室内。

 立ち尽くす私の目の前で嗤うのは、確かに先輩(仮)だ。

 これはいつの記憶だろう?

「昨日……そう、でしたね」

 あぁ、なんとなく思い出せた。

 私はこの先輩と昨日会って──、



「『約束』した……」



 幼なじみが隣で息を呑む気配がする。

 私が自分の知らない相手と約束してたって驚かせちゃったんだろう。

 『ただの』大切な幼なじみは、幼い頃からずっと一緒だったから。

「ごめん、先に帰って?」

「嫌だ。……母さんも、待ってる」

 駄々をこねるように、幼なじみは私の手を握って離さない。しかも、おばさんの事を持ち出されると、さらに断りにくい。

「あとで寄るから。ね?」

 やんわりと断っても、幼なじみの手は離れず、キラキラした瞳が潤んでいる気がする。

「女々しい男は嫌われるぞ?」

「それはないです。幼なじみなんですから」

 今さらそれぐらいで嫌わない。

 何故かフォローした私の言葉に驚いたように目を見張った幼なじみは、なんで、と呟いている。

 そのせいか手を掴む力が緩んだので、私はそっと幼なじみの手をほどく。

 ついで、ぺいっと先輩の手も。

「さぁ、行きますよ、先輩。おばさんのお菓子早く食べたいんですから」

「待って……どうして、今日は言ってくれない?」

 そのまま先輩と行こうとする私の背中に、幼なじみがそうすがるような問いを投げてくる。

「……特に意味はないよ?」

 抜け落ちていた言葉がある事は、なんとなく思い出せた。けれど、思い出せなくてもいい。もう今の私には、幼なじみへそれを告げようと思う事はないだろうから。

「ずっと大切な幼なじみ」

 口に出して言わなくても、なにも変わらない。

 どうせ何一つ変えられなかった言葉。

 振り返らず、先輩と並んで歩き出す。

 振り返っても、もう告げるべき気持ちは……。



「存在しないだろうな」



 先輩が他人事のように私の耳元で笑って、囁きを吹き込んでくる。くすぐったいんで止めて欲しい。

 でも私は、何を願ったんだろう。

「先輩、私は何を……」

「それを答えないのも、『約束』の一つだ」

「そう、でしたっけ? 何か記憶がぼんやりとしてて……」

「しばらくすれば、その違和感もなくなる」

 温くなった湿布を押すように、先輩が横から私の額へ軽く触れてくる。歩いているのに、なかなか器用だ。

「痛いんですけど?」

「痛くしてるからな」

 しばらく押して満足したのか、先輩の手がゆっくりと離れる。

「これから何処へ?」

「……とりあえず、小腹が空いたから喫茶店だな」

 腰を落ち着けて、しっかりと話し合うって事かな?

 まさか、今さら報酬とかの話とか?

 思い出した事実に、慌てて私は通学鞄の中の財布を取り出す。

 少し汚れた赤い二つ折りの財布は、ウサギのワンポイントがお気に入りでずっと使ってる物だ。

 改めて中身を確かめても、紙幣は一枚も入ってない。

「えぇと、あんまり今お金ないんで、後払いでもいいですか? バイトでもして……」

 払う、と言いかけた私に、先輩は呆れたように笑って、私の鼻先を軽く摘む。

「心配しなくても、年下に払わせたりしない」

「は、はぁ、ありがとうございます?」

 あれ? 喫茶店の支払い心配してると思われてる?

「じゃなくて、あの、魔法をかけてもらった……」

「はぁ……それも忘れたのか? 金は必要ない。お前が代償にしたモノの方が、俺には金より重いからな」

「そういえば、そんな事を言われた気もするような……」

 アホの子を見るような眼差しで先輩が見てくるけど、本当に覚えてないんだから仕方ない。

「まぁ、追々思い出す……ハズだ」

 なんか先輩も不安になったらしく、少しだけ困ったように眉尻を下げて笑った。

「まぁ、私が忘れてても、先輩がきちんと覚えてくれてるから問題ないです」

 そもそも、もう終わった話なんだから、覚えてなくても問題はない。

 自信満々にそう答えながら、ちょうど辿り着いた喫茶店のドアを開ける。中はそこそこ混んでいるが、座れない程ではない。

 なかなかのイケメンで愛想のいい店員さんに案内される間、会話が途切れる。

 二人分の注文をし、イケメン店員さんが離れたのを見計らって、先輩が呆れたような表情で口を開く。

「最初も思ったが……お前は、底抜けの馬鹿かもしれないな」

「……それ、最初に言いませんでした?」

「お、少しは思い出したか?」

「なんとなく、ですけど。先輩が、今みたいな優しい顔してたなぁ、って」

 そう言った瞬間、からかうようにこちらを見ていた先輩の表情が固まる。

「先輩?」

 声をかけるが、ちょうど注文した品をイケメン店員さんが運んで来てくれたので、ありがとうございます、とお礼を言ったら、イケメンスマイルをゲットした。

「……お前は、後悔はしていないのか」

 イケメンスマイルでほのぼのしてたら、先輩がボソリと呟く。

「あー、はい、たぶん? 寂しいとは思いますが、今のところ特に後悔はないです」

 幼なじみの気持ちは動かせなかったけど、やっぱり大切な相手には笑っていて欲しい。

 幼なじみに笑っていて欲しくて、私は先輩に『……』を……『……』って、なんだっけ? 私は何を失った?

「あ、れ? ……そうか、それがもう、ないんだ」

 よくわからない衝動が胸を焼き、気付くとハラハラと涙が流れる。

「泣くな。俺が泣かせたと思われるだろ」

 ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、優しかったり……はせず、言葉並みにぶっきらぼうな仕草で顔へタオルが押し付けられる。

 しかも、そのまま遠慮なくガシガシと拭かれる。

 痛くはなかったけれど、ビックリして涙が止まる。

「失くしたモノは戻らない」

「……はい。私が願った事は叶ったんですよね?」

「……ああ。『約束』したからな」

 先輩の自信に満ちた表情を見ていると、胸を焼く苦しさが少し薄れていく。

「なら、構いません」

 きっと、失う前の私もそう思ったのだろう。

 





「底抜けの間抜けだな、





 アレは」





 先輩の呟きの意味は、よくわからなかった。

[先輩視点]



 電話で呼び出され、目の前にいたのは弱々しい見た目をした少女。

 セーラー服とその衿元に付いたバッジで、後輩だと知る。

 どうせまた『〇〇くんと付き合いたい』とか、『あの女を呪って』とか言われるのだろう。

 俺は魔法でそういう事をする、と思われている。

 実際似たような事はしてるが、寄ってくる馬鹿な女達が望むような万能な魔法ではない。


 代償を伴い、その重さで願いを叶える。


 それが俺の魔法だ。



 攻撃魔法ではないから、町中でも使用制限はかからないが、集中力はかなりいる。

 代償を伴うからにはしっかりとした契約も交わす。

 男にしろ女にしろ、年齢を重ねてようが若かろうが、俺に代償を差し出す相手は欲望に突き動かされている。

 幼い子供ですら、『〇〇くんがあたしを好きになるようにして!』と自分勝手に願いを口にする。

 こういう輩は考えないんだろうか。

 他人によって心を変えられた相手と想いあえて、本当に嬉しいのか?

 想う相手の心を捻じ曲げることに躊躇わないのか?

 まぁ、俺は他人の心を変える魔法は使わない事にしているから、知ったっこっちゃないってのが正直な気持ちだが。



 しかし、目の前で何処か遠い眼差しをした後輩の願いは違った。



「私の『……』を代償に──」



 差し出された代償は、たまにあるようなモノだったが、願いは変わっていた。



「幼なじみがいつも幸せで、笑っていられるようにしてあげてください。そのために……」



 それはいっそ見事なほど自分の欲望から出た願いのハズなのに、笑えるほど他人のことしか考えてない願いだった。



 俺はその底抜けの馬鹿な後輩からの代償を受け取って『約束』をした。

 契約ではなく『約束』を。

 願いが漠然とし過ぎていたせいもあるが、なんとなく俺はそうしていた。

 とりあえず、幼なじみクンの母親の不治の病は快方へ向かうだろう。なんだったら完治するハズだ。

 いつも幸せなんて不確かなものは叶えられないからな。

 一番わかりやすく笑っていられるようにしてやった。

 普通の魔法なら、病気や怪我は治せないが、俺の魔法なら代償の重さによっては治せることもある。

 そう。重さだ。

 不治の病の快癒も願う者は多い。

 だが、ほとんどは完治することはない。



『私の全てをあげてもいいから彼を!』



『全財産差し出す! 息子を助けてくれ!』



 魔法は万能ではない。

 代償の重さが足りなければ、願いは叶わない。



「さすが五千回分の気持ちだな」



 差し出された代償は、とんでもなく重く、ただひたすらに柔らかくあたたかだった。



 きっと、こんな想いに包まれていたのなら、その相手は……。



「これを受け取ることを『幸せ』で特別だと思わないヤツがいるとはな」



 代償になった気持ちは戻らないが、近くにいればいつかその気持ちは……。



「アフターケアってのも、必要だからな」



 そう自分へ言い訳をして、俺は今日も底抜けの馬鹿な後輩の顔を眺めにいく。




 遠くから睨んでくる視線なんて、気のせいだろう。

お目汚し失礼しましたm(_ _)m


読んでいただけて感謝です。


前書きにも書きましたが、そのうち消すかも知れません。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] えー⁉ こんな終わり方ってあんまりです。 ぜひぜひぜひぜひぜひ、続きを書いていただきたい!! 何卒よろしくお願いいたします!m(_ _)m m(_ _)m
[良い点] 泣けます(>_<。)
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