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いきなり成功させてしまう光一君には主人公属性があるようです

防犯部へ入ることを決めた光一。さてどうなるのでしょうか?

「それじゃ、いきなりで申し訳ないんだけど、1つ確認したいことがあるの」

「えっ、か、確認? 一体何を?」


 突然の彩子の言葉に、光一は何を言っているのか理解できなかった。


「それは、光一君が持っている力や能力に決まってるじゃない」

「え……えっ?」

「それで、ちょうどタイミングが良いから、光一君を唆そうとした強制性交事件の被疑者の思念を相手にして、実際に消去をやってみようと思うの」

「いやいやいやいや! そんなの無理に決まってるじゃないですか!」


 ついさっき、防犯部に入ることで後悔はしない、と彩子に言われたけれど、光一はすでに後悔していた。普通の職場であれば、一から色々と教えてもらって仕事に慣れていくはずなのに、何も教えてもらっていない段階で思念の消去をいきなり行うという無茶振りをされるなんて全くの予想外だった。


「大丈夫よ。後で話そうと思うけれど、光一君は本当に防犯部に歓迎されるような人材なのよ。やり方さえ分かれば、きっと簡単にやってのけてしまうんじゃないかな」

「ほ、本当に俺はできるんですか?」

「絶対に大丈夫! だから、ほら、まずはここに立って後ろのアパートの方を向いてみて」

「そこまで言われるなら、や、やってみます」


 彩子の表情に表れている自信は一体何を根拠にしているのか、光一にとってそれは最大の謎だった。だけど、自信に満ちた表情で強く言われると、逆に根拠が無くてもできそうな気がしてくるのも事実で、光一は、彩子に促されるままに緊張した面もちでベンチを立ち、そして問題のアパートと正対した。


「現場になったのは、4階の左から4番目のちょうどカーテンが掛かっていないあの部屋よ。思念はあの場所を中心に行動をしていて、さっきまで光一君にまとわりついていたけど、光一君がピアスを着けた瞬間にあの部屋に戻ったみたいね」


 彩子に言われた部屋を見上げてみると、確かにカーテンが掛かっていない部屋があった。気のせいかもしれない、と思いながらも、他の部屋からは感じない妙な違和感を光一は感じ取っていた。


「手順は、まずあの部屋からここの空間に思念を引っ張り出して拘束する。そして思いっきり強烈な意識を持って消し去る。やることはただこれだけ。ポイントは思念を上回る強烈な意識を持つこと。消えてほしいじゃダメ。消えろ! って叫ぶぐらいの意識が大事なの。人に見られないようにわたしが時間を止めるから、その間にやってしまいましょう!」

「えっ、もうやるんですか?」

「大丈夫。思念の時間を止めることはできないのがネックだけど、光一君なら絶対にできる。強い気持ちと意識を作り上げて、ピアスに触れながら頼めば、ピアスはきっと答えてくれるから。それじゃ、行くわよ!」

「ちょ、ちょっと!」


 光一が止めようとした時には、すでに彩子は右手で右耳に着けられたピアスに触れていて、

「お願い……」

 と一言呟いていた。


「もう止まってる」


 彩子の左腕に着けられた腕時計の文字盤が輝きだし、そして周りの風景が止まった。おそらく夏奈がやって見せたように、文字盤には彩子の右耳に着いているピアスの模様が浮かんでいるのだろうと、焦りながらも光一は思った。


「始めて!」


 彩子の促す声が聞こえた。やるしかないか、と腹を括った光一は、彩子に言われたとおり右耳に着けられたピアスに触れて、


「お願い」


 と呟いた。すると、ベンチが置かれている広場を覆い尽くしてしまうほど大きく、周りに「GLASYA=LABOLAS」と書かれた光輝く模様が地面に描かれた。それは、昨日福岡タワーで夏奈たちが見せた模様よりも遥かに煌々と輝いているようだった。


「本当にできた……」


 その光景に光一は素直に驚いていた。彩子の言葉を信じていないというわけではないけれど、まさかいきなりできるとは思ってもいなかった。


「思ったとおりね。光一君の親和性は部長を越えてるわ」

「えっ……」

「次は、あの部屋から思念を引っ張り出すイメージよ。何でも良いわ。とにかく光一君が思い浮かべればピアスは答えてくれるから」


 彩子の呟く声に思わず反応してしまった光一だったけれど、少し強めの口調の彩子に促され、再びアパートの方を向いた。そしてイメージを作り出した。


「引っ張り出すということは相手を確保するっていうことだよな。確保……掴まないといけないから、やっぱり手かな」


 自分の想像力の無さにちょっとした失望を抱きつつ、光一は手で思念を掴むイメージを作り出した。その瞬間、そのイメージに反応するように模様から強烈な光が放たれ、その周辺から50本以上の腕のようなものが、まるで植物の種から芽が出るように現れ始めた。それは急激に空に向かって伸びたかと思うと、目的の部屋へと一気に突き進んでいった。


「光一君! 強い意識よ! 思念を根こそぎ取り去るんだっていう意識が大事よ!」

「は、はい!」

 彩子に言われたように、なんとしてでも部屋から思念を引きずり出すんだ、という強い意識を光一は作り上げた。夏奈へ手を出すように唆した思念を必ず自分の前に突き出してやる、という強い気持ちを。


 部屋に突っ込んでいった無数の腕は、部屋を煌々と輝かせながらしばらくの間うねうねと動いていたけれど、ある瞬間にその動きはピタっと止まり、力を込めた様子で部屋からぞろぞろと退出しだした。そして、部屋から出ていくその一団の最後に出てきたのは、ありとあらゆるところを無数の輝く手が掴んだ、どす黒くて不気味な人型だった。


「さすがね。一発で部屋から引きずり出すなんて」

「あれが思念、ですか?」

「そう。あれが今回の目的の思念で、光一君をずっと唆そうとしたものの正体よ」

「あ、あれが……」


 光一と彩子が話している間、思念を掴んだ腕はどんどんと短くなっていった。そして遂には、どす黒い人型を成した思念は、無数の腕で地面に描かれた模様の中心に押さえつけられた。その状態から抜け出すようにもぞもぞと動く思念が、おぞましい叫び声のようなものを上げながら時折腰のところを微妙に前後に動かしているのは、それが強制性交の被疑者の思念だからなのか、と光一は少し想像した。とその時思念が今までよりも大きく動いたように見えた。


「光一君、集中して! 雑念を入れると逃げられちゃう」

「は、はい!」


 模様の中央にいる思念に光一が再び意識を集中すると、思念の動きは完全に封じ込められた。背中に少しだけ冷や汗が流れたのを光一は感じていた。


「よし! ここまできたら後は消去するだけよ。光一君が持ってる意識全てを思念の消去に回して。絶対にあいつを消すんだっていう強い想いが大切よ!」

「分かりました!」


 彩子の言葉に従うように集中を仕切り直した光一は、勝手に人の頭の中に語りかけてきて性犯罪者に仕立て上げようとした思念への恨みを込めて、強く消えるように頭の中でイメージを作り出した。地面に描かれた模様は、光一の思考に応じるようにすぐに反応して、模様全体から白い光が溢れ出した。


「消えろ」


「もっとよ!」


「消えろ!」


「もっともっと!」


「消えろー!!」


「そう!」


 彩子の言葉が聞こえた瞬間、模様から上に向かって白い光の柱が立ち上がった。その中心で押さえつけられた人型のどす黒い思念は、白い光が強くなるにつれて不気味な断末魔の音量を上げていき、そしてその光の中へと消えていった。


 しばらくして、

「気配が消えたわ。思念は完全に消えたみたい。光一君、お疲れさま」

 思念の気配が無くなったことを確認した彩子から、労いの言葉を光一はかけられた。


「はぁ、あ、はぁ、あ、ありがとう、ございます」


 光一が集中を解くと、模様から立ち上がった白い光は次第に弱くなっていった。そしてそれが消えるのと同じタイミングで、地面に描かれていた模様も無数の光の粒を弾けさせながら消えていった。


「ありがとう」


 光一の口から零れた右耳のピアスを労う言葉は、全くの無意識から出てきた言葉だった。


「ありがとう」


 光一の言葉に続いて彩子が呟くと、パッと場面が切り替わるように時が動き出した。あらゆるものが正常に戻った瞬間だった。


「ふふふ、さすがは光一君ね。最初からいきなりやり遂げてしまうんだから」


 光一の方へ笑顔を向けて話す彩子は、額に汗を滲ませていて、少しばかり息が上がっていた。


「あ、ありがとうございます。うまくできていましたか?」

「十分すぎるわよ。ここで寝てる夏奈ちゃんは、昨日、光一君の目の前ではしっかりとできていたと思うけど、最初の頃は失敗することもあったんだから」

「そうなんですか?」

「そうよ。この子は突発的に色々とやってしまうことがあるから、最初は集中するのを苦手にしていたのよ」


 彩子は話し終えるとベンチに横になる夏奈に視線を落とした。


「そ、そうなんですね」


 彩子の視線を追いかけるように光一も夏奈へと視線を落とした。ただ、そんなに簡単に直視できないのは言うまでもないことだった。


 それからしばらく2人で夏奈を見守っていると、

「ん? んん……あれ、あ、彩子さん?」

 夏奈がゆっくりと目を覚ました。


「あ、やっと起きたのね。体調は大丈夫?」

「どうして彩子さんがここに?」

「夏奈ちゃんに電話をかけたけれど出なかったから、心配して迎えに来たのよ。夏奈ちゃんが体力の限界まで時間を止めたのは、時間が再始動するときのあのバラバラな感覚で分かっていたから」

「そ、そうなんですか……」

「ほら、夏奈ちゃん。体を起こせる?」

「あ、は、はい」


 彩子に支えてもらいながら体を起こした夏奈は、ベンチに座って服装を整えた。


「部長にも言われていたでしょ? 時間停止で無理をすると体が動かなくなるから気をつけないといけないって」

「すみません。でもどうしても夏奈は光一君のことを引き留めたくって……」

「仕方ないわね」


 再び涙ぐみそうになる夏奈の頭を、苦笑いを浮かべる彩子は慈しむように数回撫でた。


「でも結果的に夏奈ちゃんが無茶をしたおかげね」


 撫で終わったところで、彩子の表情が苦笑いから普通の笑顔へと変わった。


「えっ、それはどういう……」

「ねぇ、光一君」


 彩子の言葉に夏奈は光一の方へ視線を向けた。


「は、はぁ」


 突然話を振られた光一は、夏奈に視線を向けられたことも相まって、間抜けな返事をすることしかできなかった。


「ほら、夏奈ちゃんに右耳を見せてあげたら?」

「えっ、み、見せるんですか?」

「見せてあげたら? 夏奈ちゃん、きっと喜ぶと思うから」

「えっ、彩子さん。それってもしかして……」

「ほら。光一君」

「は、はい。分かりました」


 少し強引な彩子に促されて、光一は夏奈の方へ右耳に着けたピアスを見せた。光一の動きに合わせてピアスがゆっくりと動いた。


「そ、それって、もしかしてグラーシャ=ラボラスの?」


 光一の右耳に着けられたピアスを、驚きの声を上げながら夏奈は指差した。


「そうよ。光一君は防犯部に入ってくれたのよ」

「えっ、ほ、本当!?」

「そうよ。ね、光一君?」

「は、はい。彩子さんの話を聞いて防犯部で働くことを決めました」

「う、嬉しいっ!」


 その声と同時に夏奈はベンチに座っている状態から光一へとダイブを決めた。夏奈の纏う女性特有のフローラルな香りと、女性特有の柔らかい感触に包まれた光一は、固有スキル発動と同時に思考回路がオーバーフローしてしまい気を失った。


 気を失う前に視界に入ってきた彩子の驚く表情が妙に印象的だった。

就職が怪しかった光一君ですが、ひとまず就職できましたね。

ただ、喜びのあまりに何も考えずに抱きつく夏奈は恐ろしい子です。

というわけで、次の話をお楽しみに。鋭意製作中です。

できれば二週間以内には掲載したい。

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