マンドゴドラ
うおおぉぉぉぉぉ
やばいやばいやばいやばい
「お、お、お兄ちゃん! 来てるよ! 来てるっ!!」
「分かってる分かってる! くそっ! 何でこっちに来るんだよ!!」
逃奔。逃走。逃亡。
とにかく逃げる。
後ろから迫って来る巨大な花を振り返る余裕もない。
花。
しかし花と言っても事前に花と伝えられていたからそう認識できているのであってそうでなければこれを花とは形容しづらいものがある。
まず見た目。これがなかなかに気持ち悪い。
全身が何か溶け出しているかのようにだらんとしており、言ってみればゾンビ(植物ver.)みたいな感じ。
次に大きさ。これが軽く4、5メートルはある。
そして何よりも自分で動いて追いかけてくるのだ。
地を引きずるようにズルズルのしのしと。
しかも大きさが大きさだから一歩一歩(足はないのだが)が大きいため普通に速い。
グオオワァァァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!!!!
マンドゴドラは雄叫びをあげながら俺たちを追いかけてくる。
植物なのに雄叫びあげるのかよ、という疑問はもはや些細なことである。
「だ、だったら…………っ!」
と、隣を走っていた雅は体を反転させ、
「《フレイム》っ!!」
マンドゴドラに向かって火属性の魔法を放った。
「お兄ちゃん! 今のうちに!」
雅からの魔法でダメージを受けたマンドゴドラは足を止めた。
火属性の魔法なら植物には効果てきめんだろう。
「ナイス雅!」
なんたって雅の魔法は強力だ。そんなすぐに魔法を払いのけることはできないだろう。
敵が足を止めているうちにいったん身を潜めてマンドゴドラ捕獲のための計画を立てる必要がある。
そう考え、魔法を放つため足を止めた雅の手を引き走り始めようとしたとき、それがとても甘い考えであることを思い知らされた。
考えが浅はかだったとしか言いようがない。
確かに効果はてきめんだったし、雅の魔法が強力なものであることには間違いはなかった。
…………ただ、効果がてきめん、魔法が強力過ぎたのだ。
「え、ちょっ―――――――――燃えすぎっっっ!!!!!」
雅が放った炎は一瞬にしてマンドゴドラ全体を覆い、そして大きな火柱となった。
目の前で炎がめらめらと燃え盛っている。
動きを止めれたらいいな程度の考えだったのに、これじゃあ動きを止めるどころか生命活動を止めてしまうことになってしまう!
早急に消火しなければっ!!
「ま、まかせて…………! 《ウェアプール》っ!」
予想外の燃え方に戸惑っている俺を見てか、雅は自身の手を前に突き出して魔法を唱えた。
すると突如として掌から水の流れが出現し、燃え盛るマンドゴドラを中心に渦を巻き、燃え盛る炎はたちまち消化された。
グオ、グオオワァァァァァァァアッッ!!
しかしマンドゴドラが燃え尽きるという最悪の展開は回避できたものの、マンドゴドラは全身を炎に包まれたにもかかわらず今までより一段と大きな雄叫びを上げながら再び俺たち二人を追いかけてくる。
むしろ攻撃をしたことを起こったのか最初よりもスピードが上がっているような気がする。
マンドゴドラに追いかけられ始めてもう十数分は経っただろうか。
俺の体力は結構前から限界に等しかったのだが、そろそろ雅も体力は限界のようでかなり息を切らしている。
「ん……! これ……な………らっ……………!!」
そんな雅が最後の力………とばかりに息を切らしながらも再びマンドゴドラに向かって、
「れ、レイン………フォール………………そ、してっ…………フリーズ…………!!」
続けざまに二つの魔法を唱えた。
「お、おお………!!」
最初の魔法でマンドゴドラの頭上から大量の水が滝のように落ち、そして二つ目の魔法で一瞬で周りの水ごとマンドゴドラを凍らせた。
水魔法と氷魔法の合わせ技だ。
「すごいなこれ……」
俺は目の前にできた氷柱を見あげると自然に感嘆の声が漏れた。
「これ、もう、倒したってことで、いいんだよな……?」
「た、たぶん………もう復活することはないと思う」
「そ、そっか……………ふぅーーー疲れたーーー!!」
めちゃくちゃ走ったな。おい。
死に直面すると限界を超えても走り続けることができるんだな。
知りたくない情報を得てしまった…………
「雅、大……丈夫、か? お前も、もう……体力が、限界……っぽかった……だろ?」
俺はゼェゼェと呼吸が収まらないままに雅にそう問いかける。
ただ走って逃げていただけの俺と違って、走りながらも何度も魔法を放っていた雅は俺とは比にならないくらい体力を消耗したはずだ。
俺がこんなになっているんだ。雅はもっと辛いだろう。
だが、
「わ、私はもう大丈夫。だいぶ落ち着いた、から」
その心配は無用だったようで雅はすでに呼吸を整え終わっていた。
やはりレベルが上がると回復も早くなるのだろうか。
「それよりも、これどうしよう………」
氷に閉じ込められたマンドゴドラを見上げながら雅はうーーんと頭を捻らせる仕草を見せる。
「そうだな。持って帰る……ってのは無理だよな」
マンドゴドラだけでも馬鹿でかいのに今では氷に閉じ込めているのでその分さらに重くなっている。
こんなのを俺たち二人で抱えて持って帰るなんてできるはずがない。
と、二人して悩んでいたそのとき。
グォォォォ――――――
鳴ってはならない音が俺たちの耳に届いた。
嘘だろおい。今の音、氷の中から聞こえたような………
俺たちは恐る恐る魔法で氷付けされたマンドゴドラを見上げる。
「ま、まさかなぁ。そんなことが――――――」
パキ。
パキパキ。
パキパキパキパキパキパキッッ……………………!!!
―――――――――あるわけがない。と言おうとした矢先、氷柱に無数のヒビが走った。
グオオオォォォォァァァァァァァアッッ!!
この数十分の間にもう何度も聞いた雄叫びが再び俺たちの耳をつんざく。
「お、おお、お兄ちゃん! もう嫌ーーー!!」
そんなこと俺だって嫌だよちくしょー!!!!
第二ラウンドとか聞いてないんですけどっ…………………!!!




