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彼女の表情は誰のもの?

初のちゃんとした短編です

 それは私が生まれて5年が経った年の4月、桜の花が満開になる季節。桜の花にちなんで桜華(おうか)と名付けられたその少女は、その日から私の妹になった。


 桜華が生まれて一年、私達の両親は共働きでそれなりに重要な役職だったので余り顔を見ることなんってなかったがこの一年は必ずどちらかは1週間に1度は見るようになった。その頃はなにも思わなかった。いや少し気にはしていたかもしれない。しかし当時のことはあまりにも幼すぎて覚えてなどいない。


 桜華が生まれて二年、私が七歳、妹の桜華が二歳になったときだ。1週間に1度はどちらか一方を見かけると思っていた両親が実はほぼ毎日妹と会っていると知ったのは。

 その事は家で働いている四人のお手伝いの全員が知っていて黙っていたことを。何より、その事になにも疑問を抱いてないことを。


 桜華が三歳、私が八歳になったときには私は他人からの愛情と言うものが何だったのかすら分からなくなった。もう日常会話なら舌足らずながらもしゃべれるようになった彼女は我が家のアイドルだった。いや、アイドルは少し過小評価過ぎる。もうその姿はおとぎ話なんかに出てくるお姫様そのものでもあった。


 彼女が四歳、私が九歳小学校に入学してから数年がたった、結局幼稚園の卒園式にも小学校の入学式にも彼らは来なかった。

 反対にあまりにも過保護すぎることだが、彼女が入園するとなると両親もお手伝いの佳子さん美樹さん三枝子さん千草さん総出で見守っていた。この頃には諦めていたのか、この事を知ってもなにも思わなかった。いや、なにも思えなかった。


 それから三年の月日が経って、彼女が私の通っていた学校に入学した。今更だが彼女の容姿は整っているの一言で済ますにはとても足りないほど整っているの。生まれたときから可愛らしくよく笑い、よく泣き、手のかかる子ではあったが、誰もが自ら率先して世話を焼いていた。

 彼女の噂を聞いた誰もが噂の人に会いたくて、そんな噂の彼女の書類上は姉の私はよく彼女を紹介してはしいと言われた。紹介するときっと家の人が騒ぐだろうから断っていたがそれが面白くなかったのか、誰も彼もが口を揃えて「どうせ嫉妬しているんだ」や「きっと今まで誰とも話していなかったから人と話せて嬉しくて気を引こうとしてるんじゃないか?」何てことも言われた。

 もう鬱陶しかったから紹介して黙らせようと思い彼女の両親に話を通したところ二つ返事で良いとの答えが帰ってきた。その理由が私のことを考えてならきっと私はこんなことにならなかったのだろう。

 そのとき、彼女の両親が良いと判断を下したした理由はどこまでも彼女本位で、ただ彼女が年上の子に構われることで勉強やこの先のことに有利になると思ってのことだった。それからの学校生活は地獄だった。

 卒業するまで私は彼女の姉。彼女との連絡役。

 そしてただ一人生徒の中でただ唯一の彼女、宮条桜華(みやじょうおうか)の信者ではない人間だった。


 あれから7年今日大学を卒業する。彼女は金持ちの子息令嬢が多く通う有名エスカレーター式私立の特待生として入学していたため、私の学校生活はいたって平和だった。

 まぁもし同じ学校でも入れ違いになっただろうから余り変わらなかっただろうが気持ち的にやっぱり違う。それなりに恋愛もし、彼氏もできた。

 ただ誰と付き合っても必ず1回目のデートで彼女に()()会ってはその男は彼女に惹かれていった。だいたい三人めのときにはもう諦めて人に恋愛感情を抱くこともなくなった。

 明日で大学も卒業するし、あの家の人たちにも許可をもらいすでに独り暮らしを始めている。もうあの家に行く気は一欠片もない。これでやっと悩み多きあの家から解放される。17年の悩みからやっと解放される。


「ま~きちゃん、明日からお互い社会人だね~もう俺ら付き合っても良いんじゃないかな~って思うんだけどどうかな?」


 ・・・・・しかし、この大学に入ってからずっと付きまとっているこの悩みはまだ付きまとう気のようだ。

因みに、まきちゃんとは、私、宮条真輝のことだ名前の由来なんって聞く暇も聞く気もなかったが私の人生は間違いなく輝いてなどいなかった。


「三好くん、何度もいってると思いますが付き合うもなにも私たちは友達でも何でもないただのクラスメイト・・いや?知人?そんな感じの間柄でしかないわけですから付き合う以前の問題ではないでしょうか?だいたい、あなたは学内でもとても有名な無表情王子ではありませんでしたか?今のあなたの表情を見ているとその評判の信憑性を疑わざるをおえないのですが?」

「いやいや、その噂の信憑性は大分高いと思うよ~俺がこんなに表情豊かになるのは真輝ちゃんだけだって。それに俺も何度もいってると思うけど俺のことは三好くんじゃなくて、信治(しんじ)って呼んでっていってるじゃん?」


 このいかにも軽そうな言動をしているのはこの大学でも人気ナンバーワンの三好信治、身長は180を超えその長身に加えて引き締まった筋肉とすべてを吸い付け呑み込むような闇色で、耳の上辺りまでの短髪。見つめられた者を老若男女問わずに魅了すると評判の少し青みがかった深海を思わすような瞳をもった滅多に表情を変えない絶氷の王子と呼ばれる男だ。なぜかわ自分でもわかってないが入学して2年目に彼と同じ講義を受けているといつもなら黙々と板書をしているはずの彼が、突然声をかけてきた。


『ねぇねぇ、君。』

『?なんですか』

『君はさ、何でそんなに笑わないの?』

『?それをあなたに言われるとは思いませんでしたね』

『どう言うことかな?』

『学内では一番と言っても良いほどの無表情で有名な絶氷の王子に無表情について言われるとは夢にも思わなかったってことです。だから無表情で怒らないで下さい怖いです。』

『いや俺としては表情筋がピクリとも動かないほど仕事を放棄している人に怖いって言われる方が怖いんだけどね?』


 そんな風に苦笑いをしていた彼は、噂ほど冷たさを感じなかった。それからの彼は、しつこいの一言につきた。毎講義毎講義必ず声をかけてきて、回りが引くほど私に構った。しかし、彼のファンからしたら私は目障りだしそれがわかっている多くの人は私と仲良くしようとはしない。嫌がらせもされはしたが、中高と続いたいじめに比べたら、大人としての良識を持ち始めた大学生のいじめなど子供の癇癪程度だった。そんな私といつもいてくれたのは中学から仲の良い河崎真理、新波美夏と、厄介なことにこのけんの当事者でもある三好信治。真理と美夏は私の事情も妹のことも知っていてその事で私が人間不振で表情を顔に出すのが苦手なことを知った上で付き合ってくれる変わり者だ。


「あ~また三好がうちの真輝に手出してる!何回言えば真輝がうちの嫁ってわかってくれるん?」

「こら真理。真輝が否定してるんだから嫁じゃないでしょ。それに真輝の嫁は私よ?」

「ちょっと二人とも、おふざけは大概にしてよ。」


 この二人はいつもこの調子だ。これで半笑いとかで言ってるならまだ良いけどこれが結構真剣に言ってるから困る。それを見てさすがの三好くんも苦笑い・・・・をしていない!?なにその『羨ましいな~俺もそんなことを大声で言えたら良いのに』みたいな顔は!もしかしたらただの勘違いってことも・・・


「いや勘違いじゃないよ?」

「っ!な、何がですか?」

「?いや、何かこれだけは言わないといけない気がして」


 時々彼の勘が怖くなるときがある。


「あ~いたいた」

「!?」


 こ、この特徴的な高い声は。


「ど、どうしたの、真輝?」

「え?」


 なんのことだろう?少し体が跳ねたのがばれたのかな?


「まーり多分本人も無意識だよ」


 何がだろう?無意識?私何か変かな?


「顔が真っ青だよ?あのこが原因?」


 顔が真っ青?そう言えば何か体が震えてるような?


「あの子は、私の唯一の妹」

「あー、あのお姫様ね」

「確かにそう思うかも知れないけど・・・・」


 そんな話をしていると、妹ーーー桜華がこちらにやって来た。周りの生徒たちも何事かとこちらを向いて目を引かれている。


「久しぶりだね、()()ちゃ()()。四年ぶりかな?卒業したら実家には帰ってくるんだよね?」

「?そんなわけないでしょう?あなたは知らないかもしれはいけど、私が大学に入学してすぐにあの人たちは私を戸籍から消して、私を父方の祖父の弟つまり大叔父の養子に出したんだよ?つまり書類上すでに他人なんだし他人の家に帰るわけないじゃない」


 そうなのだ。独り暮らしをする絶対条件として私は宮条家の戸籍から抹消されている。大叔父も宮条じゃないのかと言う突っ込みには、大叔父は宮条家の遠戚で世界的にも有名な名家の神代家に婿入りしているので宮条の家のものではない。だから私も実はすでに宮条真輝ではなく、神代真輝(くましろまき)になっている。だかあらあの家に戻る義理もなければ、そんな気もない。


「うん?もちろん知っているけど、お姉ちゃんは大学出たら家でお手伝いとして働くんじゃないの?」


 そう彼女は無邪気にさもそうすることが当たり前でこの世の摂理とでも思っているような顔でのたまった。まるで自分を中心で世界は周り自分に逆らう人間なんて存在するわけがないと言う絶対的な自信がうかがえる。ただそうではないのだ。しかし見ず知らずの他人から見るとそうなるのだろう。だからだろう。


「何をいってるのかな?真輝ちゃんは卒業したら俺に永久就職してくれるんだよ?お嬢ちゃんにあげるわけないじゃないか」


 とても突っ込みどころのある三好くんの台詞に憤りを感じたのは。って、


「ちょっ」

「ちょっと待った~」

「そうよ、三好くん。真輝は今年のはじめから私たち二人と暮らすのよ?ね、真輝」

「いや確かにそうだけど、何か込められている意味が怖い」


 何か違うような意味が込められてる気がしてならない。美夏の言う通り私たち三人は2月の中頃から大学の最寄り駅から3駅ほど離れた駅周辺のアパートに住んでいる。そこを中心に就職先を探したのもあって、通勤ははっきり言っても10分以内だ。最良物件と言っても良い。ただ、問題があるとすれば、3人でひとつの寝室を使っていることだ。ちゃんと部屋はあと二つあるのにも関わらず。しかし、さすがにこれは・・・


「ど、どう言うことですか?お姉ちゃんは私のでしょう?私を優先するんでしょう?私以外に目を向けちゃダメじゃない。みんなみんな私だけを見ていれば良いのに・・・・・・・・」


 そのときの彼女はとても醜かった。いつも周りから天使のようだと言われるその容姿がまるで契約に失敗した悪魔のように驚愕と困惑に彩られ、自分がすべてにおいて正しく周りのものは等しく自分に従い反論などしないと信じて疑わなかったその少女は今目の前で起こる生まれてはじめてのことに頭での処理が追い付かないようだった。


「嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ嘘だ嘘だウソダウソダウソダウソダウソダあ、分かったそうだよこんなのは全~部嘘なんだ。ただの夢。朝目が覚めればきっといつも通り。きっとお姉ちゃんも家に帰ってきてくれる。そうして私を守ってくれる。そうだきっとそうに違いないんだ」


 私以外の皆は突然気が狂ったように呟き始めた桜華に対して驚愕と嫌悪の表情を浮かべている。ただ、私にはきっと私が家に戻らないと知ったらこうなるだろうと言うことはわかっていた。そもそも、私はあの家の人間は全員嫌いだしもうにどと会いたくないとすら思っている。しかし、桜華は別だ。


 あれは、桜華が四歳になり幼稚園の入園式に一家総出の上にお手伝いさんまで行ったときに幼いながらも流石にこれは不味いと思ったことが始まりだ。それからはそれとなく常識を桜華に教えてきたつもりだ。きっとあの子をあのままにしていたらあの子はいつか道を踏み違えると思ったからだ。私のただ一人の妹だ。

 流石に親に愛情をもらえなかった私でも人並みには家族ーーーこの場合妹の桜華だが、に愛情を注ぐと言う感情ぐらい持っている。その結果見てもわかるように桜華は私に依存してしまった。私なりに道を踏みはずさないよう常識を教え込んだのだがそれが災いして、彼女は自分に向けられる異常なまでの愛情に耐えらなかった。これは流石に私も予測できなかったことだがかなり後悔した。そして彼女はそんな耐えられない状況で唯一自分に適度に愛情を注ぎ彼女が失敗をすると怒り嗜め一緒に反省をしてくれる私になつかない訳がなかった。それがいつの頃か依存になりもう手がつけられない状況になっている。ただ、姉として私はこの子を守ると決めている。


「ねぇ桜華。聞いて、確かに私はあの家を出て今神浪のおじさまの養女ってことになってるよ。でもね、あなたを捨てた訳じゃないの。今桜華は19歳でしょ?だから成人の20歳になったら迎えに行くから、それまで待って。」

「で、でも、一年もまーちゃんと離れるなんて嫌だよ~」

「ほら、もうあなたもいい年なんだからそんなに泣かないの。まだあなたは未成年だからね、色々と手続きが複雑なのよ。それに世間的に大人になる20歳の前にあなたを連れ出したらあの人たちが何を言い出すかわからないでしょ?だから我慢してね?」

「グス、じゃ、じゃあ一年たったら一緒に暮らしてくれる?」

「良いけど桜華学校は?大学いってないの?」

「いってるけどこの近くだから問題ないよ」

「美夏も真理も来年から同居人が1人ほど増えるけどいいかな?」


 私がそう聞くと二人はとても渋々だからね!!と言う雰囲気を隠しもせずそれでいて仕方ないな~みたいな困った子って感じのお母さん的な雰囲気を醸し出していた。


「いいな~1人増えるなら俺もいれてよ~」

「「「シネ」」」

「すいません」


 とっても怖かったといっておこう。



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