初恋だったのかも…大人になってから気づきました
小学校で仲の良かったゆうま君との、淡くせつない物語
初恋のうた
あたしが初めてゆうま君に会ったのは、小学校2年生の時だった
「へぇ、マンガ好きなんだ」
その頃からあたしはマンガを描いていて、たまにクラスメイトに見せたりしていた
「俺も描くんだぜ」
ゆうま君もマンガが好きで描いているという
すぐに意気投合し、お互いのマンガを見せ合うことになった
初めて出来た異性の友達
趣味も将来の夢も同じマンガ家
「マンガ描いたら、やっぱり本にしたいよね」
「じゃあ、俺んちにおいでよ、ウチにはコピー機があるから」
ゆうま君の家に遊びに行くことが増えた
毎日のようにゆうま君の家に遊びに行き、お母さんとも仲良くなった
クラスでも一緒にいることが多く、冷やかす男子もいたけど、ゆうま君はもともと男女分け隔てなく話すタイプだし、あたしも気にしなかった
ある雨の日、ウチの呼び鈴が鳴る
突然ゆうま君がやってきた
「これ、あげる」
当時流行っていたマンガ雑誌を差し出す
「どうしたの突然、なんでくれるの?」
「今月号をお母さんに買ってもらったんだけど、お父さんも買ってきちゃってさ」
けっこうな土砂降りだったから、足元も肩も濡れていたけど、雑誌は水滴ひとつ付いていない
「あ、ありがとう…」
同じのを2つ買ってしまった雑誌
それを誰かにあげるのに、あたしを選んでくれたのが嬉しかった
あたしとゆうま君の家は同じ学区内とはいえ、そんなに近いというワケではない
ただ誰かにあげるだけなら、近所の子でもよかったはずだ
それなのに、土砂降りなのに、わざわざ届けてくれたのが嬉しかった
きっとゆうま君は、早く届けないとあたしも買ってしまうかも、と思ったのだろう
でもあたしはマンガ雑誌は買ってもらえない
明日も来月も、あたしが手に入れることは無い
あたしはその雑誌を、隅から隅まで読んだ
翌月号が発売されても買ってはもらえないから、ずっと同じマンガを読んだ
何度も、何ヶ月も…
その日、2時間目が終わったあたりから、ゆうま君の具合いが悪そうだった
「大丈夫?」
「う、うん、平気…」
そう言うゆうま君だが、明らかに元気がない
給食が終わり午後の授業になると、彼は机に頭を付けて伏せている
そしてとうとう、もどしてしまった
慌てて先生が駆け寄り、ゆうま君を保健室に連れて行く
先生がいなくなった教室はザワついている
あまりよろしくないニオイが教室をただよう
あたしは率先してゆうま君がもどしてしまったモノを掃除した
今までそんな事をしたことは無い
正義感とか、そういう感情じゃなかった
先生が帰ってくるまで、それをそのままにしておくのが、いたたまれなかったのだ
早くゆうま君の机の周りを綺麗にしてあげたかった
ゆうま君が休んでいる間、先生はあたしにプリントを預けた
「あなたが届けてあげて」
「えー、あたしそんなに家近くないですよー」
でも断ったりはしなかった
その頃、誕生日に仲の良い友達を3~4人呼び、自宅で誕生会を開くのが流行っていた
あたしもよく女子の友達の誕生会に行ったりしてた
ゆうま君の誕生日も、自宅で誕生会をやるという
「誕生会やるから、来てよ」
あたしは初めて男子の誕生会に呼ばれた
男子の誕生会とはどんな感じなのだろう…
男子になんてあげたことないから、さんざん悩んで用意したプレゼント
それを持ってゆうま君の家に行った
男子ばかりで、女子はあたしひとりかな…
そう思っていた
「いらっしゃい、上がって」
「お邪魔しま……」
玄関にはありえないほどの子供の靴
女の子の靴もたくさん…
部屋の中からワイワイする声
イメージしてたのは3~4人の男子
いったい何人いるんだ…
「さぁ、座って座って!」
襖をはずし、リビングと隣の和室をつなげて並べられたテーブル
20人以上いるゆうま君の友達
知らない子たちばかり
しかも半分以上、女の子…
「ゆうま、これプレゼント!」
「あたしもゆうまに買ってきたよー!」
「おぉー、ありがとう!」
みんな親しげで楽しそう
空いてる席を見つけた
ゆうま君とは離れた端の席に、そっと座る
焼肉パーティーと銘打ったその誕生会は、テーブルに焼肉用の鉄板と、膨大な量のお肉が並んでいた
みんな楽しそうに肉を焼いている
親以外の人と焼肉なんて食べたことがない
人見知りのあたしは、知らない子達に囲まれて、どうしていいか分からない
小さな肉切れを選んで、少しだけ焼いて食べた
隙をみて、ゆうま君にプレゼントを渡す
「ありがとう!」
ニッコリ笑うゆうま君
でもその笑顔は、他の子に向ける笑顔と変わらない
そう、変わらない、あたしは他の子と変わらない
ゆうま君にとってあたしは他の子と変わらない
そりゃそうだ、ゆうま君はクラスでも男女分け隔てなく話す
別にがっかりすることじゃない
あたしは、たくさんいる友達のひとりだ…
その日から、少しづつ距離をおいてしまった
ゆうま君の家に遊びに行くことも減り、だんだん疎遠に…
学年が変わり、クラスが別々になると、もうほとんど話さなくなった
ウチの小学校では5年生になるとクラブに入ることになっていた
あたしは迷うことなくマンガクラブに入った
そこにはゆうま君もいた
ゆうま君もマンガクラブに入っていた
絵はとても上達していて、あたしなんかよりずっと上手い
クラブで作る四コマ漫画集も、ゆうま君はたくさんの作品を描いている
とても面白い四コマ漫画ばかり
ちなみに、あたしが描いたのは1つだけ
マンガクラブは絵が好きな同性の友達もたくさんいたから、それなりに楽しかったけど
結局ゆうま君とは2年間のクラブで、一言も話さなかった
中学でも同じクラスではなく、たまに廊下ですれ違ったけど、話したりはしなかった
そして2年に上がる時、ウチの親はマンションを購入した
あたしは転校することになった
そんなに遠くなく、電車で3駅ほどの距離だったけど、中学生には遠い距離だった
風のうわさで、あたしより偏差値の高い高校に行ったとか…
でもそれ以来、ゆうま君を見かけることも、ウワサを聞くこともなくなった……
今、どうしてるかな
プロのマンガ家になったかな
きっとペンネームだろうから、プロデビューしてても分からない
小学校のクラスメイトの名前はうろ覚えだ
まして男子の名前なんて覚えてない
1人しか覚えてない
1人だけ覚えてる
今でもフルネームで覚えてる
伊東優馬…
あぁ、そうか
初恋だったのかも…
大人になってから、そう気づいた
初恋のうた
おしまい
いつもご覧いただき、ありがとうございます
初恋短編集です
ちなみにこのお話は、私の過去の経験とは関係なく、フィクションということでお願いします…