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よーし、ちょっくら盗人退治といきますか

「雅ー昼飯何食べるー?」

「ん、んんー………どうしようかな……」


 太陽が天高く登る真昼。俺と雅は午前中のうちに今日のクエストを終わらせ、帰路についていた。



 この世界に飛ばされて約一ヶ月。

 俺も雅もここでの生活にだいぶ慣れてきた。

 レベルも今では俺が6(冒険者)、雅が17(職業:ウィザード)と最初のクエストから随分と上がった。


 え?雅に比べて俺のレベルが全然上がってないって?


 今更そんなこと気にするな。

 マンドゴドラ捕獲クエストを終えてからこれまででレベルが4も上がったことはむしろ驚くべき成長だと思って欲しい。

 ほぼ全てのステータスは最低ライン、俺のスキル『イミテーション』もレベルが6に上がったからと言って、それで敵を倒せるようになった、ということも全くない。

 レベルが1上がるたびに、街の近くの平原でモンスター相手に試しているけれどまず威力がない。

 まあ流石に最初の時のように、放った魔法が重力に負けるといったことはなくなったけどね?

 現在のレベルでは、あの最初に試したモンスター(名前をフレイムピッグというらしい)の火の玉をコピーした場合、当たった場所をほんのり焦がす程度の威力だ。


 うん。雑魚すぎだね。

 それでも成長したといっても過言ではないのは確かなのが逆にちょっと悲しいんだけど。


 そんな俺と比べて雅はというと。


「あっ!そうだ!ジャイアントモールの足がいっぱいあったよね? 唐揚げにして食べよっ!」

「あー……そうだな。昨日のクエストで雅がいっぱい倒したんだったな。5体倒せば良かったところを50匹も………………」


 そう。桁違いに強い。魔法使いというだけあって、遠距離からの魔法攻撃を得意とする雅は、その魔力の高さゆえにここら辺のモンスター相手ではだいたい一撃で倒してしまう。

 もう雅に敵うやつはいないんじゃないかと思っているのだが、雅曰く「わ、わたしまだまだ17レベだし、そ、そんな大したことないよっ!」だとのこと。


「おかげでこの街近くにいるジャイアントモールはほぼ一掃できたけど、他の冒険者たちには、クエストが一つなくなったじゃないかと散々言われたぞ」

「ご、ごめんねお兄ちゃん……つい楽しくなっちゃって……」


 ………モンスター討伐を楽しんでいたらしい。

 雅がいればこの街は平和だと思うのは俺だけだろうか。

 兄として誇らしいような、やはり心配でもあるような。


「まあ、でも雅のおかげでこの街は平和を保ったんだから気にするな。すごいな雅は」

「そ、そうかな……えへへ」

 うん。照れてはにかむ雅もまたかわいい。


「お兄ちゃん?どうしたのニヤニヤして?」

「え!?あ、なんでもない、なんでもない!今日も平和だなと思ってさ!」

 いけない、いけない。顔に出てた。

「むー。絶対違うこと考えてたと思うんだけどなー……んーま、いっか」


 なかなか鋭い雅さんである。


 そんな他愛もないやりとりを交わしていると小高い丘の上にある俺たちの寝床、馬小屋が見えてきた。

 最近はもう馬小屋生活も慣れてきて、あの掻き集めたふかふかの藁の上でないと今ではもう眠れないかもしれない。

 意外と快適に過ごしているのだ。


 そんな我が宿まで、次の角を曲がれば一本道で着くという場所まで来たとき、前から誰かがすごい勢いで走ってきて、俺たちの横を通り過ぎていった。


 頭にバンダナのようなものを巻いた、若い男だ。

 彼の片手には何か小さな袋のようなものが握られている。


「はぁはぁ……だ、誰か……はぁ……そ……その人を…はぁ……止めて……ください…っっ」


 そして、その男に続いて、息を切らせながら、今にも倒れそうに、一人の女性が走ってきた。


「はぁはぁ………はぁ」

「だ、大丈夫ですか?」


 限界がきたのか、俺たちのところまで来たところで、その女性は立ち止まり、懸命に乱れた息を整えようとしている。


「はぁ……ふぅ……は、はい。ありがとうございます」

 そう礼を言った女性は、見た目、年は俺と同じくらいで長く黒い髪の毛を一つにまとめて右肩から前に垂らしている。

「あぁ……どうしましょう」

 女性は男が走って行った方向を見ながら、そう呟いた。

「どうされたんですか?」

「その、歩いていたら先ほどの男に、宝物を取られてしまって」

 尋ねてみると、彼女はどうしよう、と今にも泣きそうな顔でことの事情を話してくれた。


「ひったくり、ダメ! お兄ちゃん。私たちでさっきの犯人捕まえよう?」

「ああ、そうだな! しっかりとは言えないが、顔も見えたし彼女の宝物、奪い返そう!」

「そ、そんなっ! 今会ったばかりの見ず知らずの人にそこまでして頂くなんて!」

 俺たちがそんなことを話し合っていると、ひったくりの被害を受けた女性が、申し訳ない、とばかりにそう言ってきた。


「目の前に困っている人がいるのを放っておくなんてできませんよ」

「うんうん!」

「で、でも…………」

「それに、一人で探すより三人で探した方が絶対早く見つかりますよ! 俺たちこう見えても冒険者ですから、心配はいりません!」

 俺と雅が、遠慮はいらないということを伝えると、

「そ、それなら……」

 と、女性は俺たちの協力を受け入れてくれた。


「本当にありがとうございます! 私リリアと申します」

「俺は和希。で、こっちが俺の妹の雅」

「よろしくお願いします! 和希さん雅さん!」


 軽くお互いに自己紹介を済ませた俺と雅とリリアさん。


 んー……まずは、どうしようかな。

 とりあえず、男が走って行った方を目指すとしよう。


 よし! ちょっくら盗人退治といきますか!




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