その2
放課後、ハジメと一緒に職員室へ向かうと、職員室前に見慣れない生徒が一人立っていた。上履きの色からしてオレらと同じ一年生だ。ハジメが話しかけた。
「君、もしかして卓球部に入りに?」
「はい! えと、戸田さんですか?」
職員室前のやりとりで一人置いてけぼりをくらう。
「ハジメ、誰?」
「あ、ぼく、牧野敬といいます。ポスターを見て来ました」
「ポスター?」
「そそ、これこれ」
ハジメは自慢げに鞄から男子卓球部員募集の旨を書いたポスターを出した。
「お前っ、創れるかどうかも分かんないのにそんなの貼ったのか?」
「創るっつってんだろー」
「てか何だお前の行動力、どんだけアヤのこと好きなんだよ!」
「いや、そんなんじゃねえって」
「牧野君、オレはただの付き添いだから。あとは二人で頑張って」
二人に背を向け、廊下を歩き出した。
「ユウヤ、お前だって卓球やりたいんじゃねえのかよ⁉」
「全然」
振り返らずに階段を下りた。
風が冷たい。バスはまだ来ない。学生たちが長蛇の列をつくってバスを待つ。面倒事を避け、周りと同じような生活をする。風は冷たいけど、そうすれば強い風当たりを受けることもない。これでいいんだ。
もう、卓球することないのかな…………?
もう、アヤと話すことも、ないのかな…………?
バスが見えた。それと同時に、携帯電話がメールの受信を知らせた。
ため息を一つつき、次には列を抜け、学校へと歩き出した。
ハジメからのメール。
『助けて!』
ハジメからの指示で体育館二階の卓球場へと向かう。体育館に入るとカコン、カコンとピンポン球を打つ音が単発的に聞こえた。どうなってんだ?
階段を上ると、一台の卓球台を多数の女子が囲み、その中に間を空けて牧野君が立っていた。状況が呑み込めない。牧野君に声をかける。
「あっ、さっきの――」
「橋本優弥だ。どうなってんの?」
「それが、先生と男子卓球部の話をしようと職員室に入ろうとしたら、女子卓球部の人達に呼び止められて、その、妨害されて……」
「それで、卓球で勝負?」
「はい、先に一セット取ったら認めてやるって。でも見てられない程差があって……」
台に目を向けると、ハジメがぎこちなく構えている。向かいに立つのは、またもやアヤだった。しかもかなり力の入りようだ。初心者じゃ反応できない速さのサーブを、バックやミドルの奥深くに突き刺す。ハジメは当然レシーブもできずに、一発で終わる。卓球は頭脳戦と言うが、、それ以前に技術の差がありすぎる。
「アヤちゃん、どんどんやっちゃってー」
「……はい」
「相手よわっ」
逆転劇もなく、ハジメは負けた。
「ユウヤ、助けてくれー!」
……ヒソヒソ……ねえねえ……次どうする? ……今来た奴で最後にしようよ……もう一人の子かわいいよね……だよね! ……癒し系な……垂れ目だけど顔きれい……ヒソヒソ……。
「コホン。それじゃあ、もう諦めたら?」
「ユウヤ~」
女子卓球部もハジメもオレを見てきて、さてどうしたものか。アヤに勝てんのか? てか、なんでオレが?
「じゃあ、次はぼくが!」
牧野君が意を決して名乗り出た。
「「「ダメッ!」」」
アヤ以外の女子卓球部員が声を合わせて牧野君を制止。さっきの試合といい、このプレッシャーのかけ方といい、なんてえげつないんだ。
「オレがやります」
若い人向けに書いているつもりなので、口調など、全体が砕けた文となっています。若者風と考えれば考えるほど分からなくなります。人はいつから若者ではなくなるのでしょうか? 過去を顧みるようになったらでしょうか?