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龍神達馬~独善のカタルシス  作者: 偉羅万千生
7/8

龍神達馬~独善のカタルシス~悔恨の誹謗中傷

ただ心の霧を晴らしたい

自分の思うままに

手段は択ばない

そのためにあらゆる準備をする

心の霧が晴らせればそれでいい

それが「独善のカタルシス」


片平夕凪ゆうな、看護師。二児の母。


ここ数日、新型ウィルス蔓延により病院に缶詰状態だったが、ようやくシフトの目途がつき久しぶりの自宅の戻ることができた。


朝帰りとなった。自宅マンションの入り口ですれ違った住民から心無い言葉がかけられた。

「あんた、小暮病院の看護師だろ。病気がうつるから帰ってくるんじゃないよ。」

掲示板の張り紙には「病院関係者は病気をうつさないように十分に注意してください。」

夕凪の心に憂鬱が広がった。


マンションの近くにある小暮病院は長年地元の医療に貢献してきた病院で、夜勤などもあるため病院に通いやすいこのマンションには数名の医療従事者が住んでいた。


それにして、徹夜に近い状態で何日も患者の看護にあたり命をすり減らして新型ウィルスへの対処に尽力しているにも関わらず心無いことをするもんだ。


自室の玄関を開け「ただいま~。秋ちゃん。お母さんだよ。」

いつもなら駆け寄ってくる娘の秋が出てこない。

夕凪は心配になりリビングに駆け寄る。


部屋の真ん中で泣いている秋をみつけた。

「秋ちゃん、どうしたの?何があったの?」

「隣のおばちゃんが、ウィルスがうつるから外に出ないでっていうの。なんで?アキが悪いの?」

夕凪は、秋を抱きしめて「秋ちゃんはなにも悪くないよ。大丈夫。大丈夫だから心配しないで。」と慰めた。


隣のおばちゃん、東塔子ひがしとうこはマンションの住民代表を務めているが、日ごろから偏見の持ち主で住民からあまり好かれていないが、できれば役員にされたくないという者が多く、黙認されていた。


新型ウィルスの蔓延により、我が国では、医療従事者に対する誹謗中傷が絶えない。

海外では看護師はヒーローだというのに。かのバンクシーでさえ、有名なヒーロー人形が箱に残され、ヒーローに見立てた看護師の人形を手に取って遊ぶ子供の絵を寄贈するほどだ。


我が国の村社会気質は現代でも抜けていないようだ。


夕凪は、気分を変えようと、秋を連れて公園に行った。

人は少ないが、数組の親子連れが間隔をとって子供を遊ばせていた。


そこでまた、心無い声が浴びせられた。

「あんた、こんな最中に子供なんか連れてなにうろついてるんだよ。あれ、待てよ。あんた、小暮病院の看護師だろう。こんなところでウィルス撒いてるんじゃないよ。出歩くだけで犯罪なんだよ。」


夕凪は秋を抱きかかえて公園を後にした。

その様子を一人の男が観ていた。


ある日、隣町に住む東塔子の孫娘、ゆいが新型ウィルスに感染し、たらい回しされ、やっと認められた小暮病院に入院した。

愛する孫娘のウィルス感染にショックを受け憔悴する塔子。


小暮病院では、感染予防のため入り口や通路など導線を完全に分けて患者の管理をしていた。

家族の訪問が認められていた小暮病院を訪れた塔子は、ガラス越しに孫娘の唯が酸素マスクをする姿をみて泣き崩れた。

唯の横で懸命に治療をする女性に目が留まった。

隣の夕凪だった。夕凪は防護服に身を包み動きずらいながらも一秒たりとも無駄にしないというほどきびきびと動いていた。


2週間後、奇跡的に一命を取り留め、2度の陰性が確認された孫娘の唯が自宅に戻ったという知らせを聞きつけ、孫娘の家に駆け付けた塔子は唯の無事を喜んだ。


マンションの入り口で、看護師の夕凪に会った。

塔子は無言で夕凪に頭を下げ、入り口の掲示板から「病院関係者は病気をうつさないように十分に注意してください。」と書かれたチラシを捥ぎ取ってそそくさとエレベータに乗った。


マンションの外でその様子をみた男が呟いた。

「じょうか」と。
























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