前編
書きたい萌えポイントを書き殴りました。
こういう勘違いして、すれ違うお話が大好きです。
こっからハッピーエンドに持っていくのが、特に大好きなんですが、燃え尽きました。
名前が思いつかず、名前なしです。
息抜き程度に読んでいただければ幸いです。
万が一どなたかとネタ被り等ありましたら、教えていただければ助かります!
「好きだよ!」
これが、大好きな君へと告げる五千回目の告白。
そして──、
「……好き、だったよ」
最後の告白で、十何年越しな初恋への記念すべき引導だ。
●
私には、幼い頃から大好きな幼なじみの少年がいる。
家がお隣同士で、出会ったのはお互いよちよち歩きの頃。
ある事情から、少しだけ大人びていた私は早くから気持ちを自覚し、喋れるようになった日から、ほぼ毎日幼なじみへ告白をしていた。
最初は遠回し、ぼかし、淡くだったけど、
開き直ったある日から、
『好きだよ!』
『あぁ』
またある日は、
『食べちゃいたいくらい好き!』
『そうか』
またまたある日、
『好きすぎる!』
『大変だな』
と、返ってくるのはうっすーいリアクション。
とんでもないメロドラマかよ、とか思うような台詞も吐いてみたりも……。
思い出しそうになった黒歴史を封印し、私は幼なじみから誕生日にもらったカエルのキーホルダーをギュッと握りしめる。
私がどんなに告白しても素っ気ない幼なじみだが、無感情な訳ではなく困っているだけだろう。
表情には出にくいが、幼なじみは優しいから。
とてもとても、優しいから。
そんなところも、大好きだった。
断ると私が傷つくと思うから、幼なじみはあんな曖昧な返事をするのだろう。
ちなみに外堀を埋める意味と、かなりモテる幼なじみへの牽制で、人目がある所でも告白してたから、私が幼なじみを好きなことは皆知ってるし──幼なじみが私を幼なじみとしてしか思ってないことも知っていた。
脈がない事は嫌ってほど理解できても、好きな気持ちは膨らんでいく一方で、吐き出さないと苦しくて苦しくて切なくて……。
でも、そんな自己満足なだけの気持ちとは、今日でさよならしよう。
大好きな大好きな幼なじみは、明日から、『ただの』大切な幼なじみになっているだろうから。
濡れた頬は、きっと何事もなかったように乾いているだろう。
●
[視点変更]
俺には幼なじみの少女がいる。
気付いた時には隣にいて、いつもにこにこと笑いかけてくれていた。まるで、お日様みたいな笑顔で。
俺を不気味だとか人形みたいで気持ち悪いとか、そんな事を言ってくる相手に、俺より怒って食ってかかり、最後は魔法まで飛び出す取っ組み合いの喧嘩をするような女の子だ。
見た目はどちらかといえば弱々しいのに、中身はとんでもなく逞しく格好いい、自慢の幼なじみだ。
いつからだろう。
幼なじみが俺に会う度、真っ直ぐな好意を告げてくれるようになったのは。
挨拶からの告白は、すっかり俺達の日常だ。
俺も守られてるばかりではなく、幼なじみを守れるように鍛え、強くなった。
幼なじみはどんどん可愛らしく綺麗になっていく。
母さんはよく「お嫁さんにもらっちゃいなさいよ」と、からかって笑い、咳き込む。
母さんは不治の病であまり丈夫ではないが、いつもからからと明るく笑う強い人だ。
どうして俺の周りの女性はみんな強いのだろう。
父さんは俺が産まれてすぐに亡くなったそうだ。
だけど、俺には母さんと幼なじみがいてくれたから、寂しいと思う気持ちはあまり無い。
今日も幼なじみが俺の家の前で、待っていてくれている。
夕暮れ時のオレンジ色の光の中、幼なじみはいつもと少しだけ違う笑顔で俺を迎える。
怪訝に思う間もなく息を大きく吸い込んだ幼なじみは、
「好きだよ!」
と、相変わらず見た目に反した男前な告白をしてきた。
「あぁ」
たまに変なドラマみたいな台詞の時もあるな、とか思いながら、俺はいつもと変わらない答えを返す。
何度言われるようが、俺の気持ちは変化しないのに。
幼なじみを見つめていると、いつもなら照れ隠しの笑顔を浮かべて俺へ駆け寄ってくる筈の彼女は、少し離れた位置のまま佇んでいる。
うつむき加減の顔にオレンジ色の光が注ぎ、幼なじみの表情がよく見えない。
「……好き、だったよ」
いつも一回しか言ってくれない告白をもう一度してくれた、と驚いていた俺は気付かなかった。
過去形になった告白の言葉も、パタと地面へ落ちた雨ではない滴も、また明日ね、と去っていった幼なじみの決意も。
●
[視点変更]
唐突だが告白しよう。
私には前世の記憶がある。
しかも、今の世界とは違い、魔法がなく、科学が発達していた世界だ。
うん、違和感なくて、しばらくは ただ記憶もって転生したんだ、とか思ってた。
だって、今生きてる方の世界、前世の世界とほぼ変わらないんだよ?
ただ、家電とかは、電力の代わりに魔力とかいう、ふんわりファンタジーなモノが動力として使われてたり?
同じく車も魔力で動いてるし、ホウキで飛んでたり、絨毯派な人とかいるし。
でも、建物とかは普通に私が前世で暮らしていたような、本当に普通の町並みなんだよ。
しばらくは気づかなくて、やけにバラエティーとかドラマとか、妙なファンタジー設定推してるなぁ、とか思ってた。
で、記憶持って異世界へ転生した訳でしょう?
ほら、ラノベとかで見るような、チートとかしてみようとか思っちゃった訳なんですが……。
すーぐ、挫折しました!
だって、ここは魔法がある異世界だって言っても、生活水準は前世と変わらない。
つまりは、マヨネーズ作りました、とか、こんな素晴らしい料理法が、とか出来ません。というより、全部元々ありました。
何か無駄に私すげぇー出来るって信じてた自分をぶっ叩きたい。
「……って、なんで私、こんな黒歴史思い出してるんだろ」
昨日の夕方辺りから何だか記憶が曖昧で、思わず余計な事まで掘り返しかけたようだ。
「昨日何かあったっけ?」
ベッドから勢いよく降りた私は、カーテンを開けて朝の光を浴びながら首を捻る。
何故だか大泣きした後みたいに目の奥が重い。
「あー、もしかしたら前世の夢見たのかな?」
それで懐かしくなって、寝ながら泣いていたのかもしれない。
思い出せないなら、たいした事ではないんだろう。
幼い頃は前世の分だけ、周囲よりちょっと大人びていた……つもりだったけど、今となっては特に前世があるから、みたいな恩恵はない。
さっきも黒歴史したけど、チートとか出来る訳じゃないし。
魔法の授業の成績も普通だし。
『この魔力の高さはなんだ!?』
なんて、展開は全くなかった。残念だ。
町中で攻撃魔法は禁止されてて、許可エリア以外は使えない。
幼い頃は喧嘩で魔法使って、母にとんでもなく怒られた。あれは、幼なじみをいじめてたガキ大将達が悪いのに。
そう言えば、私にはチートはないけど、幼なじみはチートかもしれない。
クールなイケメンだし、勉強も出来るし、頭もよくて魔力高いし、女の子にモテモテだし。
幼なじみとして私も鼻が高い。
母子家庭な幼なじみは、よくうちで夕飯を食べていくから、もう家族の一員みたいだ。
その幼なじみのお母さんは美人で優しくて、体が弱い。
幼なじみがよく心配している。
私も幼なじみのお母さんが大好きだから、やっぱり心配だ。
考え事をしながらも、手は勝手に朝の流れをこなしていて、気付いた時には学校の制服を着ていた。
朝ごはんを食べて、身支度を整えて、鞄を持って外へと飛び出す。
「いってきまーす!」
母のいってらっしゃいを背中で聞きながら、私はお隣さんである幼なじみの家の前を通過する。
つもりだったのに、何故かピタリと足が止まる。
「あぁ、そうだ」
一人呟いて納得する。
いつも、幼なじみと登校してたのに、なんで今日は忘れそうになったんだろう。
まだ前世の夢を引きずって、少し混乱してるのかもしれない。
気を付けよう。幼なじみは優しいから、心配させたくない。
「……おはよう」
気合を入れ直してると、幼なじみがのんびりと玄関から現れ、ぼそりと挨拶をしてくる。
「おはよう!」
元気に返すと、幼なじみの口の端が微かに上がって、私も自然と笑顔に……ならなかった。
いつもなら、意識しなくても笑えてたのに、今日はやっぱり調子がおかしい。
「どうした?」
ぶっきらぼうだけどすぐ異変に気付いてくれた幼なじみに、私はわざとらしいくらいにニッコリ笑う。
「宿題忘れちゃったー」
「……見せてやる」
「ありがとー! す……」
誤魔化しのつもりだったけど、本当に宿題を忘れていた事に気づいてしまった。
優しい幼なじみが見せてくれるらしいので、何とか間に合うと思う。
お礼を言った私は、続けて何かを告げようとして、急に言葉を見失う。
何か伝えたい事があった気がするのに、すっぽりと抜け落ちていると感じるのは、前世の記憶なんだろうか。
怪訝そうに見つめてくる幼なじみへ、えへへと誤魔化して笑う。
大切な幼なじみを心配させるなんて、絶対嫌だ。
●
[第三者視点(親友)]
私の親友は美少女なのに、頭には残念と付けて評されるような子だ。
黙ってれば守ってあげたくなるような美少女なのに、親友は豪快で正義感が強く、中身はか弱い女の子ではない。
あと頭は悪くないのに、結構なお馬鹿さんだ。
まぁ、そんなところも可愛らしいと私は思う。
そう思ってるのは私だけではなく、思いを寄せている男子は多い。
けれど告白する男子はほぼいない。
「好きー!」
「ん」
教室の真ん中の席なのに気にする事なく告白する親友と、うっすーいリアクションをする親友の幼なじみ。
これが毎日あるから、親友へ告白する猛者はほとんど現れない。
私的には、あんな仏頂面した幼なじみより、もっといい男いるだろう、と思っているけれど。
親友の思いを邪魔するつもりはない。
「おっはよー!」
物思いに耽っていたら、親友の声が聞こえ、私は顔を上げる。
視線を向けた先にはいつも通りに見える笑顔の親友、背後にはその思い人である幼なじみが相変わらずの仏頂面で立っている。
いつもと同じはずなのに、私は僅かな違和感を覚える。
「告白……」
ここ最近は、クラスメートで幼なじみへアタックしてる腹黒女がいるから、ずっと教室での告白だったんだけど……。
今日は道中でしてきたのか、日常ともいえる告白はないようだ。
親友の中には、告白は一日一回までという謎ルールがあるそうだ。
告白とは別に、好きー、とか親友は自然に言ってたりもするけど。
宿題を忘れたらしく、親友は幼なじみから宿題を写させてもらっているようだ。
一応考えたりしてるのか、んー、と唇を突き出す表情が可愛らしい。
仏頂面な親友の幼なじみも、穴が開きそうなぐらい親友を見つめている。
そんなに見るぐらいなら、親友の告白を受け止めればいいのに。
そうすれば、なんの心配もなくあの子はずっと幼なじみの隣にいるだろう。
今よりもっともっと幸せそうに笑いながら。
油断してて、誰かにかっさらわれても知らないから。
●
[第三者視点(腹黒女)]
やった、やった、やったー!
あの幼なじみだか何だか知らないけど、大きな顔して王子の隣にいる女が、今日は告白してない!
しかも、いつもはもっとベタベタベタベタしてるのに、今日は隙が多い!
おかげであたしが王子へ接近できる。
毎日毎日、幼なじみだってベッタリして、王子を独り占めしてるから。
王子は優しいから、幼なじみの女を怒ったり出来ないんだよねぇ。
みんなは王子がクールって言ってるけど、あたしはちゃんと王子を見てるから知ってるし?
勘違い幼なじみから告白された時、王子は無表情だけど、優しい眼差しであの女を見てる。
断ったりしたら、あの女が傷つくとか思ってるんだよね、王子ったら。
だから、いつも曖昧な返事しちゃうなんて、逆に残酷だと思うけどー?
まぁ、これからあたしが告白して、バッチリオーケーな返事をもらえば、あの勘違い幼なじみ女もわかるよね?
しっかりとどめ刺してあげないとー。
あたしって、ちょー優しいからぁ。
あの噂試すつもりだったけど、必要なくなっちゃった。
あ、でも、人の心を変えるのはしないって話だったからぁ、ちょうどいいかな!?
別に、あたしが王子に好かれないとか思ってた訳じゃないし?
とりあえず、あの勘違い幼なじみ女が離れてる隙に……、
「あの……好き、です」
と、上目遣いをして、王子の瞳を見つめる。
放課後とはいえ、まだ教室には何人もの人影がある。
周囲からざわめきが広がり、囃し立てる声が湧く。
わざとだけど(はぁと)
あの勘違い女と同じ手を使って、あたしがバッチリオーケーもらえば、あたしが王子の彼女だって一気に広まるから。
意識的に瞳を潤ませて、王子を見つめて答えを待つ。
おかしいな。あの勘違い女には、いっつも即答なのに。
うふふ、もしかして緊張してるのかな?
あたしが見てると恥ずかしいのかな、と視線を外そうした時、王子のガラス玉のような瞳が初めてあたしを見る。
澄んだ色の瞳に、バッチリ可愛らしいあたしが映り込んでる。
うんうん、あたしかわいいー。
「すまないが……」
あれ?
「興味がない」
はぁ?
「え? あの! あなたが好きなの!」
席から立ち上がり、さっさと行こうとする王子の腕を掴み、強めに繰り返す。
照れ隠しなんて、いらないし?
素直にならないと!
「だから、興味がない。というより、誰だ?」
見惚れるほど美しい顔には、言葉通りあたしへの興味など一欠片もなく、冷めきった眼差しでちらりとあたしを見下ろした王子は、そこで急に慌てた様子で周囲を見渡す。
「なんで……」
ポツリと洩らして、呆然とする王子。
もしかして、クラスメートがいるから恥ずかしかったの?
もー、かわいいなー。
じゃあ、ちゃんと二人きりなところで告白……。
「よかったら、二人きりで……」
掴んだままだった腕を軽く引っ張ろうとしたあたしは、強めの衝撃を受けて、二・三歩よろけて近くの机へぶつかる。
王子が恥ずかしかったのか、あたしの腕を振りほどいたせいだ。
そのまま倒れる! と思ったあたしは、誰かに支えられ、その誰かと床へ倒れ込む。
その誰かがクッションになってくれたのか、痛みはほとんどない。
なんかあたし以外が机にぶつかったような音がしたんだけど……、
「いたたた……」
聞こえてきたのは、忌々しいあの勘違い女の声で。
王子が大きく息を呑み、床へと膝をつく気配が……。
もしかしてこれは、お姫様抱っこな展開かな?
結果オーライだね!
内心でうふうふ笑いながら、痛みで起き上がれないふりをして、目を閉じていると……。
「大丈夫か!」
王子の慌てた声が聞こえ、
「さっさと退け」
あたしは押し退けられた。
「え?」
パッと目を開け、周囲を見渡すと、王子があの勘違い女をお姫様抱っこで抱えて出ていくところだった。
固まっていると、クラスメートから何ともいえない視線を向けられている事に気づき、あたしは何事もなかったように立ち上がる。
「どっちが勘違い女かしらねぇ」
教室から早足で飛び出す時に、そんな声が聞こえたけれど、気のせいだろう。
●
[第三者視点(謎)]
放課後の校内を、帰宅するために歩いていると、前方から下級生らしい女達がやってくる。
「見た!? リアルお姫様抱っこだよ?」
「ちょーかっこいいよね、……くん!」
「幼なじみだからって、あの子、特別扱いされてズルい!」
「えー、でも、2組の……さんも告白して、興味がない、って言われたらしいよ?」
「つまり──」
そんな会話をわいわい話している女達とすれ違う。
俺に気付いた女達が、今度は黄色い声を上げるが、いつもの事なので気にはしない。
「……聞いていた話とは違うな」
何か面白い事になっていそうだ、と俺はにぃ、と唇を端を吊り上げる。
夕陽に染まる室内。
『この気持ちを代償に……』
そう訴えてきた馬鹿みたいに真っ直ぐな瞳を思い出し、俺はペロリと唇を舐めた。
実は前編と、後編の半分を書いたのは去年です。
ずっと書くだけ書いて放置してたのですが、突然続き書きたくなって、書き殴ってとりあえず完結させましたm(_ _)m
なので、矛盾とか色々ありまくりだと思いますが、相当なの以外はスルーしていただければ幸いです。