第十九話 「心配される、か?」
「なぁ、機嫌をなおしてくれって」
「……」
私の前で拝み倒す人を、ジトッと睨んだ。
しょげた振りをしてるけどわかる。謝ってるはずなのに、彼の水色の瞳は笑ってる。
全っ然、これっぽっちも悪いなんて思ってませんよね?
「本当にそう思ってますか?」
「思ってる思ってる! 反省してるって! ごめんなー?」
嘘ばっかり。謝罪の言葉に一ミリも誠意を感じないよ。
私をさらった犯人の、ルイス・ハーヴェイさんは目が合えば眉をヘンニョリと情けなく下げた。
久しぶりに会ったけど、ちっとも変わってない。ハーヴェイさんは相変わらず、先輩にソックリ。……外見のみ、だけど。
チリッと胸の奥が焦げついたみたいに痛くなる。彼に罪はないのに、見るだけで苦しい。
口をふさがれて引きずられた時はすごく怖かったし、知り合いだけどされて気分がいいものじゃない。むしろ怒るのが普通だと思う。
……でもこの顔で謝られるのは、ズルい。先輩と重ねちゃうから、あんまり謝られると私のほうが罪悪感が出てくる。
ムカムカするけど、長続きなんかしない。
許すしかないってわかってはいるけど、腑に落ちないよ。
問答無用で意見も聞かないでつれてくるなんて、誘拐に限りなく近いのに。
「……それで。一体私に何の用ですか?」
言い方が多少素っ気なくなったことくらい、目をつむってほしい。強引な手段で私を連れて来たんだから。
「そうカッカすんなって」
誰のせいだと思ってるんですか。あきれたけど、言い返すのも面倒になって無言でジト目で見つめとく。
私のふてくされた様子に、ハーヴェイさんは肩をすくめた。まるで、駄々をこねる子どもを相手にしたみたいに、ヤレヤレって感じで。
……振り回されてるのはこっちなのに、どうしてワガママを言ってるのが私みたいな反応してるのかな。理解できないよ。
「ほら、あんたとは中々最近会わなかったし、俺さみしくってさ」
「はぁ」
「なんだよ、そのシラケた反応は」
それ以外に、どう相槌を打てばいいの?
慣れた様子だから、どうせ他の人にも同じように言ってるんじゃない? そのことに思い当たったら、こんな気の抜けたサイダーみたいな味気ない返事しかでないよね。
むしろ、先輩に似てる顔で言われることでムカムカしてくる。ドキドキなんて全くしない。なんで初対面の時、先輩だなんて勘違いをしちゃったのかな。
声にイラつきがあらわれないように、ため息を出しながら気持ちを落ち着かせる。
「……あの。私、他の人と一緒にいたんですけど」
「ああ、知ってるって。レイモンドだろ?」
「見てたんですか」
だったら、何で余計にほっといてくれなかったのかな。私がレイモンドさんについていこうとしたところも見てたはずだよね?
普通なら、気くらい回してくれそうなのに。……ううん、そんな配慮ができたらこんな風にしてない、かな。
「まあな。べつにいいだろ? 少しくらいは」
「……でも、一言くらいは断らないと――」
「心配される、か?」
ハーヴェイさんの瞳が、笑う。私を見下ろしながら、わずかに首を傾げて聞かれた。
とっさに何を言ったらいいのかわからなくなって、言葉に詰まった。
『心配される』? レイモンドさんに?
そんなこと、あるのかな?
▶ 心配なんてされるはずない。
礼儀はつくすべきだと思う。
というわけで、久々の分岐です。
毎度のごとく、最初はサブエンドから参りましょう。
次回は20日(水)0時投稿予定。
それでは次回も。よろしくお願いします!