その27(終)
「はあ⁉ お前死んでなかったのかよ⁉」
ハルが人差し指をたてて小さく「シーッ」と言った。
「電車の中で大声出しちゃダメでしょ?」
周りの視線がオレに集まっていた。
「……いや、だってオレ、お前ん家から棺桶出てくるの見たぞ?」
「棺桶?」
「一昨年の冬! 前もって連絡とってて、家行ったら喪服着てる人だかりができてて、親より先に死んだとか……」
考え込んでからしばらくして、
「ああ、それもしかして、おじいちゃんのことじゃない?」
「……は?」
「ちょうどその頃におじいちゃん亡くなったんだよ」
「親より先にって!」
「ひいじいちゃんひいばあちゃんはまだ元気なんだー」
にこやかに答えてきた。
「連絡したの? 聞いてないけど」
「ハルがいなかったから伝言頼んだんだ。会えないようならハルの方からかけ直すようにして下さいって」
「……誰に伝言頼んだの?」
「ええと……」
記憶をたどる。
「……しわがれた声の、お年寄りらしき人だった……」
「じゃあさ、何で死んだ僕が試合に出てると思ったの?」
「……霊に化けたのかと」
「あはは! ユウヤって前からそそっかしいよね」
「……オレは、ずっとこんな勘違いに悩まされてきたのか? バカか? バカなのかオレは?」
「うん、バカだねー」
今まで誤解してた分のイライラ含めてむかついたので、ハルのほっぺをつねって八つ当たりした。
電車とバスを乗り継ぎ、夏の大会が開かれた体育館に着いた。今日は卓球場が一般開放されている。オレとハルに向かってハジメが手を振った。みんな揃ってるようだ。
「おせえよユウヤ! それと宇都宮君だっけ?」
「ハルでいいよー」
「わりい。あれ、ケイ君は?」
自分の背後に向かって親指を立てるハジメ。女子の先輩達が集まっていた。
「ケイ君、今日は私と練習しようね?」
「あ、はい」
「あ、じゃあその次あたしー!」
ケイ君に群がる先輩達。おもむろに瀧野先輩が女子の輪を突き破り、ケイ君を引きずり出した。見せ付けるようにケイ君を抱きしめる瀧野先輩。
「部長ずるいっ!」
「離れろー!」
「ダメよ、この子は私のなんだから」
「先輩、く、苦しいですっ」
もう隠す気ゼロだな。
「アヤさん、おれと打って下さい!」
おお、ハジメが積極的に行動してる。
「うん。ええと、ハマジ君だっけ?」
まだアヤに名前覚えられてないのか、哀れな奴。
「おいてめえ、アヤに少しでもおかしなことしたらぶん殴るからな」
「タ、タケシ先輩ももういらしてたんですか⁉ あ、この前の大会すごかったですね、三位なんてなかなか取れないですよ!」
「はっはっはっ、ちょろいもんだぜ」
「ダメだよお兄ちゃん。二年生に負けたなんて、年上の威厳ないよ」
「アヤァ、ずいぶん辛口に育ったんだなぁ!」
「よおし、久しぶりに打つかー!」
「中嶋じゃん、お前も練習すんの?」
「あ、おれがなかちん呼んどいたー」
「ちょっと中嶋君、今日は私とデートじゃなかったの⁉」
「ああっ、みさ子ちゃんごめん、忘れてた! てか、なんでここが分かったの⁉」
「あなたの携帯電話に発信機を付けといたわ! これでどこにいても丸分かりなんだからね!」
「こええええ!」
「おいハジメ、どうすんだよこいつら?」
「まあ、いいんじゃね? 初心者同士で打たせてりゃ……」
「お前ら全員揃ったかー?」
「あれ、三神先生いたんですか?」
「大人数で練習って聞いてな、念のため顧問同伴だ」
「先生、いつもどおり暇なんですね」
「誰が暇だハジメてめえ! 悪かったな、旦那どころか彼氏もいないどフリーで!」
「先生ごめんなひゃい! 口が破けます、いひゃい!」
「あははっ、ユウヤと同じくらい面白い人ばっかりだねー!」
「あーもううっせえ! さっさと打つぞ!」
ここまで読んでくださった方がいましたら、本当にありがとうございました。感想など頂けると幸いです。