1羽
こんにちわ、僕はえいぎょーぶちょー。
え? 肩書きはいいから、名前を教えて?
いや、これが僕の名前なんだ。皆は略してぶちょーって呼ぶけどね。
人間の名前じゃない?
そうだよ、僕はうさぎ。世界で一番大きなうさぎ(らしい)の、一匹。ここ、うさ喫茶『ペロリスト』っていうところで、働いてるうさぎなのです。働くうさぎ、なんだかちょっと、偉くなった気分だよ。
この文章は、そんな働くうさぎ仲間の皆を癒すため。ううん、同じうさ仲間に向けて、そしてうさ好きな人間たちに送る、素敵なメッセージって訳です。
うさぎさんは文字を見れないから、人間さんがテレパシーとか、口述とか(口述なんてちょっとカッコイイ言い方だよね!)、兎に角うさぎ仲間に教えてあげてくれたら嬉しいです。
うさぎって仕事は、サービス業で、24時間勤務なわけだから、みんなお疲れ様なんだよ。
そんなところに、同じうさ仲間が頑張ってる手記(手記! またひとつカッコイイ文字を入れてみたけど、ほんとそれだけで賢くなった気がするから不思議だ)が、届いたらみんな頑張れると思わない?
僕なら頑張れると思う。
だから僕は、こうして発信することにしたのです。
僕は最初にも言ったように、働くうさぎです。
実際に何をして働いてるかと言えば、お客様に愛想を振りまくお仕事をしてる。
オーナーっていう、お店を切り盛りする二人、椿さんとゆえさんは、ただいまこのお店の店長となるかもしれない人の、面接の真っ最中。
今まで女手四つでお店を切り盛りしてきたんだけど、ちょっと限界にきたみたい。
まぁ、元々、二人共丈夫な方じゃないしね。僕たちのお世話や、畑のお世話とかは毎日してくれてたんだけど、ふらふらになりながらって事がよくあった。勿論、うさ喫茶って言うくらいだから、喫茶店も一緒にやってるんだけど、開店してる時って殆どないような、そんなお店だったんだ。
それが、今回店長さんを雇うことで、定休日以外はやることにしたってんだから、二人もちょっと切羽詰まってるような気がしないでもない。
ぼくらは、キャベツが少し少なくなってもいいよって言ったんだけど、そこはうさぎと人間の間柄。伝わってないのか、伝わってても聞こえないフリをしてるのか、必死になって人を探してた。
あ、今ぼくらって言ったけど、そう、僕にはうさ仲間がいるんです。僕も合わせて総勢7匹プラス今日入ったばかりの新うさぎ1匹! みんなでキャベツを減らす決意をしたんだけど、椿さんたちの負担が減るなら、僕は店長雇うのもありかなぁって、今はちょっと思ってる。
それに、今面接に来たのは、男の人なんだけど、なんか、不幸の星を背負ってるような男の人だから、ちょっと応援したくもなってきたんだ(そういう感じって同じうさぎならわかるよね? なんとなく気配で察しちゃうのさ)。
「あのこーやとわれるかなー」
うさ遊技場と呼ばれる、喫茶横のうさスペースで、一緒に応援してたごはん君が言う。
きっと、同じ日の入店だったらなぁって、親近感が沸いてるんだろうなぁ。
「雇われないと困るよ! だって、もう椿さんたち限界だし。みてよ、あの格好……」
そう答えたのは、足袋くん。
言われて、遊技場スペースについてる、喫茶スペースが覗ける窓を見る。
「そうだよ、あれ絶対、顔色隠すためにやってるんだって! あぁ、ボク達いくらでもご飯減らすから、倒れませんように」
足袋君と兄弟の、ソックス君も、それに続く。
僕は、二人のあまりの真剣さに、何も言えないまま、目を伏せた。
とりあえず言えることはひとつ。
おサルの着ぐるみなんていう格好は、大人の女性としても、面接するオーナーとしても、情けないと思うって事は、うさぎでもわかると思うって事だ。