いきなりピンチ!
ちょっと待って! ちょっと待って!!
いくらなんでも弱すぎでしょ!
俺少なくともやけどを食らわせるくらいのことはできると思ってたんだけど!
というか、え? 草に負けたんけど! 雑草以下かよ!!
「お兄ちゃん! 前っ!」
雅の言葉に我に返ると目の前に火の玉が迫ってきていた。
「おおっ!」
俺はそれを間一髪のところで躱した。
やばいやばいやばいやばい。
俺の唯一のスキルが使い物にならない。
「ブッ! ブッ!! ブヒイィィィィィ!!」
さっきから敵がすごい数の攻撃を放ってくる。
こっちから石を投げて挑発した上に、攻撃を仕掛けようとしたことで敵を完璧に怒らせてしまったようだ。
どうしよう。俺ごときの力じゃあいつ、倒せない………
「ブヒヒィィィ! ブヒッ! ブヒッ! ブヒッ!」
豚型モンスターは自身の怒りを知らしめるように吠え、火の球を散弾のように俺に向けて発射する。
あ、やばい。これは避け切れな―――――――――
「ライトニング・エアっっ!」
そう思った矢先、俺に向かって飛んでくる火の球が横から現れた一陣の風によりかき消される。
「コアグレーションっ!」
さらに唱えられた魔法により敵のモンスターが一瞬にして氷漬けになった。
「お兄ちゃん大丈夫?」
敵を倒し終えた雅が小走りで俺の方へ寄ってくる。
さっきからの魔法の数々は雅がすべて放ったものだ。
敵と一対一でやってみたいと言って雅には少し離れたところへ行ってもらっていたのだが、さすがに俺がピンチだと判断したようだ。
うぅ………またしても妹に助けられた。兄として情けない。が
「あああああありがとう雅!!! マジで助かった!」
もう一瞬だが、体に引火して火だるまとなり、のたうち回りながら死んでいく。というストーリーを頭の中で作り上げてしまっていた。
一対一でやるなんて兄としての見栄なんて張らないで、すぐに雅の助けを貰えるよう離れておいてなんて言わなければよかった。
「お兄ちゃんがピンチなんだから当然なのっ」
あーーーーやばい! 超かわいい!!
妹に守られるばかりなのはよくないと思っていたが、それもいいかなと思ってしまった。
俺のピンチに駆けつけてくれる妹。
…………………………んー悪くない?
いやいやダメダメ!
慌てて雑念を振り払う。
かわいい妹は俺が守らないと!
ドッ、ドドッ―――
「ね、ねえお兄ちゃん? なにか聞こえない?」
一人で妹についての葛藤をしていると当の雅が周りをキョロキョロしながらそう言ってきた。
雅にならって少し耳を澄ましてみると確かに何か地響きのようなものが聞こえる。
そしてその音は少しずつだが確実に大きなものへと変わっていく。
「お、お兄ちゃん!あ、あれ…………!」
「ん?」
ドドドドドドドッッ――――――
雅の指差す方を見るとまさにその音の正体たちがこちらに向かってものすごい勢いで走ってきていた。
「おいおいちょっとそれはないだろう!仲間を呼ぶとか反則じゃね?!」
さっき雅が倒した豚型モンスターが十数体、ブヒブヒと仲間が殺られたことを怒っているかのようにこちらに向かって走ってきている。
さっきの奴やたら大声で鳴くなと思っていたが仲間を呼んでいてのか。
よく見たら豚型モンスターの集団の後ろからなぜか二日目に戦ったダチョウのような見た目のモンスター、オストリーもこちらに向かって走ってきているのが見える。
「わわわわ、さっきのオストリーも怒ってこっち来ちゃった!」
あれ?今、雅なんて言った?
「おい。さっきのって、どういうこと?」
「え、ええっとね…………お兄ちゃんが戦ってるときにね? 暇だなあって思って、その、向こうにたくさんいたオストリーの群れをちょっとやっつけてたの」
「戦ってるときなんかおかしいなとは思ったよ! そんなことしてたのかよ」
雅に助けてもらうのはみっともないと思う自分が言うのもなんだが、ちょっと助けてくれるタイミング遅いなとは思ったんだよな。
「というかやばいぞ! もうすぐそこまで来てるじゃん!」
雅とそんなやり取りをしてる間に敵はもうあの火の玉の射程圏内に俺たちを捕捉するというところまで来ていた。
もちろん俺のスキルが役立つわけもなく。
「ま、任せてお兄ちゃんっ! この数ならさっきの群れよりも何倍も少ないから余裕だよ!」
おいおい、俺がたった一匹の豚相手に悪戦苦闘しているときどんだけの数倒したんだよ…………
何倍も少ないって………………あれ、雅、今レベルいくつなの?
もしかして俺ともうかなりの差があるんじゃ………
「い、いくよっ! ライトニング・エアっっっ……………ってあれ?」
俺の不安はおかまいなしに、敵の群れに向かって魔法を放とうとする雅だが、何かおかしなことがあったのか首をかしげる。
「ど、どうした?」
「えっとね? お兄ちゃん、言っても怒らない?」
ちょっと困ったような顔をした雅が俺に上目遣いで聞いてきた。
正直いやな予感しかしない。
「怒るわけないだろ。どうした?」
「あ、あのね…………」
「さっきので魔力全部使いきっちゃったからもう魔法打てなくなっちゃった」
「ああああああぁぁぁぁ!! やばいやばい!! 雅、あいつらとの距離、今どれくらい?!」
「えっと……お兄ちゃんが戦ってたモンスターの方はあまり足が速くなかったみたいでもう見えないけど、オストリーの方は50メートルくらい!」
「くっそ! この世界に昨日来たばっかなのにもうこんな目に合うとか最悪だよチクショウ!!」
魔力切れであまり速く走れないと言う雅を背負って敵の群れから逃げながら、俺は愚痴を吐きまくる。
「あっ街が見えてきたよっ! あそこまで行けば人がたくさんいるからきっと相手も追って来なくなるはずだよ!」
「ふぅ…………な、なんとか逃げ切れたな」
雅の予想通り、街の近くまで来るとオストリーたちは追いかけてくるスピードを弱めていった。
いったいどのくらい走っただろう。数キロは走った気がする。
我ながら命の危機に瀕していたとはいえ、これだけの距離を全力疾走で走り続けることができたのには驚きだ。
「今日はもうすぐに寝たい…………」
やっとの思いで街に戻り帰路へついていると、雅がそう漏らした。
「そうだな。俺も同意見だ。魔力って寝たら回復するものなのか?」
「うん。たぶん。今日の朝起きたときも回復してたし」
「そうかー」
その会話を最後に俺と雅は宿まで無言で歩き続けた。
疲れでもはやしゃべる気力も湧かなかったのだ。
日が沈みきってなく、外はまだ明るい中。
宿に着いたとき、俺たちが一瞬して眠りに付いたのは言うまでもない。