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やさしい猛毒  作者: 鹿井緋色
毒のある花
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兄弟の話

きょうだいは一番近い他人・きょうだいは他人の始まりといった感じの言葉があるが、どうだろうか。俺と美空は血を分けた兄妹で、一緒に暮らしていて、たまに家事金銭の商取引をしていて、軽い共依存の状態にある。


 手違いで同じ高校の同学年になってしまった俺と美空だが、一学期にはたまに美空は俺のクラスに遊びに来たりした。あまりにも狭い交友関係の二人がやけに親しくしている様を見て、「あいつら付き合ってんじゃね?」的な噂を耳にすることもあるし、「兄妹なのに仲よすぎ。ちょっと怪しいよね」というヒソヒソ声を耳にすることもある。っていうかヒソヒソ声はだいたい聞こえるものだ。


 しかして、どうして一番近い他人がこんなに仲良くしているのか。

 答えはそのうち分かる。


 ヒント①、俺たちは依存し合うしかないほどに欠けているものがあった。


*


「つまり、あんたは父さんの浮気相手との子どもで、父親が失踪して母親が病死して、それで身寄りがなくて小尾家に転がり込んでくることになったというわけか。毒島夏陽さん」


「おおむねその通り。私の誕生日の方がキミより少し早いから、私がお姉さんだねっ」


「なるほどなるほどそれはそれは……」


 腹違いの姉、自称猛毒の毒島夏陽。同じ新河高校一年生に三兄妹が集結してしまった。

 あとで父さんに一喝しておかないと。もはや過去のことだがなに浮気してんだあいつは。


 現在、打ち上げ会場で打ち上げ中。始まるまでは包丁の人手を探していたので猛毒改め夏陽とスイカの切り分けを手伝っていた。スイカを切るだけで汗をかく夏陽に違和感を覚えながら、会場を見渡す。どうやらこの打ち上げはかなりの小規模で、スイカと塩とジュースしか出ないらしい。お粗末。


 父さんは他の仕事があって打ち上げには出られないらしい。父さんが仕事で突然いなくなるのはよくあることだし、稼いでもらわなくては困るのだが、本来ならば浮気していたことについて自ら懺悔するべきことだろうに。


 スイカをシャリシャリとかじりながら俺は夏陽にたどたどしく話しかける。


「で……な、夏陽さん。あ、あんたのことなんて呼べばいい? 姉ちゃん? 姉さん? お姉? 姉貴? 姉御? 姉者? アノマロカリス?」


「じゃあ、アノマロカリス」


「ごめんなさい。俺がふざけました」


「いいよいいよ気負んなくて! 名前で呼んで。呼び捨てで夏陽。いきなりお姉ちゃんって呼べなんて言われたら困るでしょ?」


 夏陽は砕けたように笑って手に持ったスイカをかじる。姉弟の間柄にもかかわらず、その所作にほんのり色気を感じるのはなぜだろうか。


「いやっほぉ~なっちゃん~」


 ぬるりと美空が俺の背中にまとわりついてきた。ヒトデかよ。


「やっほ~みっちゃん。相変わらずべったりと仲良いね」


「アタシとお兄ちゃんはつーかーだからね~」


 つーかーって古めかしい言い方だな……。


「あれ? 二人はもう顔見知りなのか?」


「うん。私とみっちゃんはクラスメイトだもん」


「え? そうなのか?」


「いえ~す。みっちゃん、なっちゃんと呼び合う仲だよお兄ちゃん」


「マジか……」


 まさか妹と姉がクラスメイトで友だちだったとは。どういう運命の巡り会わせだよ。っていうかいつから美空はこのことを知っていたんだろう。


 夏陽はしゃりっとスイカをひとかじりするとニコッと俺に笑いかける。


「これからよろしくね、秀美郎くん」


 その毒気のない笑顔に心臓掴まれそうになるのはなぜなのだろうか。


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