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春の歪み  作者: Charlie
4/30

何かを実行しても俺は変われないのだろう

5月に入り 一週間が過ぎると、学校中がそわそわし始める。


その原因は我が校の『学校祭』だ。


俺の学校では3年生のほとんどが国公立大学志望だ。だから大きな行事の多くは夏前に終わらせるのだ。また それが理由で3年生を中心として我が校の学校祭への勢いはとてつもない。学校祭を運営するにあたって『学校祭実行委員会』という専門の委員会が設けられる程だ。


先程から『学校祭』と言っているが『文化祭』とは何が違うのかと思うものも多いらしい。正直なところ俺にはそれらの違いは分からないが、生徒会に言わせれば我が校では学校を挙げて、文化のみならず日頃の勉学の成果を十二分に応用し発揮する祭りだから あえて『学校祭』というらしい。



そんな浮き足立った危なっかしい異様な空気の中 俺は職員室に向かっている。

いつもならば少なからず愚痴をこぼしながら歩くが今回は違う。というのも俺を呼び出したのが飯田先生だからだ。俺は今まで生きてきて信用したり信頼する人間が出来たことがない。飯田先生も例外ではなく、俺は彼女を信用・信頼はしていない。しかし彼女は事象を観察し思考して安易な考えを示さない。だから俺は彼女の言うことに耳を傾けられる。


職員室に入り言われた通りに応接室に入る。


「いや、西村。久しぶりじゃないか。どうかね、ここのところの学校生活は。」

「それを僕に聞きますかね。」

「まあ、言わなくてもおおよその見当はつく。」

「わざわざ生徒の生活調査のために僕を呼んだんですか。」

「そう言うなって、少しくらい雑談したって良いだろう。まあ良いだろう、本題に入ろうか。」


そう言われて少し身を前のめりにして構えると後ろのドアが開いた。

「おう、来たか。」

「こんにちは。」

入って来たのは雪宮だ。

「さて揃ったところで君達にやってもらいたいことがある。」

先生は初めから俺たち2人に話をする予定だったらしい。

「君達には今回の学校祭実行委員会に入ってもらいたい。」

雪宮は顔色ひとつ変えなかったが、何か言いたそうな様子だった。

「何で僕たちなのですか。学校行事を運営する委員会ならば少なくとも僕よりも評価できる生徒はたくさんいるでしょう。」

「そうだな。むしろお前達が委員会に入ると言ったら疑問を持ったり愚痴を言う生徒が出てくるだろう。しかし私は君達の学校生活や日常を見て参加してもらいたいと思っている。」

俺の何を見て思ったのかは分からないが、彼女が言うからには何か考えがあるのだろう。

まあ 俺については良いにしても雪宮については理由が分からない。転校して来たばかりで彼女を知るための学校生活の情報が少な過ぎる。

「あの、私についてはどう言った理由なのでしょうか。今 聞いた理由のみでは私の場合は不十分だと思うのですが...」

俺と同じようなことを考えていたようだ。

「先程 言った理由が一番大きい。だが確かに君に不十分な理由なのも事実だ。だが雪宮、君は少し思い違いをしているようだ。私が勧めているのは君だけじゃない。雪宮と西村 君達2人を推しているんだ。」

「つまり今回、僕らが委員会に参加することに意味があるということですか。」

「まあ、大まかに言えばそういうことだ。」


ここで もし俺だけが呼び出され この提案をされたら断ることも考えただろう。しかし2人でやるとなると俺には拒否できない。

飯田先生はそれも見通した上で話を持ちかけた気もするが...


あとは俺のクラスの実行委員とかの根回しはもれなくやってあるという確認程度の話だった。

「それでだ、君たちには今日の放課後に第一回の会議に出てもらう。」

「...うっす」

開始時刻と場所を聞いて、俺らは職員室を出た。

教室に向かい廊下を歩く。俺は誰かと並んで歩くなんてこと経験したことがない。それなのに女性が横を歩きながら、まともに歩けるかよ...

「行動が不審者よ。それ、外でやらない方がいいわね。」

「不審者扱いされても実際は無実だから。」

「そんな行動していたら、あなたの発言なんて信じてもらえないと思うけれど...」

「ああ、そうですか。それで、これから実行委員はどうするつもりなんだ。俺らが選ばれたからには何かやらないとな...」

「確かにそうだけれど、実際に委員の顔を見てから考えた方が合理的ね。」

「まあ、それもそうだな。んじゃ、放課後また。」

「ええ。」

入る教室は一緒なのに、待ち合わせするような表現だった。しかし彼女は疑問を持たずに返事をした。


『また』という言葉を久しぶりに使った。

いつ以来だろうか...わからない。


俺の知っているそれは嘘でしかなく、その場をうまく締めくくる形式的で、無意味な、まるで『構文』の頻出単語のようなものであった。


俺自身が放った言葉だし、知っていたはずの言葉なのに、妙に新鮮で『現実味』を帯びていた。

それを本当に『現実味』というのかは俺にはわからない。

しかし、彼女と放課後に会議に出ることは『現実』になる。それを知っていたから、そう思い込んでいるのかもしれない。いや、そう言うのだと期待しているのかもしれない。


期待して失敗することなんて世の中に腐るほどあるだろうに...


俺が放った、たったの二音が俺の休み時間を少しばかり快適にした。

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