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その20

「またメール送るから、百通くらい送るからー!」

「あははっ、送りすぎだよー」

 手を振ると、ケイ君が手を振り返してきた。部室をあとにする。

 下駄箱で靴を履き、外に出る。校門に向かいながら、ユウヤのことを考えていた。

 このまま放置したらぜってえ辞めるな。おれだったら来づらくなるし。かと言って変に首突っ込んでもなぁ……。とにかく事情を理解しないと手の出しようがない。じゃあ、どこで情報を? う~ん……。

 校門を抜け、バス停に立ちながら頭ん中でぐるぐる考えるけど、良い案が出ない。そんな内にいつの間にかバスが目の前に停車した。乗り込み、後部座席に座った。

 ドアが閉まろうとする直前に、別の乗客が滑り込むように乗ってきた。二人の、おれと同じ高校の制服を着た女の子。てか、アヤちゃんいるじゃん! ええ⁉ やばい、なんか緊張してきた! 部活帰りか? やっぱかわいい。

 まずい、こっちに来る! 向こうがおれに気づく前に顔を伏せた。おれの二つ前の座席に二人が座った。よし、やり過ごしたみたいだ。

 アヤちゃん今日は髪を後ろで結んでる。うなじが、うなじがああああ!

 落ち着けおれ。こんな偶然滅多にねえんだ、今日こそアヤちゃんとの接点を作るチャンスだろ。とりあえず隠れてしまった以上、不自然な行動に出るのはアウトだ。プロは百パーセントの安全を確保してからアクションを起こす。焦って全てをおしゃかにするのは三流のすることだぜ。ここは冷静に様子を窺うことにしよう。あれ? おれ、さっきまで重要なことで悩んでた気がするけど……ええい、そんなことどうでもいい! おれは今できることにベストを尽くすぜ!

 どうやらアヤちゃんと一緒にいる女の子は同じ一年生のようだ。校章やネクタイの模様の色が垣間見える。部の仲良しペアで帰宅ってとこか。

 問題はアヤちゃんにどうアピールするかだが、友達といる以上、二人の時間を奪うような真似したくない。実際、楽しそうに話してるなぁ。会話を盗み聞きしたりはしないけど、ちょくちょく声あげて笑って、前におれらの部室に来た時と全然違くね?

「……そういえば……アヤ専用の練習…………なんで……」

「……私が……やめてくださいって……先生も分かってくれて…………」

 途切れ途切れではあるものの、聞こうとしてないのに二人の会話が耳に入ってきちまう。ダメだ、盗み聞きなんて最低だろ!

「じゃ、またねー!」

 途中のバス停でアヤちゃんの友達が降りた。うおお、これは話しかけるチャンスか⁉ え、ちょっと待て、おれとアヤちゃんの共通の話題って……卓球? あんま詳しくないぞ? 下手したらそんなことも知らずに卓球してるの? って幻滅される可能性も……。どうしよう、嫌な汗が出てきた。ここはあえて、卓球以外の話題だろ。


『好きな曲なにー?』

『……ないかな』

『休みだしどっか出かけるの?』

『別に……』

『そうなの? おれ今度友達と海行くんだ! 結構泳ぎ得意なんだよ』

『ふーん』


 だめだあ! この前話した時と同じ雰囲気だと、間違いなく無関心な答えしか返ってこねええええええ! 一人延々と喋るだけか? おれ超うざいだけじゃんっ!

 ……やっぱここは卓球のことを、初めてアヤちゃんを見た時のことを話そう。部活見学の日、ユウヤがなにを見に行ったのか気になって二階に上がって、先輩相手に打ち勝つ、格好良くてかわいいアヤちゃんを見つけた時の、あの感情を伝えよう。

 席を立った。アヤちゃんの座席まで、一歩、二歩……あ。

 音はたてずにダッシュで引き返した。あっぶねー! アヤちゃんヘッドフォンつけて外眺めて、めっちゃ一人の世界入ってたー! 目に見えない分厚い壁あったよぜってえ! てかイヤフォンじゃなくてごついヘッドフォンとか、すんげえ意外、かわいいなちくしょう!

 しどろもどろしてる間に駅に着いちまった。アヤちゃんがバスから降り、駅の中へ入っていく。だがおれは至って冷静。なぜならアヤちゃんとユウヤは小学校からの幼馴染。それすなわち住んでる場所もそう遠くないはずだから、ユウヤと同じ方向の電車にアヤちゃんも乗るはず。ならおれも途中まで同じ電車だから、車内で話しかければオールオッケイ! 完璧だ、つけ入る隙がないぜ。

 改札を抜けると、ホームに立つアヤちゃんが見えた。アヤちゃんが車両に入っていく。よし、あとは同じ車両に乗って、偶然を装って話しかれば……。

 自然に、電車に乗り込んだ。ちょっと下向いて携帯いじりながら、今どきの平凡な少年として何食わぬ顔で……さあ、ここでふっと視線をあげればそこにアヤちゃんがっ!

 目の前に、大勢の人が立ち並んでいた。あれ、アヤちゃんどこ……? 満員電車とは予想外でした。


ハジメ視点その1。ちなみに私はうなじ好きではないですよ。……本当だ信じてくれ!

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