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1 サイン-sign- ⑧

 俺がまともに学校というものに通った期間は二か月弱だ。小学校入学前、保育園や幼稚園に通っていなかった俺は初めての集団生活に期待を膨らませては、柄にもなく鏡の前でランドセルを背負って心躍らせていた。


 幼稚園が終わった後、毎日家に遊びに来ていた彼方に、誰々が面白いとか、どいつといると楽しいとか、遠足があってどこに行ったとか、どんな絵を描いたのか、いろいろ聞かされていた俺は勘違いしていた。自分も小学校に通うようになれば面白い誰々と遊べて、一緒にいると楽しい奴と話ができるのだと。

 

 でも実際小学校に入学すると、彼方以外に友達はできず、しかし彼方はすぐに馴染んでいって周りに人がいないことはなかった。俺はそれを遠目に見て嫉妬し、輪の中に入りたがっている自分を嫌悪した。教室の中の真ん中の席にいたはずなのにどこか端に追いやられている気分で、誰かの笑い声が遠く聞こえ、うざかった。


 想像と全然違う現実に打ちのめされて、俺は段々と足が遠のいていき、次第に引きこもるようになった。俺がたまに休むと彼方は風邪だと思ったのか遊びに来ることはなかったが、一週間連続で休んだときは学校帰りに訪ねてきて、どうしたの、と首を傾げた。俺は学校に行きたくないんだと告げるとその日から平日の朝晩はいつも俺の家のインターホンを鳴らした。朝は学校に行こうと俺を引っ張り出そうとし、放課後は入学以前と同じようなことと片仮名が書けるようになったとか勉強面のことを楽しそうに喋り、最後に「明日は学校に行こうよ。またね」で締め括られた。


 一連の言動は彼方を独り占めできているようで嬉しかった。学校で起きたことを聞くのは、不思議と嫌じゃなかった。しかし、足繁くやって来る彼方と反比例するように俺はますます外に出なくなった。彼方は欠かさず俺の家を訪ね続け、四年生になり毎週水曜日のクラブ活動が始まって帰りが遅くなっても、来ない日はなかった。


 中学生になって地元の学校に入学しても教室に足を運ぶことはなかった。周囲に人間がいるからこそ生まれる疎外感を味わいたくなかった。彼方はバスケ部に入ったため、帰りに来ることはなくなったが。朝は必ずおはよう、とわざわざ俺の部屋の入り口まで来て片手を挙げた。


 彼方に勧められて何度か保健室登校をしたこともあった。宿題のプリントも何枚かそこでした。昼休みは彼方が俺の分の弁当も持って来て一緒に食べた。女子みたいに中庭に出て木陰に座って食べたこともあった。でもそれも数えるほどだ。保健室だって生徒の出入りはあるし、養護教諭の女も俺の悩みを話せだとか言って無理に聞き出そうとして嫌いだった。プリントはどんなに簡単だと言われても何をどうすればいいのかほとんどわからなかった。唯一の安らぎは保健室の窓から、向かいの校舎の屋上の、太陽の光を反射する金網を眺めることだったが、世話好きな養護教諭は、彼方が毎日二人分の弁当を用意し俺が来ているか確かめようと保健室を訪ねていることを教えた。

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