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龍神達馬~独善のカタルシス  作者: 偉羅万千生
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龍神達馬~独善のカタルシス~無関心の解放

ただ心の霧を晴らしたい

自分の思うままに

手段は択ばない

そのためにあらゆる準備をする

心の霧が晴らせればそれでいい

それが「独善のカタルシス」


2020年3月。渋谷スクランブル交差点前。

新型ウィルス蔓延のさなか、街を闊歩する若者にインタビュー。

とあるワイドショーでのワンシーン。


ディレクター「ちょっといいですか?新型ウィルスの感染防止で外出しなように要請されていますが、どう考えていますか?」

若者「え、関心ないっす。ぜんぜん気にしない。」


このシーンは繰り返しニュース映像で使われ、後日反響を呼んだ。

それにしても世界中で新型ウィルスの蔓延により悲惨な出来事が起きているというのになんということだろう。本当に無知と言うのは恐ろしい。自分がかかるのは自己責任かもしれないが、自分が誰かに感染させることは考えられないのだろう。

最近は大人も子供も想像力の欠如が目立つ。これも平和ボケなのだろうか?


SNSの力は凄い。すぐに人物特定された。こうなると個人情報もネットに晒される。

それでも本人はまったく動じることもなく、度々道玄坂で目撃されていた。

西野雄太、20歳、大学生。

外見は大人でも心は子供。

頭が良いんだか悪いんだか?

多分勉強はできるんだろう。

人間としての地頭が悪い、すなわち論理的思考力やコミュニケーション能力が低いんだろう。

残念で哀れ。いやむしろ、そんな自分に気づかないのだから幸せなのかもしれない。


ある日の深夜。道玄坂のクラブ「G-SPOT」。ドアが開くたびに爆音が聴こえてくる。

雄太はこの店の常連だった。

いつものようにカウンターでカクテル「Kill Me」をオーダー。フロアで踊るお気に入りの三浦紗季を見つめている。

カウンターにドリンクが出されたことには気づいていない。

そこにサッと手が伸びてドリンクに何かの錠剤が入れられた。

シュワっと音がしてあっという間に溶けた。


雄太はドリンクを片手に中央で踊る紗季のもとに向かう。

一瞬、視界が暗転する。


雄太の脳裏に幼いころの記憶が走馬灯のように駆け抜ける。

両親にはあまり愛されなかった雄太の唯一の救いは祖母の咲江からの寵愛だった。

雄太の唯一の心の拠り所。安息の場所は祖母の懐だった。

祖母の無償の愛を受け根拠のない自信を培ってきた雄太は自由奔放だった。

同時に自分を放置した両親に対する嫌悪感や恐怖はそのまま世間への反抗心として培われやがて社会に対する無関心を生んだ。


ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ・・・

硝子越しの向こうに人工呼吸器をつけてぐったりした祖母が横たわっている。

まだ60歳そこそこ、あんなに元気だった祖母、咲江。

前日には車いすでガラス越しの面会もできる程だったのになぜ?

咲江は今、新型ウィルスによる肺炎と戦っていた。


雄太はガラスに両手を突いて、「ばば、どうして?どうして?」と何度も声に出していた。

目には涙が浮かんでいた。


「ピーーーーーッ」先ほどまで心臓の波形表示が流れていたベッド横のモニターの画面は一本の線になっていた。


「嫌だ~、嫌だ~。ばば~っ」


ダンスフロア中央にいる三浦紗季の前で立ち竦み涙を流す雄太の姿があった。

紗季はそんな雄太を観て唖然とした。

「ゆうた、どうしたの?」

「オレ、オレ、もっといろいろ考えないといけない。大切な人のことを・・・、世間のことを。。。」

紗季は、わけが分からなかったが、やさしく微笑んで雄太を包み込むように抱きしめた。

雄太が観たのは幻覚だった。


カウンター席からその様子を眺める一人の男。

「じょうか」とつぶやいた。
















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