妹の成長は兄の預かりしれないところにある
「わかった! クエストを受ければいいんだよ!」
場所は冒険者ギルド内に併設されたレストラン。
昨日のことを思い出していると、朝ご飯を食べ終わった雅が唐突にそう言ってきた。
「お兄ちゃんのレベルを上げるためにはそれがいいと思うっ!」
「でも雅。昨日の見ただろ? 敵に攻撃すら与えられない俺がどうやったらレベルを上げられるんだ?」
炎のスキルをコピーしても火の粉すら出せないそんな俺が経験値を積む方法が思い浮かばない。
俺は雅に自虐的にもそう返した。
「あのねっ。クエストには薬草を摘んできたり、危険指定モンスターの見張りをしたりするだけで報酬と少しの経験値がもらえるんだよ! 危険指定モンスターの見張りは危ないかもだから、薬草摘みとか安全なクエストとかいいと思うの…………!」
「本当に? 薬草摘むだけで経験値ゲットできるの?なら行こう!」
そんな簡単な方法があったなんて……!
1日目からそうしとけばよかった。
俺と雅はさっそくクエストを受けようと多くのクエストが張り出された掲示板へと足を運んだ。
「うわー結構あるな」
掲示板には所狭しと張り紙が貼られている。
冒険者が不足しているのだろうかというほどの量だが、受付のお姉さんいわく、お願いされれば一般市民からの依頼も掲示するのでこの量になっているわけであって、決して冒険者が少ないというわけではないそうだ。
確かに、『仕事の間の子供の面倒をみてください』やら『捨て猫拾いました。引き取ってくれる人募集中』などの張り紙がちらほら見える。
「ここ、冒険者のギルドだよな……?」
わざわざ冒険者に頼まなくても、と思いながらも目当ての安全で経験値の貰えるクエストを探す。
ちなみに一般市民からの依頼は基本、ちょっとの謝礼金が貰える程度で経験値は稼げない。
経験値が貰えるクエストは、町の周辺に現れたモンスターの撃退、危険指定モンスターの行き先の監視などといった町の平和に関わるもので、そう言ったクエストにはギルド側のスタンプが押してある。
「あ! あったよお兄ちゃん! 腰痛のためマンドゴドラの採取に行けなくなりました。誰か代わりにお願いします……だって!」
そう言って雅は所狭しとクエストが掲示されている掲示板の中から一枚の張り紙を剥いで俺のところに持ってくる。
見ると、依頼主はこの町の薬剤師でギルドのスタンプもちゃんと押してある。
「マンドゴドラってなんだ?」
「わからない。けど薬草採取のクエスト、これくらいしかなかったよ?」
「まあ受付のお姉さんが教えてくれるか」
俺はさっそく雅が見つけてくれた依頼の張り紙を受付に持っていく。
するといつもの受付のお姉さんが俺たちを出迎えてくれた。
「あ、和希さんと雅さん。おはようございます。今日はどういったご用件ですか?」
「あのーこのクエストを受けたいんですけど……」
「マンドゴドラの薬草採取のクエストですね。 分かりました。マンドゴドラはご存知ですか?」
「い、いや。それが分からないんです」
「では、今から図鑑を持ってくるので少々お待ちくださいね」
そう言ってお姉さんは奥の部屋へと姿を消した。
「そう言えば雅。今レベルいくつなんだ?」
お姉さんが図鑑を持って来てくれる間、何気なく雅に聞いてみた。
昨日も魔力が切れるまで敵を屠ったりしてたわけだし少しレベルが気になった。
もしかしたらもう俺の手の届かないくらいの高さのレベルになっているのでは、と思うと少し怖い。
何が怖いって、もう確実に兄としての威厳が保てなくなることだ。
………いや、もう最初の方からほとんどなかったようなものだけど、レベルの差までつけられるとね。
「え、今? えっとね、この間レベル7になったよ?」
それを聞いて俺は少し安心した。
そんなにレベルが上がっていない。
いや、3は結構レベルアップした方なのかはわからない。
しかし、不安だのなんだかんだ言いつつ、客観的に見た俺の予想では12、3くらいなのではないかと思っていたのだ。
それがレベル7いうのは少し驚きだが、ほっとする。
お兄ちゃん、早くレベル上げて強くなって、早く雅を危険なモンスターから守れるようになってみせるからな!
一人心の中でそう誓った。
強く誓った。
のだが、
「あ、でもね、前よりステータスが下がっちゃったの不満………クラスチェンジしたからってレベル1にならなくてもいいのに………」
…………………え?
「み、雅? クラスチェンジって何?」
「ん? クラスチェンっていうのはね、ある一定のレベルになったとき、自分のクラスを進化させることができること」
雅が優しく教えてくれる。が、問題はそこじゃない。
「雅、クラスチェンジしたの?」
「え、ええっと………あれ? 言ってなかったっけ………私ね、この間ウィザードになったのっ。なんかレベル30になったらカードにでてきたから」
雅はなんだか嬉しそうにそう語る。
「私ね、ちょっと気になってたんだ、ウィザード! えっと、そのね、かっこいいから…………!!」
どうやら雅は念願の魔法使いになれてとても嬉しかったようだ。
「そ、そうか……… かっこいいのになれて良かったな」
「うん……! あ、お兄ちゃん。私ちょっとお手洗い行ってくるね!」
「あ、ああ。いってらっしゃい………」
雅がトイレに向かって駆けていく。
良かったなあ、雅。憧れのウィザードになることができて………
お兄ちゃん、雅の嬉しそうな顔が見れて何よりだよ…………
……………………レベル30かぁ……
「お待たせしました和希さん。他の方が図鑑を使用していたもので少々時間が掛かってしまい………って、どうしたんですか和希さん! そんなに悲しそうな目をして!いったい何があったんです!? しっかりしてください、和希さん――――――――――――――――」