初めてのスキル
「儂は占い師というものをやっておっての。うぬの願い儂なら叶える方法を教えることができるが……どうじゃ?」
俺たちを突然呼び止めた女性はそのまま喋り続けた。
「え、えっと……」
「だ、誰………?」
女性は赤紫色のフードを被っており顔を見ることができない。声を聞けば女性と分かるものの喋らなければ男か女かも分からないくらいだ。
この世界に俺たちの知り合いもいるはずもないので顔が見えていたとしても同じことをまず初めに聞くだろうけど。
「ああ、そうじゃな。すまぬすまぬ。儂はルナ=カルティエ。旅をしながら行く先でちょっとした占いをしておるしがない占い師じゃ」
そう言ってルナはかぶっていたフードを脱いだ。
「ん? なんじゃ? 儂の顔に何かついておるか?」
「え、あ、いや何も!」
「う、うん! うん!」
フードの中から出てきたのは、肩まで伸びたきれいな金髪に赤い瞳。そして古めかしいしゃべり方からは想像もできないほどの幼い顔立ちをした少女だった。
パッと見、俺より一、二歳上、もしくは俺と同い年くらいだ。
雅もルナさんのしゃべり方からもっと年上の人を想像していたのだろう。さっきから驚いた表情を隠しきれていない。
「ん、ならよいのじゃ………さて本題に入るが、儂は一つだけ自分の持つスキルを他人に与えるスキルを持っておる。おぬしに儂の持っているスキルを一つやろうではないか」
「なんで、見ず知らずの俺にそんなこと?」
「なに、儂の勘といったところかの。特に意味はない…………………………それに別世界から来たうぬらに興味があるしの」
「えっ? 何か言いました?」
「いやいやなにも。こっちの話じゃ」
「ね、ねえお兄ちゃん。この人怪しい気がするんだけど……………」
話を聞いていた雅が不安げに俺の裾をちょんちょんと引っ張ってくる。
「ううん………」
確かに………
「かはっ! 心配はいらん。うぬらになにをしようというわけではない。占い師をやっているからか、勘までも鋭くなってきての。ただ単に、うぬらを助けてやると儂にいいことが起こるような気がするだけじゃ」
「まあ悪い人ではなさそうだし大丈夫だと思う」
「お兄ちゃんがそう言うなら……」
「ルナさん、それじゃあお言葉に甘えてお願いしてもいいですか?」
雅が心配するのはもっともだけれど、話している感じ悪意はなさそうだしここはルナさんの気まぐれな好意とやらに甘えさせてもらおう。
「うむ。それじゃあこっちへ来い」
「あ、はい」
「違う違う。もっとこっちじゃ。頭をもうちょい下にじゃな………そうそこじゃ!少しじっとしとけよ」
俺はルナさんの指示に従って頭をルナさんの膝あたりの高さまで下げると―――――――――
「ていっ!」
「痛いっっ!!」
思いっきりルナさんのかかと落としを食らった。
「な、なにするんですか!!」
「お、お兄ちゃん大丈夫?!」
「かはっ。それくらいで大袈裟じゃのう。冒険者がそんなでどうする」
雅が心配そうに近くに駆け寄ってくるのに対し、ルナさんは自分が突然攻撃したというのに俺に対して一喝してきた。
「まあじゃが、無事スキルを渡すことができたようじゃ」
「え、い、今ので?」
「スキルを与えるには痛みを通してじゃないとできんのじゃ。じゃからさっきのやつでうぬにスキルを渡したのじゃ」
「そ、そうなんですか…………で、俺が使えるようになったスキルって…………………?」
「それは自分の目で見るといい、ほれ、カードにも書かれておるはずじゃ」
俺はルナさんに言われた通りポケットからカードを取り出しスキル欄を確認してみた。
「あ、ほんとだ!イミテーション………?」
「スキル、イミテーションは相手のスキルをコピーできるスキルで――――――――――」
「そ、それっていわゆるチートスキルってやつ?!」
ルナさんがスキルの説明をし終える前に雅が急に身を乗り出して食いついてきた。
「ち、ちーとすきる?が何かは知らんがそんな驚くほどのものではない。これは相手のスキルをコピーできると言ったが効果の威力まではコピーできんでの。コピーしたスキルの威力は自分のレベルやステータスのマイナス幾分かのものしか出すことができん」
「む、むぅ…………それでもレアなスキルには違いないよ………」
雅の言葉にルナさんは首を傾げイミテーションについて追加説明をしてくれたが、雅はなんだか不満そうだ。
「えっと……つまり、レベル1でステータス最弱の俺がどんなに強いスキルをコピーしたところでショボいのしか出せないと」
「うむ。そういうことじゃ。相手が火を吹くドラゴンだったならば、おぬしは火の粉を微量程度撒くことのできるくらいじゃろうか。まあ、いずれレベルが上がれば使えるじゃろうが、それでもかなり威力のあるものをコピーしようものなら時間がかなり必要になるじゃろうな」
「でも全然俺にとっては貴重なスキルです! 」
そう。どんなスキルであろうとも、レベル1でステータス最弱、スキルポイント0、取得スキル無しのなんの取り柄もない俺がスキルを貰えるなんてこんなに嬉しいことはない。
「かはっ!そんなに喜ばれるとは渡した甲斐もあったものじゃ。まあ確かに無いよりは幾分かマシじゃろうしの。そうじゃ、さっそく試してきてはどうじゃ?」
そのルナさんの提案には大いに賛成なのだけれど、雅に街を探検しようと言い出したのは俺だし、なんだかまた外へ行こうというのは気が引ける。
「行こうお兄ちゃん。私も見てみたい!」
しかし俺の心配は杞憂に過ぎなかったみたいだ。
「いいのか雅? 街の探索は……」
「ん? いいよ?」
雅は目をキラキラさせながら行く気満々なご様子だ。
「そ、そうか。よしそれじゃあさっそく行ってみるとするか! 本当にありがとうございましたルナさん。お言葉に甘えてこれから試しに行ってきます」
「うむ。儂はしばらくはこの街をフラフラしておる予定じゃからまた会う機会もあるかもしれんの。また会ったらその時はスキルの感想を聞かせてくれ。うぬらの成長を楽しみに待っておるよ。本当に…………」