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いつかの回想
人がついた嘘をなんの気はなしにただ許せるようになったのはいつからだろうか。
真夏の隙間を縫うように降る静かな雨になにも感じなくなったのはなぜだろうか。
空を行くひこうき雲を見てとくになんとも思わなくなったのはいつからだろうか。
夏を終えて死んでいく蝉たちが普通だと思うようになったのはいつからだろうか。
かけがえのないものを失うことがどれほどの痛みなのか俺は知っていただろうか。
かけがえのないものを奪ってしまう負い目や苦悩を心で理解できていただろうか。
俺たちに仲良くする時間があとどれだけ残されているのだろうか。
ただただ鮮少とした時間の中で、死にゆく体と生きたいと願う心の交錯に俺は何をしてやれるだろうか。俺は一滴でも毒を与えられただろうか。
花を見た。虫を見た。毒を見た。しかしそれはそのどれとも当てはまらないような気がして、どうにも形容しがたい存在だった。
しかし、無理を強いてたとえるならば、
それは白くて細くて、繊細で可憐で、溌剌で洒脱で、蛍のようにとても美しくて、蝉のようにとても儚げで、触れた人に生涯残る毒のある花だ。