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ミスキャスト! ~異世界トリップなんて望んでません!~  作者: 梅津 咲火
◇第四章 レイモンド編◇   毒舌家で皮肉屋の彼の本心はどこにありますか?
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第十七話   「ロクでもないじゃないですか!?」

「ふっふっふ! やっと二人っきりになれたね、おじょーさん!」

「そう、ですね?」


 カプリース君ってば、なんで得意げに笑ってるの? ニヤリって表現がピッタリな笑い方してるけど、そのプクプクしたほっぺには似合わないね。


「さぁっ! チキチキ吐いてもらいましょうか! ボンとはどういった仲でっ?」


 チキチキってなんだろう……? あと、仲って聞かれても。なんて答えたらしっくりくるかな。

 ええっと…………?


「雇用関係?」


 正式な雇い主は、マクファーソン当主のジョシュアさんだろうけど。大体間違ってはいない、よね。


「え。えええぇぇえええっっ!?」

「!?」


 耳がキーンってなるくらいの大声で叫ぶほどかな?

 思わず眉を下げた私は、悪くないと思う。


 バンッなんて音が聞こえたら、カプリース君がカウンターに両手をついて、前のめりになっていた。

 クワッと開かれた目は血走ってる。怖いから! だから、顔を寄せないでほしいよ!


「なにそれ!? そんなただれた関係なの!?」

「ただれた?」


 一体なんのこと? もしかして、私誤解させるようなことでも言ったのかな。


「だってそれってさ! ボンにアハーンなウフーンでウワァーオなことを奉仕してるってこと!?」

「アハーンでウフーン……?」


 なにそれ。擬音語が多すぎてカプリース君が何を聞きたいのか、よくわからない。けど、とんでもなく伝わらないでこじれてるってことだけは察したけど。


「いえ、普通に屋敷の従業員として雇われてます」

「エロい意味で!?」

「違います!」


 勘違いにも程がありませんか!? 色気ゼロの私にそんな大役は務まらないから!

 そもそもエロい従業員なんてあるの!?


「エロい従業員なんてあるんですか?」

「あるよ! この国は禁じてるけど性奴隷とか! でもマクファーソンのとこなら、うまく上の目をかいくぐってやれちゃうし!」


 とりあえずまずは、ファンタジーさを物騒な性奴隷って言葉で感じたくなかったかな。

 鼻息を荒くしてフンスフンスなんて鳴らしながら力説されても、どう反応していいのか。


「あ! それとも愛人!? 愛人なんだ!」

「いえ、どれも違いますから」


 なんでも色恋に無理矢理結びつけようとしないでほしい。

 レイモンドさんが私をこの場に置いていくのを渋ってたのって、こういうこと?


 間違った情報を肯定する気なんてないのに。それでレイモンドさんの不利益になったり、不興を買うなんて恐ろしいこと、絶対にしたくない。


「屋敷の清掃、服の洗濯とか、ごく一般的なことをしてます。最近は厨房に立つほうが多いですけど」

「えぇえええ~? な~んだ、ふつーすぎ! つまーんないの」

「……」


 イラッとしたけど耐えた。私エラい。

 ブーブーとブタみたいに文句の声をあげるカプリース君は、ふて腐れた様子だけど。こればっかりは仕方ないよ。


「でもねぇ~? ボンがすっごく気にかけてたのに、何もナシ?」

「……え? 気にかけてます、か?」

「ええ!? 無自覚っ!?」


 目がこぼれ落ちちゃいそうなほど見開かれてるけど、驚くようなことかな?

 私にとっては、レイモンドさんが『すっごく』気にかけてるってことのほうが、ビックリしてるんだけど。


「ちなみに、どのあたりですか?」

「うん、僕完全にわかっちゃった! ボンの愛情が小指の爪の長さより届いていないね!」


 愛情……? 情が少しでも私に対して移ってるのかどうかだって、微妙なのに?

 屋敷に来た最初の頃なんて、毛嫌いなんて表現が生易なまやさしいくらいにらまれてたけど。たしかにそれに比べたら、今の状況ってだいぶ緩和されたのかもね。

 だからって、彼に気を許されてるのかって聞かれたら、首を傾げちゃうけど。


 どっちかといえば、彼にとって利用価値があるから関わってくれてるだけじゃない? 異世界の知識をいっつも真剣に聞いて、生かそうとしてる印象しかないよ。


「フンフン、な~るほどね! 苦労性なのはこっち方面でもなのかぁ。ウプププ~かわいそ~」


 かわいそうって言いながらなんで笑ってるのかな? あと、『こっち方面』ってどっち方面なの?


「しっかたないなぁ! ここは恋の伝道師、カプリース君が手を貸してあげちゃおうかな!」


 得意気にニヤッとふくみ笑いをされた。さっきから一個も話についていけてないんだけど。カプリース君ってば自己完結しすぎてて。


「たしか、ちょうどお客さんからの要望でできた、イイ新作があるんだよね~」


 カプリース君はそう言って、カウンターの下をあさり始めた。私の視界からはカウンターがあるから、彼の姿がほとんど見えなくなった。

 ただ彼が上機嫌みたいだってことは、所々音程が外れた鼻歌からわかる。彼の頭に乗ってるボウシの先のポンポンが、ふわふわと楽しげに揺れてた。


「おぉ!? あったー!! コレコレ! コレならピッタリ!」


 「ジャーン!」なんて効果音つきで取り出された物が、カウンターの上に置かれた。


「箱、ですか?」


 私の目には、ありふれた小さな木箱に映る。大きさ的には、私の両手にピッタリ収まるくらい、かな?

 箱のフタには、幾何学的きかがくてきな模様が彫られてていたってシンプルな印象。あめ色の生地は、ワックスとかで表面を塗装してるせいなのかも。


「その通り! ここにありますのは、なんの変哲へんてつもないただの箱で~す!」


 やけに芝居がかった様子で、カプリース君が改めてそう言った。

 それで、この箱がどうかしたの?


「中身は開けてのお楽しみ! さぁさぁ開けてみせてよ、おじょーさん!」

「……」


 え、ええー? うさん臭い。

 強引な押し売りに近いかたちでうながされたけど、気は進まないよ。

 断るのは……。


「どうしたのっ? ほらぁ、早く早くぅ!」


 断るのはできなさそう。目を宝石みたいに爛々(らんらん)と輝かされたら、いくらなんでも無理とは言い出しにくい。

 …………はぁ。なんでかな、全く私は気が乗らないんだけど。


 ノロノロと手を箱にのばした。

 触り心地は悪くない、かな。加工段階で磨いてるのかな、底もデコボコもしてない。


 片手でつかんで、耳元でソッと振ってみた。中に入ってるのが壊れないように慎重に。

 ……特に音はしないけど、一体何が入ってるの?


 何もないってことはないよね? だってそれなら、こんなにカプリース君がウキウキするわけないから。


「試作品を検分けんぶんしましたが、問題ありません。当初の予定通りに、あの品を大量に発注する方向でこちらは――」


 そう言って、レイモンドさんが店の奥から首を出すのと、私が箱のフタに手をかけたのはほとんど同時だった。

 自然と、レイモンドさんと目が合う。


 あ、そっか。鳩が豆鉄砲をくらったような表情って、きっとこういう顔を指すのかな?

  

「なっ、何をしているのですか!?」

「!? あ……っ!?」


 レイモンドさんから上がった鋭いとがめる声に、思わず飛び上がった。

 その結果、私の手のひらから木箱がポロリとこぼれ落ちていく。


 とっさに落ちるのをなんとか防ごうとしたけど、手が届かなくて間に合いそうにない。

 落下の途中で箱のフタが開いてしまうのが、スローモーションで見えた。


 開いた箱の隙間から、少しずつ中身が出始めてる。だけどなにこれ、ピンク色のケムリ!? なんでピンク!? しかも毒々しいショッキングピンク!? 本当に、なにこれ!?


 唖然あぜんとしながら目で追っていったら、ケムリがモクモクと立ち上がっていく。まるで生き物みたいに移動し始めて、レイモンドさんの身体にまとわりついた!? 意志でもあるの、これって!?

 レイモンドさんの姿が一瞬ケムリにおおい隠されて見えなくなった。でもすぐに、スウッと霧が晴れるみたいに、ケムリは消えていく。


 カツンと、床に箱がぶつかる音がした。


「っ! だ、大丈夫ですか!?」


 慌ててレイモンドさんに駆け寄った。……見たところ、変わったところはないみたい。でも、なんだかよくわからないケムリ(だと思う)物に包まれてたから、何か体調に影響でも出ちゃうんじゃないのかな……!?


 眉間に彫刻刀で彫ったみたいな深いシワを浮かばせた彼は、滅茶苦茶に不機嫌そうだった。


「問題はありますが、あなたはまたこんな有用なことをしでかして……私に対する褒美でしょうか?」

「え?」「は?」


 私の疑問の声と、レイモンドさんの怪訝そうな声が重なった。


「ぇ? っえええっ?」


 え、ええ!? つまり一体、どういうことなのかなっ?

 問題があるんですかないんですか。そもそも有用ってなんですか。そして褒美とか喜んでいるんですか。


 何を聞いていいのかわからないし、どう受け取っていいのかも判断がつかないよ!


 レイモンドさんの表情は、さっきよりも凶悪なものになってる。般若はんにゃが! 般若はんにゃが降臨なさってる!?


「え、ええと、レイモンド、さん? 結局気持ち悪くなってたりとか痛いところはありませんか?」


 怒りにみちあふれたレイモンドさんを前にすると、正直私の体調のほうが悪くなる。冷や汗も出てくるし怖いけど、それよりも心配。

 レイモンドさんは片手でモノクルの位置を直して、深々とため息をついた。


「どうやら活力のせいか、私の耳が正常になったみたいですね」

「……」


 うん。ダメだよね、これ。

 なんだか、レイモンドさんが言いたいことが全くもって伝わってこないんだけど!

 私の耳がおかしくなったの!? それとも、レイモンドさんが疲れで壊れちゃったとか!?


「プッ……! アハハハハハハッッ!! おっかし~!! そんなのになってるくせに、ボンがせいじょーなわけないって~」


 腹抱えて大爆笑してるけど、カプリース君。レイモンドさんが殺気混じりで睨んでるのはいいのかな? 気にならないの?

 場違いすぎる明るい笑い声が響く。カプリース君のやたらご満悦そうな様子に、違和感があるような。


 ……そういえば。カプリース君が出してきた箱が開いたら、こうなったんだよね?


「カプリース、あなた……! また素晴らしいことをしでかしたのですね!?」

「ブフゥッッ! う、うん、そうそう! また『素晴らしい(・・・・・)』ことをやっただけだって!」


 笑いをこらえきれなかった、震えた声でカプリース君が答える。そのほっぺたが笑いのせいでピクピク痙攣けいれんしてた。

 つまり……ええと、レイモンドさんの今の状態は、カプリース君のしわざってことで、合ってるかな?


 元凶のカプリース君は満面の笑みを浮かべてる。うわぁ、とってもイイ笑顔してるよ。


「僕が渡したのはぁ~……その名も『あべこべボックス』! 開けた人が言おうとしたことと正反対の言葉が出るようになる、魔道具だよ!」

「ロクでもないじゃないですか!?」

「…………ハァ」


 思わず大声でツッコミを入れちゃったよ!?

 レイモンドさんも言い返したいんだろうけど、口を開いたら真逆のことを言うせいか、ため息を吐くだけ。額に手をあててるのは、もしかしたら頭痛でもしてきたのかも。


「安心してって、半日しか続かないから!」


 どこに安心要素があるっていうのかな!? 不安しか湧いてこないのは、私だけ!?

 焦る私と、渋い顔をして黙るレイモンドさんと、ニッコニコで上機嫌なカプリース君。


 なんなのかな、このカオス状態!?


 私が感じてるこの後の一日の不安を代弁するみたいに、レイモンドさんの特大のため息がやけに大きく聞こえた。




 『~』はビブラートがあるとき、『-』は普通に伸ばしているだけのときとで使い分けしています。

 そろそろ糖分注入をしたいところです。あと2、3話くらいしたら、たぶん出てくる……はずです。


 次回は6月10(日)12時投稿予定。

 それでは次回も。よろしくお願いします!

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