あれ? 俺必要なくね?
朝、俺と雅はさっそく街を出たすぐの草原にモンスターを狩りにやって来ていた
「えいっ!」
「……………………………………………………」
「やあっ!」
「……………………………………………………」
「んっっ!!」
「……………………………………………………」
「お兄ちゃん! 全部倒し終わった!」
お、おう。
妹が強すぎて俺、なんも役に立てねぇ
そもそも俺、雅が何かしらピンチにならないとまともに戦えないし、戦っても数秒で死ぬ。
なんというか兄として妹に常に守られてるというのも不甲斐ない。
まあ雅がピンチにならないのはいいことなんだけど。
今俺たちが、というか雅が倒したモンスターはオストリーという見た目がダチョウのモンスターだ。
来る前に昨日の受付の姉さんに聞いてみたところ、ここらにはこのオストリーというモンスターが多く生息しているという。
オストリーは基本群れを成さず単独で行動していて、スピードはそこそこあるがあまり強くないので、駆け出しの冒険者にはちょうどいい相手らしい。
駆け出しなのに初っ端から平均値を大きく超えたステータスを持つ雅にとっては相手ではなかったようだけど。
「あ、レベルが5になってる」
「もう4も上がったのか。レベルってそんなにすぐ上がるものなのか?」
「たぶん最初の方だからだと思う.....お兄ちゃんは?」
「いや、俺何もしてないし…………まだ1のままだ」
「そっか、やっぱり一緒にいるだけじゃ上がらないんだ………」
どうやら雅は戦闘時に一緒にいることで俺にも経験値が入るかどうか試していたらしい。
………まあ入らなかったのだが。
うん。俺の存在意義がなさすぎる。
モンスターを倒せない以上経験値が入らないわけで当然レベルも上がらず強くなれない。
これじゃあどんどん雅との差が開いていって、雅を守るどころか足手まといになってしまうかもしれない。
「な、なあ雅。今日はもうそろそろ帰らないか? オストリーも結構倒したし…………」
自分勝手だが、これ以上雅との差が開かないように今日のところは引き上げたい。
それにここに来てから雅は一人でダチョウもどきをかなりの数倒している。
普通、駆け出しの冒険者たちは頑張っても5、6匹くらいしか倒せないらしいので、売れば今日の夕飯、宿代くらいは余裕だろう。
「え、でもまだまだ大丈夫、だよ?」
「ほら!この世界に来てからまだ俺たち街とか見て回ってないだろ?今日は早く帰って街を見て回らないか?」
「そ、そういうことなら! 私も街見て回りたいっ!」
さて、どうしたものか。
雅とともに街へ戻り賑わう商店街をぶらぶらしながら考える。
雅のレベルアップを阻止することには成功したが、俺自身が強くならないと意味がない。
俺の固有スキルのアシスターも雅がピンチになるという条件下でしか発動しないわけで、そんな状況になるようなことはできる限り避けるのであってないようなものだ。
それ以前に雅が予想以上に強いおかげで何にも役に立たないのだけど。
強くなるといっても、体を鍛えて腕力を上げようとかは思っていない。
そもそも明日までにそんな肉体改造ができるわけがない。
というわけで雅と一緒に街を見て回りながら考えたのが、何か戦闘の役に立つスキルを取る、というものだ。
昨日の夜、宿もとい馬小屋で俺は雅から異世界の知識について教えてもらっていた。
異世界の知識といっても雅も俺と一緒に、当然初めてこの世界に来たわけなのでよくあるRPGゲームの知識である。
その教えではどうやらこういう世界では技や魔法などを会得できるスキルがあるらしい。
スキルが取れればステータスの弱い俺でも戦いに参加することができると考えたのだ。
「なあ雅。スキルってどうやってとるんだ?」
ダチョウもどきを倒す際に、雅は確か魔法みたいなのを使っていた。
俺は隣で楽しそうに街の中をきょろきょろと見まわしている雅に聞いてみた。
「取れるスキルはカードに表示されるから、それを選択すだけ」
ほうほう。ではさっそくスキルを取ってみようか
「あれ?何にも表示されてないんだけど」
俺はカードを取り出して見てみるが、スキルっぽい名前のものは何も書いてなかった。
「あー…………取れるスキル、ない、ね………スキルポイント0だもん」
スキルを取るにはスキルポイントが必要なのかー
「スキルポイントってどうやったらたまるんだ?」
「ふつうだったらレベルアップしたときとか、かな………」
ん? あれ?
「でも、確か雅って最初から魔法とか使ってなかった?」
そうだ。確か雅は初めてダチョウもどきを倒すとき火の魔法を放っていたはずだ。
「うん………なんか、昨日の夜カード見てみたらスキルポイント300あったから………魔法とかゲットしてみたの」
え、なに? 雅ってばスキルポイント最初からそんなにあったの? もしかしてそれが普通だったりするの?
「だ、大丈夫だよお兄ちゃん! お兄ちゃんもこれからどんどんレベル上げして、そしたらスキルだって覚えられるよ! だ、だからそんな負け犬みたいな顔しないでっ!」
「ま、負け犬…………………………………………」
「あ、ああ……ちがうの! お、お兄ちゃんしっかりしてっ!」
雅から思いもよらぬ言葉による暴力を受け、若干、そこそこ、結構へこんでると、
「おい、そこのお前さんたち、特にそこの小僧」
建物と建物の間。
普段は気づかないような、奥へと続く裏路地へと続く細い道。
その入り口に一人の女性が座っていた。
「おいと言っておろう。こっちへ来んか。おぬしの願い、叶えてやろう――――――――」