イミテーションの威力はいかに
「イミテーション!!」
<スキル、イミテーションによりファイアをコピーしました>
「くらえ! ファイア!!」
そう叫ぶと俺の手から強力な炎が出現し、目の前の敵を焼き尽くす。
敵は真っ赤な胴体と白い尾を持った豚だ。
そいつが大きな鼻から放ってきた炎の球を華麗に避け、イミテーションで技をコピーしたのだ。
「どうだ? 自らのスキルでやられる気分は」
燃えて黒焦げになった敵の姿にそう残す。
当然、敵はピクリとも動かない。
敵の背後に広がっていた草木も俺の炎に焼かれ灰と化してしまっていた。
我ながら自分の放ったスキルの威力に驚きを隠せない。
これだ…………………! この力があればどんな奴でも倒せる気がする!
「待ってろ魔王! すぐに俺の手で葬ってやる! ふっ……ふふはははは―――――――――――――――
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「ってところで目が覚めた」
「お、お兄ちゃん………それは、儚い夢だったね………」
こちらの世界にきて三日目の朝。俺と雅は冒険者ギルドで朝食をとっていた。
「あーー………………まさかあんなにもとは思わなかったなあ……」
「お兄ちゃん、ちょーノリノリだったのに、ね?」
「やめて! 今思うと恥ずかしい! ほんと他に誰もいなくてよかった………」
「えーー。かっこよかったのにー」
「え、うそ! ほんとに?」
「えっ! あ、う、ん? ちょ、ちょびっと………?」
「ちょっと待って! なんで引く?!」
「だ、だって冗談でまさかこんなに喜ぶとは思わなかったから………………」
そりゃ妹にかっこいいなんて言われたら喜ばないわけがない。
世に生きる妹を持つ兄ならみんな当たり前な感性だろう?
「って、あれっ? 今冗談って言った?」
「うん。冗談って言った」
「……………いいよもう。どうせ俺はショボくて恥ずかしいやつだよ」
さて、俺と雅がいったい何の話をしているか。
まあ、察してくれているかもしれないが、俺が新たにゲットしたスキル、イミテーションについてだ。
一体何があったのかを説明するには、話は昨日まで遡る。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! 見て見て! あれなんてどうかな!」
ルナさんに貰った俺にとって初めてのスキルを試そうと、街の外に出てしばらく行くと、雅が何かを発見したようだ。
「あれは…………豚?」
雅が指差す方向を見ると大きな木があり、その下で胴体が赤く、尻尾が真っ白という奇抜な色をした豚みたいな生き物が地面に生えた草を食べていた。
「あれなら一匹だし、ノロそうだし、いけると思う……!」
雅が意気揚々と言った。
なんか俺より雅の方がワクワクしているように思えるんだけど。
すごい楽しそう。
「う、うん。じゃあそうしようか………あ、でもあいつまだ俺たちに気づいてないのか」
俺がイミテーションを使うにはまず相手がスキルを使ってこなければいけない。
「うーん………ほいっ、と…………………」
俺は近くにあった石を投げる。
石は見事に豚に命中し、敵は俺たちの存在に気づいた。
「フブスーー。フブスー…………!」
敵は俺たちを荒い息を吐きながらにらんでくる。
今にも攻撃を仕掛けてきそうだ。
よしよし、早くお前のスキルを見せて…………
「ん?」
なぜだか豚が体を上にのけぞらせ、なんだか深く息を吸い込んでいるかのような体勢になった。
そして限界まで息を吸うと――――――
ボンッ――――――!!
すごい速さで火の球がこっちに向かってきた。
「やっ! ちょっ!! 危なっ!! って、ちょっと服燃えたんだけど!」
なにあのブタなんで火とか出すの? 予想外なんだけど!?
少し燃えた服の消火活動をしながら、一発目に続いて二発、三発と続けざまに放たれる火の球をギリギリ躱す。
「お兄ちゃん! スキル! スキルっ…………!!」
「おお。そうだった!」
豚が火を出す(しかも結構な速さのやつ)という想定外の出来事に驚いて本来の目的を忘れていた。
ええっと、スキルってどうやって発動させるんだろう……
とりあえず片手を敵の方にかざし、それっぽくスキルを叫んでみる。
「イミテーションっ!!」
<スキル、イミテーションによりファイアをコピーしました>
おおっ! なんだ!?
抑揚のない声が直接頭の中に流れてきた。
ファイアっていうのがあの豚がさっきから放ってくるスキルの名前か?
ということは、さっきと同じように叫べば俺も火の球を出せるってわけか。
ルナさん曰く威力は下がるだろうが、それでも火だ。
触れれば熱いしダメージは与えられるだろう。
「くらえ! ファイアッ!!」
そう叫んだ瞬間、今までに体験したことのない感覚が体中を駆け巡った。
ブワッというかゾワッというかそんな何とも言葉では表せないような感覚が。
体内のエネルギーが敵に向けて突き出した掌に集まっているのがわかる。
そして掌の中で火の球が生成されていく。
その火の球はみるみる大きくなる―――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――ことはなく。
………………………………ぽて。
そのまま真下、地面に落ち、足元に生い茂っている草に触れて消滅した。
そう。
まるで、している途中に落ちた線香花火のように…………………
「………………ショ、ショボい!!!!!!」