はじまり。
聖女不在の中、各地の代表であるお姫様によって、どうにか平和が保たれている世界。
そのお姫様の1人、人魚姫ルーツィアの治めるウォロペアーレに暮らす少女ティナ・コリンは、人魚姫ルーツィアに恋をしていた――
基本は1話完結型の、思いついた時にぽつ、ぽつと投稿する連作となります。ゲーム内ですでに公開されている情報と齟齬がある場合は、そこまでゲームが進んでないんだなコイツ……と生暖かく見守って頂けますと幸いです。
2年前、あたしは運命に出会った。
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ウォロペアーレの海底は、今日も変わらず平和だった。
まぁ、街の外に出れば魔物はうようよと居るんだけど、それはいつものことだし。
『いつも通り』なんだったら結局、それって平和ってことじゃないかとあたしは思うわけなのです。
良いよね、平和。
平和バンザイ。
――などと、全力で平和をかみしめているあたし、ティナ・コリンに向かって投げられたのは、面白がるような、笑みを含んだ、でも内容を冷静に考えてみるとこの上なくひどい一言だった。
「アンタって、相変わらず面白いわよねー、居るだけで」
「いや、確かに母からもいつも、あんたが居ると笑いすぎてお腹が痛いとか言われましたけど。褒めてませんよね、それ!?」
「えぇー? 褒めてる、褒めてるって! だって、ねぇ? 平和バンザイって……ぶくく……ッ!」
ここはしっかりと抗議しなくちゃ、と言い返したあたしに向けられたのはそんな、心がこもってないのが聞いただけでわかるような響きのセリフ。
それから今度は遠慮のない、文字どおりお腹を抱えて笑い転げる声の主――まぁ、笑い転げるって言っても本当に床を転がりまわってるわけじゃないんだけど。
何しろここは、ウォロペアーレの海底にある城の中の部屋の1つ。
息はちゃんと出来るとはいえ、城の中にはどこもかしこも海水が入り込んでいて、あたしの着ている服だって水にゆらゆら揺れているくらい。
それに――いまだにヒィヒィ言いながら笑ってる当の本人、ベアトリクス様は、あたしのような陸の人間じゃなくて、女性の上半身に魚のしっぽを持つ人魚なのだから。
水中で身をよじり、遠慮なく笑いまくっているベアトリクス様に、むぅ、とあたしは唇をへの字に曲げた。
いいけどね、ほんとにいつものことだし。
いつものことだけど――仕返しはしたいわけで。
じとん、と半眼になったあたしは、必死に頭を働かせて、どうすれば目の前の相手を言い負かせるか考えた。
考えて、考えて、考えて。
よし、と決めたあたしが口を開きかけたのと、新たな人物が――って、こちらも人魚なんだけど――現れたのは、同時だった。
「姉さま、あの……ご相談が………あら、あの、お話中だった……?」
「ルーツィア様!」
その人の姿を見た瞬間、あたしはいままでのやり取りなんて全部すっかりきっぱり忘れて、彼女の方へと向き直った。
ルーツィア様。
このウォロペアーレの代表であるお姫様で、たった今まで、っていうか今も笑い転げてるベアトリクス様の妹。
そして、あたしの最愛の相手。
「お話なんて、とんでもありません。今すぐ! いくらでも! 持って行ってください」
「ちょっと……」
力強くルーツィア様に請け負ったあたしの後ろから、なんでアンタが答えてるの? とかいうぼやきが聞こえた気がしたけど、しっかり無視する。
そして、ルーツィア様は。
「そう……なの……? でも……」
「大丈夫です!」
「でも、さっき……」
「大丈夫です!!」
いつも控え目で愛らしいルーツィア様は、あくまで遠慮がちだったけど。
あたしが力強く断言したら、納得してくれたみたいで、「じゃ、姉さまを借りるわね……?」と微笑んでくれる。
どうぞどうぞ、とあたしも嬉しくなってにっこりした。
うん。
今日も、ウォロペアーレは平和だ。