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ミスキャスト! ~異世界トリップなんて望んでません!~  作者: 梅津 咲火
◇最終章 レイモンド編◇   毒舌家で皮肉屋の彼と私の関係は何ですか?
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第五十三話  「安心するかもしれない」

 あれから3週間たったけど、相変わらず私は、屋敷から出れない日々が続いている。


 日に日に、レイモンドさんの目の下のクマがひどくなっいく。通常の業務に加えて、さらにこなしているからだと思う。

 何をしているのかはわからないけど、文字通り身を削って、解決しようと動いていることくらいはわかる。

 屋敷の中の空気も、重く苦しいものに次第に染まっていった。


 そんな中、私が何もできないのが心苦しい。


 マクファーソン家が異質な空気に包まれている中だった。唐突な来訪者が現れたのは。



 ◇



「なんで……」


 呆然と、自室の窓を見つめる。慌てて駆け寄って開くと、手すりに腰かけた彼が感情のない黒い瞳で見返してきた。

 その背景は、彼が身にまとっているのと同じ、漆黒だった。


 バルコニーから外へ出ると、頬を軽く風がなでていく。


「クロウ……」


 久しぶりに見る彼は、変わらない。あれから何か月かしか経っていないはずなのに、懐かしい、なんて一瞬感じてしまった。


「どうしてここにいるの?」

「……」


 なんで、答えてくれないのかな。

 思えば、いつもそう。

 彼は急に来たかと思えば、いつもよくわからない謎かけみたいな言葉を残して消えていく。会話はほとんど成り立ってなかった。


 静かに、ゆっくりとクロウが口を開いた。


「まもなく、終焉しゅうえんがもたらされる。お前の決断によって」

「……前にも言っていたよね、それ。その終焉しゅうえんって何?」

「終焉は終わりだ。それ以上でも、それ以下でもない」


 ああもう! また会話になってない!!

 疑問への回答がそれじゃあお手上げだ。


「なら、どうして私なの?」

「他ならない、お前だからだ」

「……私だから?」


 でも、それってどういうこと?

 その終焉が何かはわからないけど、私には関係ないはず。だけど、クロウは『私』だから関係があるって言ってるみたい。


「終焉で終わるのは、何?」

「全てだ」

「全て?」


 全部終わるって、どういうこと?

 首を傾けても、クロウはそれ以上語ってくれない。


「……それを遅らせることとか、回避することはできないの?」

「できないだろう」


 クロウの、黒い瞳と目が合った。

 ……暗く深い底なしの沼を見てるみたい。感情が、まったく読めない。


ついえるのは、変わらない」

「断言するんだ」

「事実起こる」


 そうまではっきり言われると、すごいよね。


「まるで、未来がわかるみたい」


 思わずこぼした言葉に、クロウの眉が動いた。眉間にシワを寄せて、眼光を鋭くしてる。


「……だとしたら?」

「え?」

「先がわかるゆえの発言なら、お前はどうする」


 なにそれ。というか、それに近い心理ゲームあったよね。『もし地球が今日滅ぶとしたら、何をしますか?』っていうの。

 冗談かと思ったら、クロウは黒の眼を私にむけて、ジッと様子をうかがってる。答えを待ってるのかな?


 うーん、未来がわかって終焉がくる、ね。なら、私は、どうするか。


「私なら」


 ーー認めたくはないけど。

 

「安心するかもしれない」

「安心?」


 私の言葉に、彼は目を鋭く細めた。その反応が普通だよね。

 だけど、私の意見は変わらないから、彼の疑惑の視線にただ首肯してみせた。


「そう。……私はね、迷っていたの」


 ううん、今なお迷い続けてる。


「元の世界に戻るのが正しいって、しなくちゃいけないって、わかってるはずなのに。そんなことしたくないって思う私も確かにいて」


 クロウの瞳は、私の言葉に揺らがない。『元の世界』とか、意味がわからないことを言ってるって自覚はあるのに、とまらなかった。

 せき止めてた何かが解放されたみたいに、私の口が動く。


 ――ああ、そっか。私は、誰かに聞いてほしかったんだ。


「最近は、こっちにいたい。ずっとここにいたいって、気持ちが大きくなって。飲み込まれそうになるの。でも……」


 許されない。許されるはずがない。

 私は、あってはいけない存在だから。


 あるべき場所へ帰らないと、そうしないとまた――


 ほの暗く一瞬浮かんだ予想を、まぶたを閉じてかき消した。


 最初っから、選択肢なんてない。そのはずなのに。


「その終焉が起きたら、迷わなくてすむ」


 それを免罪符に、ここにいたまま終えることができる。すごく、私に都合のいい考えで。


 クロウは、私の話を黙って聞いていた。私が口を閉じたら、眉を寄せた。


「くだらない」

「っ! 私は、真剣に悩んでーー」

「くだらないだろ。もうすでに、お前の中で答えは出ているのだから」


 え……?

 心底あきれたといった様子で、クロウが首を振る。


「自覚がないのか」

「自覚……?」

「そのままだと全て失うぞ」


 淡々と怖いことを言わないで。

 断言されて、思わずムッとしてしまう。言い返そうとして、感情のない瞳で私を見すえる彼にのどがつまった。

 先がわかるとしたら、というさっきの彼の発言をふと思い出した。もし、あれが本当だったら……?


 失うとしたら、私を何を失うんだろう。

 全てって……。


 マクファーソン家の皆の顔が浮かぶ。

 この世界に来てから、感謝してもしきれないくらい、お世話になってる人達。得体の知れない部外者だった私を、受け入れてくれた。


 だけど、何より気にかかるのは。


 ーー失うのは、レイモンドさんも?


 しかめっ面でモノクルをいじる姿、唇の端を上げて意地悪く笑う顔、あきれた表情なのに目だけは優しく見つめてきたこともある、あまのじゃくな彼。

 どんな表情だって、私にはかけがえがないもの。


 ……だって、彼が好きだから。


『クガ』


 私の名前を呼ぶ、涼やかなのにやわらかい声が、聞こえた気がした。


 失いたくない。

 意地悪で、でも優しい、どこか危うい彼を、ほっておけない。


 だけどそれは言い訳で、私はただ、彼の近くにいたかった。


 もし、迷うことが、失うことにつながるならーー


「……っ」


 選ばなきゃいけない。

 こちらか、あちらか。


 先延ばししていた答えを、うながすように、クロウは私を見つめた。


「ーーお前は、どちらを選ぶんだ」


 迷い続けることは、もう許されない。

 そう、彼の瞳は語っていた。





▶️元の世界に帰るべき

ここにいたい


 更新が遅くなり、申し訳ありません。

 そして久々の選択肢です!


 まずはサブルートから。

 次回は1ヶ月以内に更新したいと思います。


 それでは次回も。よろしくお願いします!

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