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お姉さん。ごめんなさい

「…………………」

「…………………」


 俺と雅は目の前の光景に絶句せざるを得ないでいた。


 ゴリゴリバリバリ

 むしゃむしゃむしゃむしゃ

 ゴリバリバリゴリ

 むしゃむしゃむしゃむしゃ

 バリバリゴリゴリ

 むしゃむしゃごっくん


 俺たちの目の前では今、小さくて愛くるしい見た目のスカンクのモンスターが、その10倍くらいの大きさの凶暴なオオカミ型モンスターを毒殺し、その上、その肉を喰らい尽くそうとしている凄まじい光景が広がっていた。




 グロリアウィーゼル。


 それがあの可愛らしいスカンクの名前だ。

 そしてオオカミのようなモンスターはグロリアウルフという。

 ちなみにグロリアというのはこの森の名前だ。

 グロリアウルフが倒れたあと、ふと受付のお姉さんからもらった資料の裏面を見ると、この森によく出現するモンスターについて記載してあった。

 資料に記されていたグロリアウィーゼルについての説明はこうだった。


『グロリアウィーゼル : 自分を中心とした半径200〜300メートル範囲内に甘い匂い漂わせることで他のモンスターや人間をおびき寄せ、自分に襲い掛からせる。そして半径30メートル範囲内に振り撒いている猛毒により敵モンスターを毒殺し捕食する』



「……………………」


 いや、言葉がまじで出てこない。

 てか、ほんと行かなくてよかった。

 あのオオカミ現れてなかったらあそこでモグモグされてるの俺だよ?

 考えただけで恐ろしい………


「お、おい雅?大丈夫か?」

 隣でずっと固まっている雅に、ようやく口を開いて声をかける。

 距離はそれほど近くないのであまり分からないかもしれないが、それでもなかなかグロい光景であることに間違いはない。

 雅には刺激が強すぎるんじゃないだろうかと今になって気づいた。

「う、うん…………だ、大丈夫だけど………えっと、そのびっくりした」

 うん。まあそうだろう。

 びっくりしないほうがおかしい。


「…………一応聞くけどあれ触りたい?」

「いや大丈夫」

 何気なくそう雅に聞いてみたが、即答だった。


「だよな…………あー………マンドゴドラ、探しに行くか」

「うん」






 *************************************************************************************







「マンドゴドラ、見つからないなー。案外すぐ見つかるもんだと思ってたんだけど」



 スカンク衝撃事件から約1時間くらい歩いたが、俺と雅はなかなかマンドゴドラらしき花を見つけることができていなかった。


「こういうクエストは何か目印みたいなのがあるところが怪しいと思う!」

 雅が俺の隣を歩きながら突然そんな事を言った。


「たとえば?」

「た、たとえば古くからこの森を見守ってきた大樹……とか?」

「そんな木この森にあるかなー……ていうか雅、詳しいな」


 前から思っていたが、この世界に来てから今まで雅はこの世界の知識やら常識やらに何かと詳しい節がある。

 いろいろと慣れるのが早いし。

 スキルについてだったり、クエストについてだったり。

 こういう知識を得れるのはゲームのようなものからだと思うけど、そもそもゲームとかは家に無かったしな。

 両親がまだ生きていたときは俺も雅もゲームとかに興味は無く、買って貰ったりしたことは無かったし、両親が死んだあとなんかは、そもそも買うお金がなかった。


 本当に一体なんでこんな詳しいのだろう?




「そ、そ、そんなことない……よ? 一般常識………うん。うん。そう、そうだよ。一般常識だよっ!」


 あわあわ、オロオロとそんなことを言う雅。

 なんかよくわからないがその慌て方は怪しいぞ?

 噛み噛みじゃないか。

 不審だ。


「いやいや。そんなこと――――――」





 ズドオォォォォォォォォンッッ






 そのとき、俺の言葉を遮るように、すぐ近くの茂みから地を響かせるようなものすごい音が聞こえてきた。




「きゃっ!!」

「な、なんだ!?」


 木がドタドタと倒れる音が聞こえる。

 そんな事態で会話を続けることなどできはしなかった。


 音が大きすぎてどの方向から聞こえてきているのかもわからない。

 周りをキョロキョロと警戒していると、それは俺たちの後ろから、ノッシノッシと地を引きずりながら現れた。



 巨大な影。

 その影に気づき後ろを振り返る。

 俺には一瞬にしてそれが何であるか分かった。

 きっと、いや絶対に雅にも分かったはずだ。





「嘘だろ………」

「お、お兄ちゃんこれって………」





 おいおい……そこそこどころじゃないだろう。


 それは禍々しいオーラを放っており、あえて言葉で表すならば「ドロドロ」した生物。





 もうこれは資料に描かれていたもの――――――マンドゴドラ以外の何物でもなった。






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