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初恋のうた  作者: 潮浜優
3/4

僕がマンガを描いたのは、あの子と友達になりたかったから

僕が初めて恋をした子は、絵がうまくてマンガを描く女の子だった

初恋のうた3




「お母さん、お願いがあるんだ」


僕はそのころ、好きな子がいた


「誕生会を開きたいんだ」


同じクラスの女の子


「いいでしょ、みんな誕生会やってるもん」


その子を呼びたかった


「あら、それならみんな呼ばなくちゃ!」


いや、お母さん、呼びたいのは1人なんだけど…






小学校の入学式が終わると、初めての教室に入った

そこにその子はいた



肩までのショートカット

大きくて丸い二重の目

丸顔で普段から微笑んでいるかのような顔立ち


一瞬目が合っただけで、心臓がドキッとした



かわいい…



今まで女の子を見てそんなふうに思ったことはない

近所の女の子と遊んでても、幼稚園のころ他の女の子と遊んでても、かわいいとか友達になりたいとか思ったことはなかった



どうすれば話しかけられるだろう…

どうすれば仲良くなれるだろう…



その子は大人しくて物静かな子だった

こちらから話しかけなければ、まず友達にはなれない


ほかのクラスメイトの女子とは普通に話すことができるのに、その子だけは違った

どう話しかければいいか分からなかった


たぶん、嫌われたくなかったんだと思う



ウチの小学校は1年から2年に上がる時はクラス替えをしない

1年生が終わってしまっても、その子とは話すことが出来ずにいた




2年生になったばかりのある日、その子が友達にノートを見せているのが見えた

なにげなく後ろを通り、そのノートを覗いてみると、そこにはマンガが描いてあった


会話を聴いていたら、どうやらその子が描いたようだ


これだ!

僕は意を決して話しかけた

「へぇ、マンガ好きなんだ」


「え?う、うん…」


「俺も描くんだぜ!」


「ほ、ほんと?」


やった、食いついてきた!


「じゃあ、見せ合いっこしようか」


え……


「マンガ、見せ合いっこしよう!」



ヤバい!

マンガどころか、絵も描いたことない!



「お、おう!じゃあ、今度持ってくるわ!」


ニコニコしてる

かわいい…



家に帰ると、僕は産まれて初めてマンガを描くことにした




とりあえずノートを8コマに割って、それっぽい物を描いた


ネコのキャラがタイムマシンに乗って過去へ行き、巨大な怪獣と戦う…


みたいなストーリーだったと思う

ちなみに過去に行く意味も、怪獣と戦う意味も無い

絵も文字もきたない


小学校2年生とはいえ、意味不明なマンガだった


それでも学校に持って行った

あの子と話す、ただそれだけのために




休み時間に話しかけた

「マンガ持ってきたぜ」

「ほんと!」

「だからさ、見せてよ」


まずその子のマンガを見せてもらった

正直言えば、小学2年生の描くマンガだから、僕と大差ないと思っていた


「す、すごい…」


ノートには大きなコマと小さなコマ

吹き出しがあって、文字も絵もきれいだ

表紙まであって、題名も飾り文字で描かれている

『ペンギン君の大冒険』


ペンギンのキャラが宝探しに行く冒険マンガだった


「ちゃんとマンガになってる!」

しかも面白い…


「ねぇ、あたしにも見せて!」


「いや、これは…」


僕のは比較にならない、こんなの見せられない!


「ずるい!」


や、やば!嫌われる!


「僕はヘタだから…」

おそるおそるノートを渡す…


「すごーい、かわいい!」


へ?


「この、猫のミケくん?、かわいい!」


「そ、そうか?」


「怪獣と戦うんだぁー、面白い!」


マジで?


「ねぇ、この後どうなるの?」


「こ、この後?この後はさ、えっと…」


「うんうん!」

ニッコリ笑って続きを待ってる


「ミ、ミケが巨大化するんだ!」

「えー!おっきくなるの?」

「あぁ、おっきくなると強くなるんだ!」

「へぇーー!」


続きなんて考えてなかったから、思いつきのでまかせを言った

それでも目をまん丸と見開いて「うん、うん、それで?」って言うもんだから、つられてエンディングまできてしまった!


「やっぱりマンガ描いたら本にしたいよね」


本?マンガ本?

あ、それなら…


「じゃあ、僕んちにおいでよ、ウチにはコピー機があるから」

当時珍しかった家庭用コピー機がウチにはあった


「ほ、ホントに?」

「あぁ、今日来るか?」

「うん!」


や、やった!

1年かかったけど、やっと友達になれそうだ!


僕は心の中で歓喜した




「ひろせまみ」と言う名の女の子

僕はこの子と友達になりたくて、マンガを描きはじめた


その日は、僕んちで2人でマンガを描いた

テーブルに隣どうしで座り、一緒に描く


マンガを見せるとニッコリ笑う

笑うともっとかわいくなる


僕は笑顔が見たくて必死にマンガを描いた




それからクラスでも一緒にいることが多くなった

でもこの頃の男子は女子と仲良くしてるだけでからかわれる、冷やかされる


「ヒューヒュー」

「お熱いねぇ、お二人さん」


そうやって言われるのはイヤだった

この子が僕のためにからかわれるのがイヤだった


でも、気にしてない様子だ…


僕も気にしないことにした





「ねぇ、今日も僕んちにおいでよ」

「うん、いいよ」


他の女子は普通に名前を読んでいたけど、この子だけは意識してしまい、なんて呼んでいいか分からなかった


ヒロセさん、じゃあ、なんか変

まみちゃん、じゃあ、恥ずかしい


だから「ねぇ」とか「あのさ」とか、そういうふうに呼んでいた





それからは毎日のように遊ぶようになった

学校が終わると僕んちに来て、2人でマンガを描く


「まみちゃん、この続きどうしよう」

「えっと、ゆうま君はどんな最終回にしたいの?」


2人だけの時には名前で呼べるようになった

でも学校では恥ずかしくて呼べなかった





夏休みになると毎日は会えなくなる

何かと理由を付けて遊びに行った


マンガができたから…

新しいキャラを描いたから…

流行りのキャラを模写したから…


でも、だんだんネタがなくなる



ある雨の日、まみちゃんの家にマンガ雑誌を持っていった

「このマンガ、お母さんに買ってもらったんだけど、お父さんも買ってきちゃってさ」


「え?」


「あげるよ」


「ほんとに?」



本当は1冊しかない雑誌

雨に濡れないように、注意して持ってきた


昨日お母さんに駄々をこねて「今月号がどうしても欲しい」と言って買ってもらったものだ


ただ、会いに行くためだけに、ウソをついて買ってもらった


笑顔が見たかったから…






2学期が始まっても、毎日のように遊んでいた

そんなある日、僕は体調を崩してしまった


「優馬大丈夫?」

「うん、お母さん大丈夫、行ってきます」

朝からちょっと調子が悪かったけど、ちょうどマンガができたから、まみちゃんに見せるために、無理して学校に行った


「ゆうま君、大丈夫?」

まみちゃんが心配してくれる

「だ、大丈夫、それよりマンガできたんだ」


昼休みに『マンガを見せる』という目的を果たすと、一気に具合が悪くなった


ヤバい…

ガマンしてたけど、午後の授業が始まってすぐに、僕はもどしてしまった


先生に連れられて保健室に行く

しばらくすると、お母さんが迎えに来た


「優馬!優馬大丈夫!」

「う、うん…」

「午前中までは普通に授業受けてたんですけど…」

先生がお母さんに説明している


「ぐったりしちゃって、すぐに病院に行きましょう!」

お母さんが僕の様子を見てあわてていた


僕がぐったりしていたのは、他の理由だった



(まみちゃんの前で吐いてしまった…)



恥ずかしくて情けなくて、僕はどうしていいか分からなかった




翌日から学校を休んだ

夕方になると誰かがウチに来た


「優馬、まみちゃんがプリント持ってきてくれたわよ、出れる?」

「んー、ムリ…」


合わせる顔がなかった…



熱が下がり学校に行けるようになった朝、不安で仕方がなかった


嫌われてたらどうしよう…


でもまみちゃんは変わらなかった

「ゆうま君おはよう、もう大丈夫?」


聞くところによると、まみちゃんが率先して掃除してくれたそうだ

他のクラスメイトから吐いたことを話題にされても、まみちゃんはその事に触れなかった、いっさい話さなかった


本当は涙が出るほど嬉しかったのに、「ありがとう」が言えなかった…





もうすぐ僕の誕生日

その頃、誕生日に友達を自宅に呼んで誕生会を開くのが流行っていた


「お母さん、誕生会したい!」

「え!誕生会?」


まみちゃんに来てほしかった


「そっか、優馬の誕生会か…そんなこと言ったの初めてね、じゃあお母さん頑張るわ!」


なにを頑張るのかよく分からなかったけど、とにかく誕生会を開いてくれるなら、それだけでよかった


「ねぇ、今度僕の誕生日なんだ」

「そうなんだ、いつ?」

「来週だよ!誕生会開くからさ、来てよ」

「え?いいの?」

「もちろん!」


「んー、じゃあ、行こうかな…」


やった!まみちゃんが来てくれる!

誕生日は楽しみなものだけど、今度の誕生日はひときわ楽しみになった!



「お、お母さん…このテーブルは?」

家にあるすべてのテーブルが、リビングから和室にかけて並んでいる


「ほら、誕生会だから」


僕が呼んだのは、まみちゃんと数人だ


「たくさん呼んで盛大な方がいいでしょ?加藤さんちの子と山田さんちの子と吉田さんちの子と……」


お母さん何人呼んだんだ……


「優馬は焼肉好きだし、みんなで焼いたら楽しいかと思って、焼肉パーティーにしたわよ!」




続々とやってくる子供たち

幼稚園で仲の良かった子

近所の子

20人以上?

よく知らない子までいる…



「優馬、まみちゃん来たわよ!」

来た!


僕は玄関に走った


「いらっしゃい!上がって!」


「お邪魔しま……」



玄関はもう置き場がないほど靴が並んでいる

まみちゃんは端っこに靴を置いて入ってきた


「ゆうま、お前の誕生会スゲーな」

「ゆうま君、プレゼント買ってきたよー」


みんなの相手をするのに忙しい

気づくとまみちゃんはテーブルの端っこに座っていた



「みんなそろったわね、初対面の子もいるし、じゃあ一人づつ自己紹介しましょう!」

お母さんの提案で自己紹介が始まった


「俺はゆうまとは幼稚園からの大親友で…」

「となりに住んでるミキです、ゆうま君のお嫁さんに…」

なぜかみんな「いかに僕と仲が良いか」アピールの自己紹介になった



そして、まみちゃんの順番になった


「えっと、ゆうま君のクラスメイトです…」


一言だけだった


「一緒にマンガ描いてます」とか「毎日遊びに来てます」とか…


「1番の仲良しです」とか「将来結婚したい」とか…


そんなのは無かった





結局まみちゃんとほとんど話せずに誕生会は終わった

プレゼントは嬉しかったけど、まだ僕はまみちゃんにとって特別じゃないと痛感した




僕はまみちゃんの特別になりたい

ただのクラスメイトじゃなくて、まみちゃんの1番になりたい!


この誕生会から、そういう気持ちが強くなった


でも、どうしていいか分からない

意識しはじめると、話しかけることができない

今まで普通に話せてたのに、うまく話せなくなってしまった



女子の友達と話すことが多くなったまみちゃん

ウチに来る回数も減った




学年が変わりクラスが別になると、ほとんど話さなくなった

それでも僕はマンガを描き続けた


またいつか、目をキラキラさせて僕のマンガを見てもらうために






ウチの小学校では5年生になるとクラブに入ることになっていた

僕はマンガクラブに入った


いた、やっぱりいた!

彼女もマンガクラブに入っている


少し成長した彼女は前よりかわいく見えた

絵は上達し、少女漫画のような画風だ


「やぁ久しぶり」とか「やっぱりマンガクラブだね」とか言えればいいのに、話しかけることができない

勇気がなかった



マンガクラブで、B4サイズの紙にエンピツだけでイラストを描く課題があった


僕はあれからもずっと描いてたけど、実は人物はあまり得意ではない

僕は流行りのアニメのメカを描いた



彼女のイラストはうまかった

間違いなくクラブで1番うまい

エンピツの使い方がうまいんだ、影とか背景とかの描き方は僕より数段うまかった


もっともっとうまくならないと、彼女と肩を並べられない

そう思った



クラブの卒業作品は、みんなで四コマ漫画を描いて冊子を作ることになった

ひとり1作品だったけど、僕はいくつも描いた

彼女の作品と肩を並べられる作品が描きたい


でも、いくら描いても追いつけない

彼女の作品が1番面白かった




結局、2年間のクラブで1度も話せなかった

むしろ、一言も話さなかったのは彼女だけだ



中学校に上がっても同じクラスにはなれなかった

廊下ですれ違う制服姿の彼女は一段と眩しい


もし、来年同じクラスになったら

3年で同じクラスになったら…


いや、同じクラスにはなれなくても、卒業までには告白したい


そう思っていた





2年生になった初日、クラス替えの表を見て彼女を探した

僕はすぐに見つかったが、彼女がいない

同じクラスではない

他のクラスの表を見ても見つからない


「おぉー、また同じクラスだな!」

「いゃーん、クラス別になっちゃった!」

悲喜こもごもの中、女子にそれとなく聞いた


「広瀬さんは?」

「あぁ、転校したわよ」



………え??








突然、僕の初恋は終わりを告げた

告白したいという願いは叶わなかった


あんなに大好きだったのに、言えなかった

僕に勇気がなかったから、伝えられなかった


それからマンガを描くのもやめてしまった…





あれから、高校に行っても大学に行っても


マンガ投稿サイトを見てもマンガ家の名前を探しても


「広瀬真美」という名前は見つかっていない




友達に「初恋は?」と聞かれると、幼稚園の先生、と答える


でも本当の初恋はまみちゃんだ



僕の大切な想い出

誰にも話したくなかったから…



挿絵(By みてみん)


いつか言おうと思っていた

いつでも伝えられると思っていた


あんなに言うのがこわかったのに

言えなかったことが悔しかった

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