龍神達馬~独善のカタルシス~遊戯施設のジレンマ
ただ心の霧を晴らしたい
自分の思うままに
手段は択ばない
そのためにあらゆる準備をする
心の霧が晴らせればそれでいい
それが「独善のカタルシス」
新型ウィルス蔓延に伴い多くの業態で営業自粛が実施されていた。
我が国では法的拘束が緩い規制しかできない。
特措法と聞くと、あの史上最悪な有機リン化合物を使用した神経ガスによるテロ事件を首謀したカルト教団に適用を訴えかけた破壊活動防止法を想像する人もいるだろう。しかし、戦前、戦中の国による暴虐といえる自由への冒涜の歴史ゆえ、あの事件でさえ適用できなかった。
我が国では、国民の自由を奪うような法令はなかなか導入できないのだ。
新型インフルエンザ等対策特別措置法を改定した今回の新型ウィルスに向けた特措法もほとんど強制力もなく効果的ではない。
様々な業態で自粛が続く中、いわゆる3密を招くパチンコ店への批判が高まってきた。
その歴史的経緯は簡単に語れるような話ではないが、パチンコ産業は、戦後のブームが去り始めると国内資本が手を引き、かの国系の主力産業としての様相を呈していた。その後、管理管轄を警視庁が観るようになり、天下りなども発生し、世界の常識ではギャンブルとなるところ、日本のパチンコはギャンブルでありながら見逃されてきた。
新型ウィルス蔓延による営業自粛にあたって、パチンコ業はいわゆる休業補償の対象外であることもあり、営業継続を看過されてきたが、緊急事態宣言により多くの国民が自粛することによるストレスから攻撃的な心理も手伝い、パチンコ業への風当たりが強まって来た。
政府や地方自治体は、世論の高まりとともに休業要請に応えないパチンコ店を特措法の名のもと、店名公開などの措置に踏み切った。それでも休業しない事業者については、法制変更をして罰則規定を設けてまで対処する流れが生まれつつある。
営業を続けるパチンコ店が悪いのか? 訪れる客が悪いのか? 補償も出さず要請を続ける政治が悪いのか? 混沌としている。
しかし、少なくとも3密の温床となっていることは否めないだろう。
その日も朝から都職員が休業要請で店を訪れてたが平行線で終わった。
そして、翌日、店名が公表された。
大方の予想通り、近県から多くの人が店に集まって来ていた。
そのような事態に一番困惑しているのは地元住民だ。人が移動することによりウィルスがその地にもたらせるリスクが拡大する。
誰を優先しようか?そう考えると地元の住民だろう。
新宿のとあるパチンコ店の屋上にある男の姿があった。
パチンコ店は、今日も営業する構えのようだ。
ある店は、経営上やむを得ずの判断だった。自主的に店内の消毒や席も一席おきにシートを封鎖、パチンコ台も使用できないようにしていた。ある店は、特に何もせず開店しようとしていた。
外には早朝から客が集まり、店の前に行列をなしていた。
ある店では、整理券を配り、開店時間まで集まらない様に一人一人に声をかけていた。
これまでに店名公表されたパチンコ店は、東京23区では、新宿区、練馬区、板橋区、北区、足立区、品川区、台東区、東京都下では、八王子市、町田市に点在していた。
開店時間間近、集まった客が入店のため列を作っている。
午前十時。開店時間と同時に店のすべての電源が落ちた。
入店待ちの客がざわついている。
「おい、まだ開かないのか?わざわざ埼玉から来たんだよ。」
「おれなんか、静岡からきたんだ!」
大声をたてる客もいる。
店長が扉から出て来て停電により営業できないことを告げると客らは一斉にため息をついた。
店名公表されたすべての店舗で同時に発生した。
どの店も電源設備が破壊されていた。
店の外で困惑する客の横をすり抜けながら歩き去ってゆく男が小さな声で呟いた。
「じょうか」と。
この出来事は報道されたがすぐに無数のニュースの中に埋もれていった。
パチンコが出来なくなるということは、ギャンブル依存度の高い客にとってはある意味死活問題なのだ。それにかける彼らの嗜好も独善的なのだから。
それ故、大きなジレンマを抱えているのだ。