第四十話 「どうして、あんたにはわかるんだよ」
[壁]・ω・`)
[壁]ロ゜)ハッ
[壁])≡サッ!!
[壁]・ω・`)
投稿が2週間も遅れて申し訳ないです……。エタるんじゃないかと思った方もいらっしゃるかとは思います。
どんなに投稿が遅くなってもエタりはしないので、引き続きお読みいただけるとありがたいです。
以前、ルイスさんとエミリア様の間で何かがあったんだと思う。ううん、むしろ何もなかったからこそこんなことになっているのかも。
すれ違いが重なってるだけだって、私は思うんだけど。
エミリア様の諦めきった表情とか、彼女が自分はルイスさんにとって大事じゃないって迷いなく言いきってたことを思い出す。
絶対、エミリア様はルイスさんのことを大切な家族だって感じてるのに。
肝心のルイスさん本人がそれを信じてなくて、わかってもいないなんて。そんなの、さみしすぎるよ。
「どうして、あんたが泣きそうなんだよ」
「え……?」
そんな表情、してた?
頬に手をあてたってわかるはずないのに、自然とそうしてしまう。
「あんたがそんな表情をする必要なんかないんだって。エミリアのことを否定しただけだろ?」
「…………だけじゃないです」
だって。
「ルイスさんが、苦しそうにしてるから」
「……んなこと、ねぇって」
静かに言い返す彼の瞳は、頼りなく揺らいでいた。
「エミリアさんのことを切り捨てる言葉を言うたびに、顔を歪めている自覚はありますか?」
「あんたの気のせいだ」
「いいえ、違います」
それくらいわかるよ。
だって、あなたは私の好きな人だから。
目で追っていたから、わかってしまうんです。
「ルイスさんは、認めたくないだけですよね。……エミリアさんを信じたいって思っているってことを」
「…………頭がいいのも、考えモンだな」
それは、肯定するってことだよね。
ため息をついてからクシャリと紺色の髪をかき混ぜて、ルイスさんは宙を仰いだ。
「……まいった。あんたには、どうしてわかるんだよ」
「秘密、です」
ふふ、ちょっと得意げになっちゃうよ。
ルイスさんのことがわかるのが、嬉しい。
もっともっと、彼のことを知りたい。
それから、傷ついてる彼の心を私ができる限りの力で癒したいな。
彼のことが好きだって自覚して、前よりもずっとルイスさんの力になりたいって思ったから。
この想いを口にはできないけど。
でも、私が彼にあげられることを全部捧げたい。それでいずれ私が元の世界に帰っても、少しでも私のことを思い返してくれなら。
「実は昔は、俺達だって仲が良かったんだ。それが、今じゃこうだ」
「キッカケとか、あったんですか?」
「……」
ルイスさんは口を開きかけて、とどまった。
思い当たることはあるみたいだけど……。どうして、ルイスさんは切なそうな表情をしてるの?
私を映してるはずの目が、また違うどこかを見つめてる。
私を通して誰かを見つけようとする瞳は、以前からあったもの。
でも、何故今の会話でそんな表情を浮かべたのかな。
「――俺が」
「え?」
瞳に影を落としている彼が、静かに息を吸い込む音がした。
「俺が、悪かったんだ。……『彼女』を守れなかったから」
「……」
悪かった、なんて言われても、私には判断なんてつかないよ。
だってその頃はこの世界にいなかったし、何が起こったのかさえ知らないんだから。
『彼女』って、そもそも一体誰のことを指してるの?
「キッカケは……俺の婚約者だった、リーチェが亡くなったときからだ」
「…………っ」
こん、やくしゃ?
ルイスさんには、婚約者がいたの?
でも、亡くなったって……どういうこと?
……まさか。さっきの『彼女を守れなかった』っていうのって。
「俺はリーチェを守れなかった。……約束したのに、だ」
悔しそうに奥歯を噛みしめて、呻くようにそう言葉をもらす。そんな彼の顔には後悔の念が現れていた。
「あいつだけの騎士になるって、約束を交わしたっつうのに……!」
もしかして、剣を持ったルイスさんが瞳に感情を失くすのって。『リーチェ』って呼ぶ人を守れなかったのが原因なの?
だから、無心になって剣を振るおうとしてるの?
……見てる私が不安になる、切羽詰まった様子で。
武道に詳しいわけじゃないけど。きっとあのままの調子で剣を使ってたら、ルイスさん自身が壊れるってわかってた。
それで、私は心配でルイスさんから目が離せなくなったんだよ。
守れなかった後悔があっても、剣をつかみ続けるなんて。
……たぶん、その理由は。
「ルイスさんが騎士をしてる理由は、『自戒』ですか」
「……」
似てる私だからわかる。
彼女を守れなかったときに、剣を捨てることだってできたはずなのに。
それを選ばなかった理由はきっと、彼女のことを忘れないようにするため。そして……自分が殺したんだって、誰よりも自分自身を責め続けるために。
だから、ルイスさんは剣から離れられないんじゃないかな。
他の誰よりも自分が、自身のことを許せないから。
「どうして、あんたにはわかるんだよ」
「…………やっぱり、考え方が似てるんでしょうね」
私の返事を、ルイスさんは「そっか」と、淡く笑って受け止めてみせた。
今にも泣いてしまいそうな彼が、何を考えているのかはわからないよ。
……でも。
ルイスさんの頬に手を伸ばした。手のひらから伝わる熱が、温かくて少し切なくなる。
突然の私の行動に、目を丸くする彼。それを眺めながら、口を開いた。
「あなたは悪くない」
「………………クガ、それは」
私の言葉を遮ろうとするルイスさんを見つめて、わざと目を細めてみせた。
「――なんて、言うと思っていましたか?」
「……は!?」
なんですか、その反応。
まさか、私がそんな言葉を言うと本気で考えていたんですか。
「言うわけないじゃないですか、そんな無責任なこと。だって、私はルイスさんの身に何があったのかとか、リーチェさんをどう守れなかったのか知らないのに」
実際の事実はどうなのかは知らない。
だけど、それでも言えることは一つだけ。
「でも、ですね。もしも私がリーチェさんだとしたら、こう言うかもしれません」
ふっと息を吸い込んで、言葉と一緒に想いも吐き出した。
「『いつまでも、私のせいにしないで。前を向いてください』」
「……」
彼はきっと、過去になってしまった彼女にすがってる。
それは依存って言ってもいいくらいに。
亡くなったリーチェさんだって、ずっと自分のせいで悩み続ける姿なんか見たくないはず。
「……ルイスさんがこんなに大切に想い続けてるんですから、生きてた時には彼女にその想いは届いていたはずです。だから、リーチェさんもルイスさんを同じように大事だって感じてたと思います」
脳裏に、『真実の鏡』を覗きこんだ時に見えた光景が浮かぶ。
あの時に見えた小さな男の子と女の子は、たぶんルイスさんとリーチェさんなんだと思う。
幼い二人はとっても仲が良くて、楽しそうに笑い合ってた。
「そんな『大事な人』が、自分のせいで悲しみ続けたり苦しみ続けるのなんて、絶対嫌です」
私だったら、大切な人には笑顔でいてほしいよ。
大好きなルイスさんに、笑っていてほしいから。
彼が笑顔でいられるんだったら、そうさせるのが私じゃなかったとしてもいいよ。
「…………あんたは、そう考えるのか」
「はい」
「そっか…………」
頷いてみせると、ルイスさんは顔を片手で覆い隠した。
どんな表情を浮かべてるのかな。
……もしかして、私が知ったかぶってることに嫌気が差してるとか?
ジッと様子をうかがってると、やがてクッと何かをこらえるような声が聞こえた。
ルイスさんののど元から発生したその音は、次第に大きな笑い声に変化していく。
……って、どうして今、私は笑われてるの?
脈絡とかキッカケがわからないから、戸惑うしかないよ。
「あの、なにか私、変なことを言いましたか?」
「ック…………い、いや? べつにそういうわけじゃねぇよ。ただ……」
顔を覆っていた手を外したルイスさんと、目が合った。さっきまで苦悩してた姿が嘘みたいに、そこには晴れ晴れとした表情があった。
「俺は、あんたには敵わない。そう実感しただけだ」
次回10月9日(日)12時に投稿予定。
それでは次回も。よろしくお願いします!