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龍神達馬~独善のカタルシス  作者: 偉羅万千生
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龍神達馬~独善のカタルシス~歩き煙草の顛末

ただ心の霧を晴らしたい

自分の思うままに

手段は択ばない

そのためにあらゆる準備をする

心の霧が晴らせればそれでいい

それが「独善のカタルシス」


新見信也は交差点の信号待ちでたばこを加えると慣れた手つきでオイルライターで火を点けカシャっと派手なアクションで蓋をしめてポケットにしまいたばこを深く吸い込む。


信号が変わると咥え煙草を左手の指に挟んで歩き始めた。

交差点ですれ違ったサラリーマンが肩から下げたバッグをかすめた。

黒革のバッグの表面にうっすらと筋が入ったがサラリーマンが気づくことはなかった。


信也はまったく気にする素振りもなく煙草を口に持っていき深く吸い込みフーっと吐き出した。

煙があたりに漂う。いつものことだ。


商店街をすり抜け駅に向かう。歩道上には「歩きたばこ禁止」と啓蒙するプリントがされている。

信也は「チっ!」と声を出して煙草をプリントに叩きつけて踏みつけてそのまま駅に向かった。


JR御茶ノ水駅で降り改札を出ると同時に煙草に火をつけて一息深く吸い込んで吐き出して聖橋を渡る。


湯島聖堂方面から親子連れが歩いてくる。5歳ぐらいの男の子の手を引いた母親は片手に大きな荷物を持って重そうにしながらも子供の手をしっかりと握りしめて歩いている。


信也が親子とすれ違ったとき、子供のほほに煙草の火があたり、男の子が急に立ち止まる。

「お母さん、痛い。痛い」と言って泣き出した。「どうしたの?まさ君。どうしたの?」としゃがみ込んでまさ君の顔をみて唖然とする。頬が火傷で赤くなっていた。母親が振り返った時には信也の姿はすでに人混みに消えていた。意図的に煙草を持つ手を擦りつけたようにも思えた。


信也は神田明神のベンチに座るとポケットから出した煙草の箱をベンチにおいて雑誌を拡げて読み始めた。

あたりには多くの人が参拝に訪れていてざわついている。

ベンチに置かれた煙草に手が伸びて来て何かを箱に入れ音もなく消えた。


信也はしばらく雑誌を読んでいたが雑誌を置いて横に手を伸ばして煙草の箱を手に取る。

煙草を一本取り出して火をつける。

いつものように深く吸い込む。

信也は「ぎゃーっ」と声を出すとのどを両手で押え地面に倒れ込み体を丸めてもだえ苦しんだ。

気道熱傷が彼を襲った。


騒ぎを気にする様子もなく立ち去る男の後ろ姿が見えた。

男は信也の声を聞くと「じょうか」とつぶやいた。







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