1 サイン-sign- ④
いつの間にか眠ったようで、目を開けると、カーテンの隙間から漏れる太陽の光が強かった。
鳴らしたことはない目覚まし時計で時間を確かめると昼前で、カーテンを捲って窓の外に広がる青空を見上げる。雲ひとつなく、照り付ける光は容赦ない。
この中を出掛けないといけないのかと気が進まなかったが、新しいゲームソフトを調達しないと暇なのだから仕方ない。着替えるのも面倒臭くて、そのままの格好で部屋を出る。家には俺以外に人の気配はなくて、今日は平日なんだと知る。三人目の父親は仕事で妹は学校だろう。母親は職に就いているのか知らないが、平日の昼間に家で見たことがない。
台所に行き、食器棚の引き出しを開けると、印鑑や通帳の他に銀行の封筒に入った札束がある。一人目の父親、つまり俺の実の父親が毎月送ってくる養育費だ。高所得者らしい彼は普通以上の、並外れた金額の養育費を母親の口座に振り込んでいる。この家も彼のお金で建てたらしい。
何も裁判で決めたわけではなく、好きで家を母親に譲り、好きで支払っているようだ。しかも律儀に、毎月同じ日に振り込まれている。母親はそれを自分の娯楽のために使おうと、その次の日に全額下ろし、こうやって仕舞っている。いつからか、その存在を知った俺は金が必要になるといつもここから頂戴している。二人目の父親がいたときは強請ってもよかったが、現金をくれることはなかった。ソフトみたいに細かいものは、こうやってぱちった金を使って自分で買っていた。どんなゲームに興味があるのか、知られないためでもあった。
今日も十万円ほど引き抜いて財布に仕舞い、それをジーンズのポケットに突っ込み、鍵も閉めずに家を出る。泥棒が入るかもしれないことには関心もない。
自然的な、温度の高い空気とじりじりとした暑さに汗が一気に吹き出る。暑すぎやしないかと首を傾げ、ふと自分が長袖の服を着ていたことに気付き、夏なのだと思い出した。店までせいぜい十分程度だと構わず歩き続きたが、着いた頃にはTシャツは汗を吸ってぐっしょりと濡れていた。黒地でよかったと俺の運に感謝した。
店には小学生の兄弟らしき餓鬼が二人、耳障りな高い声でははしゃぎ、走り回っていた。
もう夏休みなのか。
俺にとっては平日も長期休暇もほとんどの違いがなかったため、餓鬼らの心境があまり理解できない。小学生の頃は、家のポストに担任直筆の手紙と長期休暇用の課題が入れられていたことはあるが、それは休みが始まる合図というだけでやることはしなかった。
そいつらには一瞥しただけで、俺は真っ直ぐゲームコーナーに向かう。五日前に三つ買ったのは全てクリアしてしまった。最低でもあと一週間は外に出たくないから、五個買おうと思い、適当に面白そうなやつを選んだ。新品のRPGが四つとアクション系が一つ。大体いつもこんなもんだ。ここには中古商品も置いてあるが、誰が使ったかわからないものなんて触りたくもない。ケースの表面に俺じゃない奴の皮脂が付いていると考えるだけで虫唾が走る。その逆の、俺が触ったものが知らない奴に使われるのも嫌で、もう使わないゲームソフトやハードなんかが部屋に溜まっている。売るように勧められたこともある。数えたら百個以上あるんじゃないだろうか。絶対そんなことはしないが。




