後編
いざ到着してみると、まだ安田は来ていなかった。
仲間が一人、小さな茣蓙を敷いてポツンと座っている。栗山という名前の男だ。
卑屈に背中を丸めて、せっかくのパーティーだというのに、擦り切れたシャツを身に纏っていた。缶切りで蓋をくり抜いた空き缶もあり、中には小銭が少し入っている。
「やあ、栗山。それ、何のコスプレなの? もしかして、物乞いのつもり?」
「コスプレ?」
怪訝そうな顔で聞き返してから、栗山は続ける。
「お前、何言ってんだ? 下層パーティーだろ? だから敢えて、みすぼらしい格好で来たんだぞ」
おいおい、とツッコミを入れたくなった。
普通「かそうパーティー」と聞いて「下層パーティー」という言葉は出てこないだろう。結果的には物乞いの仮装になったから、仮装パーティーの趣旨には反していないけれど。
苦笑いを浮かべたところで、後ろから声をかけられた。
「よう、お前ら! ちゃんと道具は持ってきたか?」
振り返ると、黒いスーツ姿の茂木が来ていた。おもちゃのマシンガンのような物体を抱えているのは、兵士あるいは銀行強盗のコスプレだろうか。
「茂木、それは何だ?」
栗山の質問に、茂木はニヤリと笑って、マシンガンもどきの引き金を押す。
すると、先端からゴーッと炎が吹き出した!
おもちゃじゃなかった!
「火葬パーティーって聞いたから、自慢の火炎放射器を持ってきたぜ! さあ何を燃やすんだ?」
火葬がしたいなら葬儀場へ行ってくれ。よりにもよってパーティーでやることじゃない。
いくら川原とはいえ、一歩間違えれば火事になる!
続いてもう一人、同じように危ないのが来た。
おっちょこちょいの富永が、火のついた松明を手にしているのだ!
「あれ? 火槍パーティーって聞いたんだけど……。違うの?」
その松明、火槍のつもりだったのか。
火槍なんて、それこそオンラインゲームの中だけで十分だろ!
勘違いの男ばかりが集まる中、ようやく女性もやってくる。
いつもは地味な涼子さんだが、仮装パーティーだけあって、今日は派手な格好だった。
黄色い花柄のドレスを着て、頭の上にはシロツメクサの花冠。さらにバラを一輪くわえている。唇から少し血が出ているのは、バラの棘でやられたのだろうか。
涼子さんは、僕たちを不思議そうに見回してから、バラを吐き捨てた。
「もしかして私、間違えちゃった? 花草パーティーじゃないの?」
そんなパーティーがあるものか!
その後。
いつまで経っても安田が来ないので、電話してみると……。
「お前ら引くわー。新型ウイルスの流行で大変な時に、リアルで集まっちゃダメだろ」
彼はオンラインゲームの中で、ギルドメンバーが来るのを待っていたという。
僕たちのギルドの小屋がある川原で。
ゲーム世界の凄腕剣士になりきって。
結局、仮装パーティーと思った僕も間違っていたのだ。
本当は、仮想パーティーだったのだから。
(「間違いだらけの仮装パーティー」完)