表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

額縁の城

作者: みたよーき

 あるところに、美しい姫が居た。


 その顔容(かんばせ)も。


 その体躯も。


 その髪も。


 そして、その心さえ、美しく。



 その美しさは、人を惹き付ける。


 憧憬や、称賛を。


 羨望や、欲望も。


 妬みや、嫉みさえ。


 引き寄せてしまわずには、いられずに。



 姫の美しい心は、向けられた悪意に傷ついて。


 それでも美しい心は、人を憎むことを許さずに。


 だから、姫は己の城の中へ、逃げ込んだ。



 それでも人は、求める。


 彼女の美しさを。


 その美しさが生む、利益を。


 美しい、彼女自身を。


 そして姫は、城の中で、ただ身を竦ませる。



 ある日、姫に与えたいと言う男が現れる。


 姫が城から出てみると、その男は自らの言うとおり、姫に与えた。


 美しいドレスや、美しい宝石を。


 姫は、そんな物は欲しくなんてないのに。


 だけど姫の心は、人の善意を拒むことも出来なくて。


 そして男は、求めた。


 見返りに、姫の全てを。


 姫はドレスも宝石も突き返し、再び城の中へ逃げ込む。


 ひび割れそうな心は、なのにまだ、美しいままで。



 城の中に閉じこもり続けていた姫は、ふと気付く。


 いつしか、すぐ側に、一人の少女が佇んでいることに。


 その少女は、求めない。


 その少女は、与えない。


 ただそこに、居続けるだけ。



 ある時、姫は少女に問う。


 ――あなたは私に、何も求めないの?


 少女は答える。


 ――私はもう、頂いています。あなたの側に居られる、幸せを。


 少女は姫に問う。


 ――私の身勝手を、許して頂けますか?


 姫は、その少女を好ましく思えて。


 だから、姫は答える。


 ――許します。



 互いにただ側に居るだけの、静かな交流は続いて。


 その中で、心はそっと、近付いて。


 そして、二人は言葉を交わしあい、温かな交流を重ねる。


 その中で、心はそっと、寄り添って。



 やがて、姫は自分の中にある判らない気持ちに気付く。


 ――この、確かめたい想いは、何?


 だから姫は、初めて、求めた。


 ひび割れた心は、それを酷く恐れたけれど。


 それでももう、求めずにはいられないから。


 求められた少女もまた恐れの中で、それでも姫を求めた。


 ただ側に居るだけではもう、足りないから。


 そして求め合う二人は、触れ合った。



 葉が。


 枝が。


 幹を。


 蕾を。


 花弁を。


 優しく。


 激しく。


 狂おしく。


 潤して。


 ――そして、確かめた想いは、愛。



 姫は振り返り、ふっ、と息を吹きかける。


 そして前に向き直り、二人並んで歩き出す。


 二人の手は、しっかりと繋がれていて。


 進む先は、今はまだ、光に満ちている。



 二人の去った壁には、一枚の額縁が掛けられている。


 その中に収まっていたのは、姫の城。


 ベニヤの城は、姫の息に吹かれて、潰れていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ